今日のテーマは「糖質制限をより成功させるためのあれこれ」。
糖質制限は簡単に、しかも誰にでもできる、健康な状態を保つための食事療法です。
ですがそれを行つたときに、カラダに現れる変化というものは、厳密にいえば一人ひとり違います。
糖質制限での効果を引き出すためには、まずどのような栄養素が不足しているのかを突き止めることです。
そしてその不足している栄養素を意図的に摂取して十分なレベルまで引き上げることがポイントとなります。
糖質制限の結果が思わしくないという人は、それまでの生活でなんらかの栄養素が欠乏している可能性が高いのです。
欠乏しているのは食事から断った「糖」ではないということをまず理解する必要があります。
特定の栄養素の欠乏が、糖質制限によって明らかになった、ということなのです。
赤血球によって酸素が運ばれてきたあとは、エネルギーエ場であるミトコンドリアが活躍します。
ビルビン酸はミトコンドリアに入り込んで、段階的にミトコンドリアの膜の上での化学エネルギーに変換されます。
さらにそのエネルギーを使い、細胞が利用できるATPというエネルギー物質がつくられます。
この仕組みだと酸素の膨大なエネルギーを小出しに利用するため、解糖系の15倍のエネルギーを作ることができます。
筋トレや100 m走のような激しい運動以外なら、ミトコンドリアを使ってエネルギーをつくるほうが本来の細胞の仕事ができるのです。
では脂肪はどうでしょう。
実は脂肪も、ミトコンドリアを使ってエネルギーに変えることができるため、大きなエネルギーをつくることができます。
脂肪は安静時のほか、ウオーキングや長時間のラマラソンなどではメインのエネルギー源になるのです。
脂肪は同じエネルギーをつくるのにブドウ糖の重量の半分以下という効率の良いエネルギー源です。
では、なぜ脂肪は余計に溜まってしまいがちになるのでしょうか?
それは、すでに糖質によって作られるエネルギーが余っているからです。
ご飯、パン、麺類、糖類などを摂り過ぎると、どんなことが起こるのか?
食事で取り込んだ炭水化物は、小腸でブドウ糖などの単糖類に分解され、吸収されます。
血液中に入った糖の約50%は、門脈と呼ばれる肝臓に入る太い血管を通って肝臓に取り込まれます。
残りは血液に混ざって全身を駆け巡ります。
血液中の糖は必要に応じて筋肉や脳のエネルギーとして使われることになります。
そして、余った糖は皮下脂肪や内臓脂肪として軽量化されて蓄えられます。
さらに糖質が過剰に摂取された場合、余った糖は肝臓に蓄積され脂肪肝になります。
またストレスも問題で、ストレスが持続すると副腎からコーチゾールというホルモンが分泌されます。
その結果として、血糖は上昇し、内臓脂肪が蓄積しやすくなります。
内臓脂肪が長期に居座ると、脂肪細胞から分泌されている生理活性物質(アディポカイン)のバランスが悪くなります。
そして悪玉アディポカインによつて肝臓に炎症が起きるのです。
つまり善玉アディポカインの分泌が低下することで血圧や血糖値を上げたり、動脈硬化を進行させます。
これが脳梗塞や心筋梗塞のリスクとなるわけです。
アディポカインのバランスの悪化はインスリンの効きを悪くします。
その結果、細胞が糖を十分取り込めなくなリ、エネルギー不足となります。
特に脳は大きなエネルギーが必要になるため、インスリン分泌がますます促進されることになります。
血液中に大量のインスリンが分泌されるようになると、腎臓の塩分排泄機能を妨げたり、交感神経を刺激して血圧を上げます。
一方、脳のエネルギー不足は糖新生をもたらし、血糖値が高くなり糖尿病の引き金になるのです。
そしてこれがまた脳のインスリン抵抗性を強めるという、悪循環を繰り返すのです。
さらにこれは認知症にもつながってゆきます。
高濃度のインスリンは細胞の分裂増殖を促すので、不必要な細胞の自動的な(生理的)な死であるアポトーシスを起こしにくくします。
つまり、ガンが発生しやすくなるのです。
糖質制限には、いくつかの段階と種類がある
糖尿病の患者さんに対して日本で初めて入院による糖質制限療法を行った江部康二医師(高雄病院)は次のように3つのレベルを設定されています。
①スーパー糖質制限食(1食の糖質量を20g以内、1日の糖質量を30から60g程度に抑える)
②スタンダ!ド糖質制限食(1日の糖質量130g以内)
③プチ糖質制限食(夜だけ主食を抜く)
筆者が行っているのは、スーパー糖質制限食です。
MEC食という、肉200g、卵3個、チーズー20gを∞回ずつよく噛んで食べて、そのあとは何を食べてもよいとする高タンパク高脂質食の食事方法があります。
タンパク質量は約75gになるので、一つの目安になるでしょう。
チーズやゆで卵は、小腹が空いたときの、つまみにしています。
糖質制限をやってはいけない人
血糖値の維持のためには肝臓が重要です。
肝硬変の人は低血糖を招くおそれがあるので糖質制限は適用外です。
また、難病指定されている長鎖脂肪酸代謝異常症は、年間10人から50人が発症されています。
低血糖発作や高アンモニア血症発作をきたし、ライ症候群、乳児突然死症候群、インフルエンザ脳症と誤診されてい
ることもありますが、糖質の代わりの脂肪酸をエネルギーにできないので、これも適用外です。
活動性膵炎は絶食が基本治療なので適応外ですが、慢性膵炎の人は低脂質食の必要はないので、消化酵素剤を併用しながらの糖質制限は可能だと考えられています。
