個人情報泥棒、という言葉がよく聞かれるようになった。他人の個人情報を利用して、その人になりすまして貯金を下ろしたり、商品を購入する犯罪だ。以前は、ハンドバッグの中に入っているクレジットカードや運転免許証が狙われたが、インターネットが普及した今日、わざわざ実物品を盗む必要がなくなった。
モンスター・ドット・コムは、アメリカで最大のオンライン求人サイトだ。一々各会社に履歴書を郵送しなくても、ここを使えば手軽に複数の会社に履歴書が送れる。ABCニュースの報道によれば、現在モンスター・ドット・コムのデータベースには5千万以上の履歴書があり、この数は毎日5万以上の割合で増えているという。
履歴書には名前、住所、それに電話番号が記入されている。だから、必然的に個人情報泥棒たちは、オンライン求人サイトに目をつける。 ワールド・プライバシー・フォーラムの創始者、パム・ディクソン氏はこう語っている。「オンラインの求人サイトが、詐欺師による被害を受ける確率はほぼ100%です。個人情報を狙う詐欺師にとって、求人ウェブサイトほど魅力的なものはありません。人によっては、運転免許証番号や社会保障番号まで履歴書に記入しますから、オンライン求人サイトは貴重な情報で溢れています。」
個人情報を盗まれた、今年28才になる男性の話を紹介しよう。「オンラインで履歴書を送ってから数日後ですが、希望していた会社から電話がありました。いかにもビジネスマン、といった感じの声でした。私を海外に先ず派遣したいので、さっそく国外の指定した銀行に口座を開くように指示されました。恥ずかしい話ですが、私はマネーローンダリング(資金浄化)の犯罪組織に利用されていたのです。」
犯人グーループは、まだ逮捕されていないが、この事件後モンスター・ドット・コムのミッシェル・パール氏は、次のような発表をした。「求人内容に、小切手の現金化や銀行口座開設が条件になっているものに関しては、厳しい審査を行うことにしました。常に犯罪者たちの一歩先を行けるように、新しい個人情報泥棒対策を検討していく計画です。」
身内の者が個人情報を悪用する犯罪も増えている。家族に恥ずかしい思いをさせたくない、という理由で名前が公表されていないので、「Aさん」と呼ぶことにしよう。Aさんが個人情報を盗まれた、と知ったのは自動車ローンを銀行から断られた時だった。理由はAさんが抱える15万ドルの借金だ。
「15万ドル!?私は借金などしたことはありません。しかし、銀行員から証拠になる書類を見せられた時、私は溢れる涙を止めることができませんでした。15万ドルの借金をしたのは、私の母だったのです。まだ私が8才の頃、母は私の社会保障番号を使って、何枚ものクレジットカードを手に入れていたのです。どう考えても、こんなことをした母が信じられません。」
ABCニュースによれば、子どもは絶好のターゲットだという。上記Aさんの実例が示すように、子どもが個人情報を盗まれたことを発見するのは、かなりの年数が経過してからだ。このような被害を防止するために、現在議会では18才以下の未成年者に発行された社会保障番号の監視法案が検討されている。
さて、ここでまたAさんに戻ろう。母親のおかげで傷ついてしまったクレジットレポート(信用報告書)。これを直すには、かなりの年月がかかる。だが、壊れた母親との関係を修復するには、それ以上の年月がかかることだろう。