国境を完全に封鎖しろ!不法滞在者を強制送還せよ!政府は新しい機関を設けて、海外からの労働者をもっと厳しく監視するべきだ。中間選挙を控えて、移民が今アメリカで大きな話題になっている。不法滞在外国人が、そんなにアメリカ社会に悪影響を与えているのだろうか?
議会で移民法の改正が討論されているが、エコノミストたちは、こんなことを指摘している。たとえ移民規制がおだやかなものであったとしても、それは多くの業種に影響を与えることになりそうだ。特に建築や農業は、賃金の安い海外労働者に頼っているから、移民規制はコスト増大につながる。もちろん、新規制が実施されれば、不法滞在者に取り上げられていた仕事がアメリカ市民に戻るのだから、失業者がある程度減ることだろう。
JPモルガンのチーフ・エコノミスト、アンソニー・チャン氏はこう述べている。「不法就労者が、アメリカ市民から職を奪っている、とよく耳にしますが、たしかに一定の職種にはそういうことがあるようです。しかし、多くの不法滞在者が就いている職は低賃金ですから、ほとんどのアメリカ市民が避ける職業ばかりです。」
とかく移民問題になると、感情的になってしまう人が多いが、今のアメリカには肝心なことが分かっていない。アナリストやエコノミストは、不法滞在者が米国経済に与えている影響を簡単に調べることは不可能を主張するだけで、それ以上先に話が進まない。もし全ての雇主が米国市民と、合法的に滞在する人だけを雇ったら、それは国内総生産にどう影響するだろうか?政府に支払われる所得税も増えるはずだ。しかし、スタンダード・アンド・プワーズ社のデービッド・ワイス氏によれば、そのような数値を弾き出すことは無理だと言う。
先ず、アメリカ政府は正確な不法滞在外国人数をつかんでいない。これでは計算しようにも、何も計算できない。アナリストの推測によれば、現在アメリカには900万から2000万の不法滞在者がいるようだが、これでは幅がありすぎて使いものにならない。
移民研究センターは、もっと厳しい移民法の必要性を説いている。最近出された報告書によると、2000年3月から2005年3月までの間に創出された雇用の、たった9%がアメリカ市民に行ったようだ。「9%という数字だけを見ると少なく感じますが、これを正しく理解するには、2005年までの強い米国経済を把握する必要があります。新しいビルやオフィスが次々と建築されましたから、当然それに伴って多数の清掃員や駐車場係員などの仕事が生まれたわけです」、とハワード・へイギ氏(労働省)は説明する。
現在、890万人に及ぶアメリカ市民が仕事を探している。「もし本当に政府が国境を封鎖し、不法就労者の取り締まりを徹底するなら、平均労働賃金は上昇することでしょう。しかし、雇用者側は高い賃金を払って、米国市民を採用するでしょうか。たぶん、アウトソースが活発になり、わざわざアメリカ市民を雇うことはないでしょう」、とアンソニー・チャン氏は述べている。
移民の国アメリカ、いよいよ本格的に移民法を改正する時が来たようだ。