腎機能障害については、糖質制限が広まつた当初は適用外とする医師が多かったのですが、糖尿病性腎症の人も多く、腎機能がある程度保たれている場合は低糖質食に高タンパ
ク食あるいは高脂質食で治療する医師も少しずつ増えてきていますので、主治医や糖質制限に詳しい医師にご相談ください。
最後に、インスリンや糖尿病治療薬を使用されている人は、糖質制限食によつて低血糖の恐れがあるため、医師の監督のもとで行ってください。
こまめに摂取する
アスリートの研究によると、タンパク質は1回で20から30gを吸収することができます。
そして3時間ごとに消化吸収できるため、こまめに摂取することで効率良く吸収させることができます。
平昌オリンピック前に靭帯損傷した羽生結弦選手も、タンパク質重視の1日6回食で奇跡の復活を遂げています。
胃腸が弱く、肉はそんなに食べられないという人は、プロテインやアミノ酸の併用が必要になります。
グルタミンというアミノ酸は、胃薬にも使われているのです。
そのため私はアルギニンとグルタミンのパウダーを毎日摂取しています。
糖質制限を行っているのにタンパク質が相対的に不足してくると、脳の栄養(アミノ酸)不足が起こります。
すると精神的に不安定になり、イライラ、不安感、集中力の欠如などの症状が現れます。
病院で行われる血液検査は、それぞれの検査項目について基準値が記されています。
これは、基準値の範囲内であれば心配ないという意味ですが、オーソモレキュラー療法では、その基準値内での微妙な数値の変化を重要視して、栄養や代謝に関する情報を読み取ります。
この方法は、2003年に溝口医師が内科系医学誌に紹介して以来、多方面に応用されています。
ですが残念ながら、医者を育てる医学部では、全く説明されていない方法です。
詳細は溝口先生の最新著書である『最強の栄養療法「オーソモレキュラー」入門』(光文社新書)に詳しく書かれています。
大事なことは、今自分のカラダに何が必要なのかを知り、補給することなのです。
ほとんどの人はタンパク質不足
不足している栄養素として最も多いのが、意外にもタンパク質です。
ある研究外来でタンパク質が足りている人は、おそらく100人いたら1人か2人。
これが現実です。
つまりほとんどが「隠れタンパク質不足」なのです。
食物アレルギーがなければ、卵は毎日少なくとも3個。
肉や魚介類は食べられるだけ食べることです。
乳製品のチーズも積極的に摂る。
では毎日の食事からどれくらいのタンパク質を摂れば十分なのでしょうか?
従来の一般的な栄養学が推奨しているのは、自分の体重(聴) x1.12 (g)です。
体重60キロの人なら60gから72gになります。
厚生労働省が定める基準では、1日に必要な摂取タンパク質の量は18歳以上の男性で60g、女性で50gです。
しかし実際には、これではとても足りないのです。
アスリートの研究データからは体重の1、2倍から2倍のタンパク質が推奨されています。
胃腸の消化能力や肝臓・腎臓の処理能力が十分なら、体重の1、5倍から2倍が推奨されています。
体重が60キロの人なら、1日に90gから120gです。
肉体労働者、スポーツ愛好家、何らかの疾患などで高いニーズがある人は100gくらいを目安にします。
もちろん10代の成長期なら、さらにたくさんのタンパク質が必要です。
ですが、1日100gのタンパク質を食事で摂るのは、簡単ではありません。
日本人に馴染みのある「だし汁」や、豚骨スープ、鶏ガラスープなどは、タンパク質を分解した形のアミノ酸を豊富に含んでいます。
ですから胃腸の弱い方にお勧めです。
プロテインスコアの高い食品を食べる
卵のプロテインスコアは100点満点です。
豚肉は90点、
チーズはプロテインスコア83点で、48gを食べるだけで10gを摂取することができます。
卵はいくら食べても大丈夫です。
しかも肉類や魚介類に比べれば値段も安く、健康に寄与する非常に優秀な食品なのです。
日本糖尿病学会は、糖質制限に否定的なスタンスをとってきました。
しかし、2012年に行われた日本病態栄養学会の年次学術集会における江部医師と糖尿病学会主幹との議論、さらに2013年10月、アメリカ糖尿病学会が正式に糖質制限食を認めたことなどの経緯で、2014年4月から東大病院で糖質摂取比率"%の糖尿病食が提供されるようになりました。
さらに2018年に入ってからは、食品業界でもバラエティー番組でも、糖質制限は大ブレイク中です。
自分で考える
ヴィーガン(ベジタリアン、肉・魚・卵。牛乳・チーズなし、オイル少な目、野菜・果物・全粒穀物・豆類を十分摂って糖尿病を治すという医師や格闘家)、砂糖・果糖でミトコンドリア機能の改善を目指す医師、高強度の筋肉維持のためには糖質対タンパク質の割合は3対1の重量がよいとするデータなど、さまざまな糖質制限反対意見が出てきています。
それぞれうまくいっている人がいるためですが、食事に対する人間の反応というのは実に多種多様です。
それでも「糖質制限」で共通していることがあります。
それは、菓子バン、白米、カップ麺、清涼飲料水を勧める医師はいないということです。
さらに、今の日本では注意しなければならないことが他にもあります。
「糖質」と同じようにショートニングや植物油脂、プドウ糖果糖液糖や、農薬や放射能による海洋汚染の問題です。
最後に糖質制限に関する最新の書籍を紹介しておきます。
上記の記事内容は、下記の書籍から参照引用しています。
IS8N978‐ 4‐ 7745‐ 1730‐ 8 C0047