US Market Recap

急落と内部関係者

先週の急落で、世界の株式市場は3兆1000億ドル(362兆円)におよぶ損害が出たという。日本の国家予算(一般会計予算)が約82兆円だから、正に膨大な金額だ。「今回の大幅下落で、多くの人たちが持ち株を手放しましたが、とうぜん買っている人たちもいます。問題は誰が買っていたかです」、と言うのはファイナンシャル・コラムニストのマイケル・ブラッシュ氏だ。氏の話を要約してみよう。

株価が大きく下がれば、結果として企業の時価総額も下がる。今回の急落で、シティグループ(C)は12月からの利益が全て吹き飛んだ。しかし、マーケットが416ポイント急降下しているその日、インベストメント・バンキング部門の責任者、トーマス・マヘラス氏は7万5000株におよぶ自社株を51ドル7セントで買った。380万ドルに相当する買い物だから、言うまでもなく真剣な金額だ。

シティグループの株主には、シティグループ株の成長率に不満を持つ人たちが多い。中でもサウジアラビアの、アルワリード・ビン・タラル王子は、思い切った経営方針の切り替えを最高経営責任者に要求し、シティグループの株価に対する失望を、まったく隠そうとしない。さすがにシティグループも動き始め、新最高財務責任者として、アメリカン・エクスプレスのギャリー・クリッテンドン氏を抜擢した。

モーニングスター社のクレッグ・ウォーカー氏によれば、今年中にシティグループの業績好転が見られなければ、最高経営責任者のチャールズ・プリンス氏も辞職に追い込まれることになるという。「それだけではありません。大株主の中には、シティグループの分割を提唱する人もいます」、とウォーカー氏は付け加える。

シティグループの持つ強みの一つは、収益の半分近くが、アメリカ国外の営業によるものだ。これが意味することは、成長率の極めて高い国々、新興市場から直接好影響を受けることができる。もう一つシティグループの持つ魅力は、4.1%の高配当利回りだ。アナリストの、ケリー・ライト氏はこう述べている。「シティグループが、株主を満足させることができる日は間違いなくやって来ます。投資者の立場から見れば、現在の株価は買いレベルです。」

 Consolidated-Tomoka Land (CTO)も注目したい銘柄の一つだ。デービッド・ウィンターズ氏(ウィンターグリーン・アドバイザーズ)は、先週Consolidated-Tomoka Landを約130万ドル分買い足している。 ウィンターグリーン・アドバイザーズは投資会社だから、正確には内部関係者ではない。しかし、10%以上の株を保有する大株主だ。

ウィンターズ氏の話によれば、Consolidated-Tomoka Land はフロリダ州のデイトナビーチの土地、約120万エーカーを所有している。この土地だけでも、Consolidated-Tomoka Land の時価総額を簡単に上回るという。更に、大株主として、ウインターズ氏はConsolidated-Tomoka Land の経営に積極的にアドバイスしていくことも計画している。

急落で学んだ四点

今回の世界的な株式市場の急落で、皆さんはどんなことを学んだだろうか?エコノミストのベン・スタイン氏は、反省の意味も含めて、いくつかの重要な点をあげている。

1、うろたえないこと:

狼狽売り、パニック買いは決して好結果を生むことはない。賢い投資者は、行動を起こす前に必ず考え、それなりのリサーチをするものだ。衝動的な売買をする人たちのほとんどは、投機熱におかされている。

2、常に十分な現金を手元に残しておくこと:

株式市場の動きに関係なく、十分な現金が手元にあることは心強いことだ。今回の急落で、狼狽売りをした人たちの多くは、資金の大半が株に当てられていた。これでは、パニックしても仕方がない。十分な現金は、心の余裕になることを覚えておこう。

それでは、十分な現金とは、いくらくらいの金額だろうか?できれば、一年分の生活費に相当する金額を、現金(マネーマーケットファンドや短期国債)で常に持っていることが好ましい。(最低でも、6カ月分は欲しい。)長期的な立場から見れば、現金は優れた投資とは言えない。しかし、十分な現金無しでは、健全な投資判断ができない。

3、株の下落に正当な理由はいらない:

