先週の急落で、世界の株式市場は3兆1000億ドル(362兆円)におよぶ損害が出たという。日本の国家予算(一般会計予算)が約82兆円だから、正に膨大な金額だ。「今回の大幅下落で、多くの人たちが持ち株を手放しましたが、とうぜん買っている人たちもいます。問題は誰が買っていたかです」、と言うのはファイナンシャル・コラムニストのマイケル・ブラッシュ氏だ。氏の話を要約してみよう。
株価が大きく下がれば、結果として企業の時価総額も下がる。今回の急落で、シティグループ(C)は12月からの利益が全て吹き飛んだ。しかし、マーケットが416ポイント急降下しているその日、インベストメント・バンキング部門の責任者、トーマス・マヘラス氏は7万5000株におよぶ自社株を51ドル7セントで買った。380万ドルに相当する買い物だから、言うまでもなく真剣な金額だ。
シティグループの株主には、シティグループ株の成長率に不満を持つ人たちが多い。中でもサウジアラビアの、アルワリード・ビン・タラル王子は、思い切った経営方針の切り替えを最高経営責任者に要求し、シティグループの株価に対する失望を、まったく隠そうとしない。さすがにシティグループも動き始め、新最高財務責任者として、アメリカン・エクスプレスのギャリー・クリッテンドン氏を抜擢した。
モーニングスター社のクレッグ・ウォーカー氏によれば、今年中にシティグループの業績好転が見られなければ、最高経営責任者のチャールズ・プリンス氏も辞職に追い込まれることになるという。「それだけではありません。大株主の中には、シティグループの分割を提唱する人もいます」、とウォーカー氏は付け加える。
シティグループの持つ強みの一つは、収益の半分近くが、アメリカ国外の営業によるものだ。これが意味することは、成長率の極めて高い国々、新興市場から直接好影響を受けることができる。もう一つシティグループの持つ魅力は、4.1%の高配当利回りだ。アナリストの、ケリー・ライト氏はこう述べている。「シティグループが、株主を満足させることができる日は間違いなくやって来ます。投資者の立場から見れば、現在の株価は買いレベルです。」
Consolidated-Tomoka Land (CTO)も注目したい銘柄の一つだ。デービッド・ウィンターズ氏(ウィンターグリーン・アドバイザーズ)は、先週Consolidated-Tomoka Landを約130万ドル分買い足している。 ウィンターグリーン・アドバイザーズは投資会社だから、正確には内部関係者ではない。しかし、10%以上の株を保有する大株主だ。
ウィンターズ氏の話によれば、Consolidated-Tomoka Land はフロリダ州のデイトナビーチの土地、約120万エーカーを所有している。この土地だけでも、Consolidated-Tomoka Land の時価総額を簡単に上回るという。更に、大株主として、ウインターズ氏はConsolidated-Tomoka Land の経営に積極的にアドバイスしていくことも計画している。
今回の世界的な株式市場の急落で、皆さんはどんなことを学んだだろうか?エコノミストのベン・スタイン氏は、反省の意味も含めて、いくつかの重要な点をあげている。
1、うろたえないこと:
狼狽売り、パニック買いは決して好結果を生むことはない。賢い投資者は、行動を起こす前に必ず考え、それなりのリサーチをするものだ。衝動的な売買をする人たちのほとんどは、投機熱におかされている。
2、常に十分な現金を手元に残しておくこと:
株式市場の動きに関係なく、十分な現金が手元にあることは心強いことだ。今回の急落で、狼狽売りをした人たちの多くは、資金の大半が株に当てられていた。これでは、パニックしても仕方がない。十分な現金は、心の余裕になることを覚えておこう。
それでは、十分な現金とは、いくらくらいの金額だろうか?できれば、一年分の生活費に相当する金額を、現金(マネーマーケットファンドや短期国債)で常に持っていることが好ましい。(最低でも、6カ月分は欲しい。)長期的な立場から見れば、現金は優れた投資とは言えない。しかし、十分な現金無しでは、健全な投資判断ができない。
3、株の下落に正当な理由はいらない:
もちろん、上海相場の大幅下落には原因がある。約1年で100%を上回る上昇を記録していた上海だから、マーケットは完全に投機化していた。しかし、米国のダウ指数が、あそこまでつられ下げするのは、どう考えても納得できない。