もちろん、上海相場の大幅下落には原因がある。約1年で100%を上回る上昇を記録していた上海だから、マーケットは完全に投機化していた。しかし、米国のダウ指数が、あそこまでつられ下げするのは、どう考えても納得できない。
新聞やテレビでは、様々な下げ理由が報道されているが、単にそれらを鵜呑みにするのではなく、自分なりによく調べてほしい。持ち株を売るのは、本当に同意できる情報が見つかった時だけだ。

下げ原因の一つとして、アメリカは不況に陥る、という報道がある。私個人的には、不景気の可能性は低いと思うが、仮に不況に陥ったとしよう。過去20年間を振り返ると、景気が低迷する期間は極めて短く、長期投資者には絶好の買いチャンスになっている。もちろん、この投資方法は忍耐が必要になるが、私は天井で株を買って財産を築いた人を一人も知らない。

4、将来を100%正確に予想できる人はいない:

グリーンスパン氏は優秀な連銀議長だった。しかし、氏は数年前アメリカがデフレに襲われる危険性を語っていたことでも分かるように、氏の予想が外れることには定評がある。前連銀議長という肩書きに惑わされてはいけない。(グリーンスパン氏は、急落のあった前日、アメリカが不景気に陥る可能性を語っていた。)

株式市場の長期トレンドは上向きだ。常に十分な現金を手元におき、忍耐強く、パニックすることなく、人が売る時に買う姿勢が大切だ。

マーケット急落と不景気

どこのチャンネルも話題は世界的な株安だ。今日は、ホフストラ大学で経済学を教える、アーウィン・ケルナー教授の意見を聞いてみよう。

「先ず、先週の416ポイントの下げですが、この数字ばかりに気を取られてはいけません。長期間にわたってダウは上昇が続いていましたから、火曜の下げはパーセンテージで示せば、たった3.3%にすぎません。ですから、今回の下げ方では史上下落率上位10のリストには入ることができません。

よく受ける質問に、火曜のマーケット急落で、米国経済は不況に落ち込む確率が上がったか、というものがあります。極端な回答をすれば、先週の下げが史上下落率上位10内に入る規模のものだったとしても、アメリカが不景気に陥る可能性には何の影響も与えていません。

現在のアメリカには豊富な流動資金があります。先日も話したことですが、私が調べた限りでは、今日のマネー・サプライ(貨幣供給量)は、連銀が金利引下げ政策を実行していた時より早い速度で増えています。ですから、たとえ金利が上がった今日でも、企業や消費者はほとんど問題無く必要な金を簡単に借りることができます。

最近のデータを見ると、銀行の融資は年10%のペースで成長しており、特に企業向けの融資は15%のペースで増えています。全く銀行の貸し渋りが無い状態ですから、おそらく不景気は避けることができるでしょう。

次に挙げたいのは、経済的にショックとなるような一大出来事の不在です。具体的に言えば、実際に経済へ打撃を与えるオイル価格の急騰、戦争、国債利回りの大幅上昇などです。

ダウ指数が下げたことは事実です。しかし、急落したとは言うものの、現在のレベルはまだ去年の同時期より上です。マスコミの報道を見ていると、投資者は多大な被害を受けたように思ってしまいますが、事実は個人投資者のポートフォリオは、ごくわずかな影響を受けただけです。

それでは、米国経済はどうなるでしょうか?過去10回のダウ大幅下げを振り返ると、その後直ぐにアメリカが不景気に陥ったのは、1907年の一度だけです。1987年の暴落を覚えている方は多いと思いますが、22.6%という極端な下げにもかかわらず、アメリカが実際に不況になったのは1990年です。

もちろん、私はアメリカが全く今年不況に陥る可能性が無い、と言っているのではありません。単に、ダウの急落だけでは不況を引き起こすことは無理であることを指摘したいのです。金利引き上げ再開、企業収益の著しい低下、大幅な国債利回り上昇などが起きれば、アメリカはとうぜん不景気に落ち込む可能性があります。」

もっともらしい報道、しかし

先週のハイライトは、火曜のマーケット急落だ。ダウ指数は、瞬時500ポイントを超える下げとなり、言うまでもなく売り物が殺到した。「マスコミは様々な下げ原因を報道していますが、完全に間違っている情報、誤解されやすい情報がほとんでです」、とファンドマネージャーのバリー・リットホルツ氏は言う。氏が指摘する、今回の一件に関する作り話のような報道のいくつかを見てみよう。

1、中国政府が下げ原因: 現在の一般投資者たちによる無謀とも言える株売買を防ぐために、中国政府は証券取引所の会員証券会社に、新たな規制を加えることを発表した。マスコミによれば、これが大幅な下げ原因になったということだが、規制発表があったのは日曜日だ。翌日の月曜、中国市場は最高値を記録している。

2、グリーンスパン前連銀議長の発言が下げ原因: 実際に前議長が言ったことは、「2007年の後半に不景気に陥る可能性もあるが、ほとんどのアナリストやエコノミストはそのような予想をしていない」、ということだ。どう考えても、この言葉が株安を引き起こしたとは思えない。前議長のコメントが報道されたのは月曜の朝だが、その日マーケットはほとんど動かなかった。

3、上海マーケットの大幅下落が下げ原因: 火曜、たしかに上海は8.8%に及ぶ下げになった。しかし、これが米国株式市場を急落させる原因になったとは思われない。なぜなら、同日ハンセン指数はマイナス1.76%、韓国はマイナス1.05%、そして東京は0.52%の下げだった。上海がそれほど重要な市場なら、全てのアジア市場が大きく下げていたはずだ。

4、コンピュータの不具合が下げ原因: コンピュータの集計システムの不調で、3時頃ダウ指数はほんの10分間で250ポイントの下げとなった。しかし、よく考えてほしい。これが起きる前に、ダウは既に290ポイントも下げていたのだ。

5、今回のような急落は健全だ: 健全な下落幅は0.5%から1%までだ。記録的に膨れ上がった出来高が今回特に目立つ。ナスダック100指数に連動するQQQQだけでも、3億株を超える出来高だ。更に、下げ出来高が上げ出来高を圧倒的に上回り、投資心理が大きく変わったことを示している。

6、更にマーケットが悪化するようなら、連銀は金利引下げに踏み切る: それはブルたちが切に望んでいることだ。現に連銀は、そのようなことを実行したことがある。2001年から2003年の不景気の時だが、結果は悪性なインフレを引き起こした。もし今回、利下げをするようなことがあれば、住宅価格の急騰が再開され、原油は75ドルを突破することになるだろう。

株安はだれのせいだ?

世界的な株安になったのは誰の責任だろうか?「今まで聞いた説明は、全て忘れてください。株安の原因は、前副大統領アル・ゴア氏の映画、「An Inconvenient Truth(不都合な事実)」がアカデミー賞を受賞したからです」、と奇妙なことを言うのは、トレンド・マクロリティックス社で投資コンサルタントを務めるドナルド・ラスキン氏だ。少し話を聞いてみよう。

「ゴア氏が、地球温暖化をテーマにした映画で賞を受賞したのは日曜の夜でした。株が崩れ始めたのは火曜ですから、タイミングがずれすぎている、と反論される方もいると思います。

翌日の月曜、テキサス州の電力会社TXUが投資者グループによって450億ドルで買収される、というニュースが報道されました。金額で分かるように、言うまでもなく超大型買収です。もちろん株価は跳ね上がったのですが、マーケットが終了すると、マスコミは次々とTXUに関する「不都合な事実」を報道し始めたのです。

TXUは、石炭を燃料にした11の電力発電所建設計画があったのですが、取り止めを発表していたのです。理由は、環境保護団体による訴訟を避けて、順調に450億ドルの買収を実現させるためです。

TXUの告訴を考慮していた環境保護グループの一つに、国家資源防衛審議会(NRDC)があります。TXUが新発電所の建築を断念したあと、NRDCはこんな声明を出しています。「企業はもはや地球温暖化を無視することはできない。TXUの例が示すことは、環境に対して無関心なビジネスプランは実現不可能ということだ。」