新聞やテレビでは、様々な下げ理由が報道されているが、単にそれらを鵜呑みにするのではなく、自分なりによく調べてほしい。持ち株を売るのは、本当に同意できる情報が見つかった時だけだ。
下げ原因の一つとして、アメリカは不況に陥る、という報道がある。私個人的には、不景気の可能性は低いと思うが、仮に不況に陥ったとしよう。過去20年間を振り返ると、景気が低迷する期間は極めて短く、長期投資者には絶好の買いチャンスになっている。もちろん、この投資方法は忍耐が必要になるが、私は天井で株を買って財産を築いた人を一人も知らない。
4、将来を100%正確に予想できる人はいない:
グリーンスパン氏は優秀な連銀議長だった。しかし、氏は数年前アメリカがデフレに襲われる危険性を語っていたことでも分かるように、氏の予想が外れることには定評がある。前連銀議長という肩書きに惑わされてはいけない。(グリーンスパン氏は、急落のあった前日、アメリカが不景気に陥る可能性を語っていた。)
株式市場の長期トレンドは上向きだ。常に十分な現金を手元におき、忍耐強く、パニックすることなく、人が売る時に買う姿勢が大切だ。
今回の世界的な株安は、ご存知のように中国が震源地になった。この大幅下落で慌てたのは、金利の低い円で資金を調達して、利回りの高い国で運用する「円借り取引」をしていた人たち(主にヘッジファンドや大手金融機関)だ。大幅に増え続ける円借り取引は、いつかマーケットに大きな悪影響を与える、と以前から警報を発していた人たちの見方を要約しよう。
円借り取引の終焉は、世界の金融市場に大混乱を引き起こすことになるだろう。具体的な数字は分からないが、少なくとも40兆円にのぼる金額が円借り取引に利用されているから、これらが一斉に売られたら、世界の市場は間違いなく大幅下落になる。
円借り取引は、単に株だけの話ではない。国債、定期預金、不動産、商品市場、とにかく取引できるもの全てに及んでいる。「円借り取引は、マーケット関係者の想像を超える規模に達しています。何らかの理由で、円借り取引が終わるようなことになれば、極めて悲惨な事態になることでしょう」、とHSBCのアナリスト、デービッド・ブルーム氏は言う。
日本の超低金利を利用して、もう10年以上、円借り取引は海外投資家の重要な投資方法の一つになっている。0%に近い金利だから、海外で3.5%の定期預金をするだけでも十分だ。投資が終了したら、通貨を円に替えて日本に返すことになるが、もし円が安くなっていれば為替でも儲けることができる。
ブルームバーグのウィリアム・ぺセック氏はこう述べている。「円借り取引は、あるとあらゆるところに浸透しています。もちろん、グーグル(GOOG)買いにも使われています。ですから、何らかの原因で円高になることは、世界の株式市場に打撃を与えるだけでなく、世界経済にも支障が起きることでしょう。
1998年を思い出してください。ロシアの債務不履行が原因になって、大手ヘッジファンドのロングターム・キャピタル・マネージメントが破綻しました。市場はパニック状態に陥り、約2カ月で円は20%も上昇しました。もしこれと似たような事件が起き、円が急騰するような事態が発生すれば、円借り取引が世界の株式市場を混乱させることは間違いありません。
円借り取引は40兆円におよぶ、と推定されていますが、これはオーストリアの経済規模を上回る数値です。しかし、実際は40兆円をはるかに超える金額です。なぜなら、多数のヘッジファンドの参入で、高レバレッジを利用した投機が頻繁に行われているからです。もし一大事となれば、おそらく連銀は適切な対処をするのは無理でしょう。」
なぜ、マーケットは416ポイントも下げたのだろうか、と朝からテレビでは盛んに討論されている。しかし、一日で4カ月分の利益を全て失った個人投資家たちが知りたいことは、これからどうするべきかということだ。もう株はコリゴリだ、と諦めてしまった人もいるかもしれないが、私たちの気持ちに関係なく、ウォールストリートは常に次の投資テーマを探している。
今回の大幅下落で、株の怖さを初めて知った人が多い。こんな人たちが口を揃えて言うことは、「いい加減な株ではなく、これからは優良株を中心に投資したい」、というものだ。それでは、実際に買えそうな優良銘柄はどれだろうか?MSNマネーの、ジム・ジューバック氏の話を聞いてみよう。
「ある程度の安全性があり、そして平均以上の成長を望める優良銘柄を探すには、世界的な視野でマーケットを検討しなければいけません。例をあげれば、韓国のサムスン電子、ルクセンブルグのTenaris SA(TS)などが国際的な優良銘柄です。
私たち米国投資者は、優良銘柄と聞くと、ペプシ(PEP)、ジョンソン&ジョンソン(JNJ)、それにアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)、といった銘柄を直ぐ思い出します。なぜなら、それらの企業は、毎年のように8%から12%の成長を見せているからです。過去10年間の株価ですが、ペプシは+10.7%、ジョンソン&ジョンソンは+11.6%の割合で毎年伸びています。、(S&P500指数は+6.8%)
それでは、優良株ペプシとジョンソン&ジョンソンの欠点は何でしょうか?先ず、これらはの名前は、あまりにも私たちに馴染み深すぎることです。個人投資家だけでなく、機関投資家にも広く買われている銘柄ですから、決して割安とは言えません。
両社は、アメリカを本拠地にした企業です。たしかに国際企業でもありますが、売上は日本やヨーロッパのように経済成長がゆっくりとした安定した国が中心です。もちろん、アメリカの経済成長もゆっくりですから、両社は急成長をするインドや新興市場から直接大きな恩恵を受けていません。
国際的な優良銘柄としてサムスン電子をあげましたが、もう少し見てみましょう。携帯電話、テレビ、半導体で知られるサムスンの株価収益率は12.5です。同業種のインテル(INTC)は24.3、そしてモトローラ(MOT)は14.5ですから、サムスンの方が割安です。会計方法の違いはありますが、サムスンの株主資本利益率は18.7%ですから、インテルの13.8%より魅力的です。
それでは、あともう3銘柄挙げておきましょう。
鉄とニッケルの大企業Companhia Vale do Rio Doce (RIO)、セメントメーカーのCemex(CX)、そしてパルプのAracruz Cellulose (ARA)です。どれも、米国株式市場に上場されています。」
現在、30年物国債には4.83%の利回りがある。投資コンサルタントの、ドナルド・ラスキン氏によれば、S&P 500指数を国債と仮定して利回りを計算すると6.5%ほどになる。単純に引き算すれば、S&P 500が国債を1.67ポイント上回り、歴史的平均の0.2ポイントをはるかに超えている。だんぜん株の方が有利だから、まだまだ積極的に株を買っていくべきだろうか。ラスキン氏の意見を聞いてみよう。
「過去22年間を振り返ると、株が割安な時、S&P 500指数は三カ月で4.9%の上昇がありました。逆に割高な時は、1.7%に下がっています。期間を12カ月で見ると、割安な時は+18%、そして割高な時は+9.5%です。さて、今日の状況はどうでしょうか?
長期投資を前提にしますが、私の評価方法によれば、現時点で株は割安です。しかし、割安状態は既に数年以上続いており、現在の割安度は最も浅い、と言うこともできます。現在と同程度の割安度だったのは去年の5月です。5週間で、S&P 500指数が7%下落する、という事態が起きていますから、短期的に考えれば、今は利食ったほうが良いと思われます。
去年の5月の一件は、割安なものは更に割安になることを示す良い実例です。そして私は、今回も去年の5月が繰り返される可能性が高いと思います。もし、ここで一時的な下げが生じ、うまく底値近辺で買うことができれば、30%ほどの利益を得ることができるはずです。
株の浮き沈みに関係なく、長期投資者は株価の割安が続く限り、持ち株を売りません。もし、あなたが短期投資家なら、ここは良い利食いのタイミングです。マーケットは、一時的なプルバックとなるでしょうから、割安な株は更に割安になります。
もちろん、私の予想が完全に外れることも当然ありえます。私の投資モデルは、企業収益のおだやかな減少を前提にしています。もし、おだやかな減速ではなく、大幅な収益急落が起きると国債の方が有利になってしまい、株からの高利益を望めなくなってしまいます。
一つ心配事があります。ひょっとしたら、株は割安でないかもしれません。たしかに分析した結論が割安ですが、これは将来の高インフレを予期している可能性があります。もしそうなら、国債利回りは跳ね上がり、完全に株は不利になります。もちろん、そんな状況が起きれば、連銀は間違いなく金利引き上げ政策に戻ります。
繰り返します。現時点において、株は割安です。短期的にはプルバックが起きそうですから、一先ず利食いを勧めます。しかし、連銀の金利引き上げ再開は、全てを変えることになることを頭に入れておいてください。」