環境を考慮したビジネスプランは大切なことです。中止された11の石炭を燃料にする電力発電所は、コスト的にも安く、環境を破壊するようなことはありません。そんな事実があるのですが、NRDCは更にこう続けています。「今日テキサスで地震が起きたのです。TXUの実例は、ワシントン、そしてウォールストリートを揺れ動かすことになるでしょう。」

さて、TXUの地震が最初に襲ったのは上海です。結果は皆さんのご存知のように、上海マーケットは9%の大幅下落です。TXUが上海を下げた?ウソだ!、と思われることでしょう。もちろん、比喩的な言い方です。

地球温暖化ではなく、現在中国が抱えている問題は、経済の過熱です。経済成長を冷やすために中国政府は様々な提案をしましたが、どれもシンボリックなもので、現実性が無いものばかりでした。しかし、火曜に流れた噂はインパクトがありました。株の儲けに20%の税金を課す、というのです。」

分かりにくい話だが、こういうことだ。中国政府は否定しているようだが、政府は税金を武器にして中国マーケットを冷やすことに成功した。アメリカの場合は、アル・ゴア氏の民主党が議会の半分以上を占めている。民主党は環境保護支持政党だから、NRDCの味方だ。中国と同様に、米国企業も政府という圧力に屈したわけだ。

ゴア氏が株安原因、とラスキン氏は言っているが、ビジネスや株式市場に政府が介入してはいけない、ということを強調したかったのだろう。

想像以上に拡大している円借り取引

今回の世界的な株安は、ご存知のように中国が震源地になった。この大幅下落で慌てたのは、金利の低い円で資金を調達して、利回りの高い国で運用する「円借り取引」をしていた人たち(主にヘッジファンドや大手金融機関)だ。大幅に増え続ける円借り取引は、いつかマーケットに大きな悪影響を与える、と以前から警報を発していた人たちの見方を要約しよう。

円借り取引の終焉は、世界の金融市場に大混乱を引き起こすことになるだろう。具体的な数字は分からないが、少なくとも40兆円にのぼる金額が円借り取引に利用されているから、これらが一斉に売られたら、世界の市場は間違いなく大幅下落になる。

円借り取引は、単に株だけの話ではない。国債、定期預金、不動産、商品市場、とにかく取引できるもの全てに及んでいる。「円借り取引は、マーケット関係者の想像を超える規模に達しています。何らかの理由で、円借り取引が終わるようなことになれば、極めて悲惨な事態になることでしょう」、とHSBCのアナリスト、デービッド・ブルーム氏は言う。

日本の超低金利を利用して、もう10年以上、円借り取引は海外投資家の重要な投資方法の一つになっている。0%に近い金利だから、海外で3.5%の定期預金をするだけでも十分だ。投資が終了したら、通貨を円に替えて日本に返すことになるが、もし円が安くなっていれば為替でも儲けることができる。

ブルームバーグのウィリアム・ぺセック氏はこう述べている。「円借り取引は、あるとあらゆるところに浸透しています。もちろん、グーグル(GOOG)買いにも使われています。ですから、何らかの原因で円高になることは、世界の株式市場に打撃を与えるだけでなく、世界経済にも支障が起きることでしょう。

1998年を思い出してください。ロシアの債務不履行が原因になって、大手ヘッジファンドのロングターム・キャピタル・マネージメントが破綻しました。市場はパニック状態に陥り、約2カ月で円は20%も上昇しました。もしこれと似たような事件が起き、円が急騰するような事態が発生すれば、円借り取引が世界の株式市場を混乱させることは間違いありません。

円借り取引は40兆円におよぶ、と推定されていますが、これはオーストリアの経済規模を上回る数値です。しかし、実際は40兆円をはるかに超える金額です。なぜなら、多数のヘッジファンドの参入で、高レバレッジを利用した投機が頻繁に行われているからです。もし一大事となれば、おそらく連銀は適切な対処をするのは無理でしょう。」

国際的な優良銘柄

なぜ、マーケットは416ポイントも下げたのだろうか、と朝からテレビでは盛んに討論されている。しかし、一日で4カ月分の利益を全て失った個人投資家たちが知りたいことは、これからどうするべきかということだ。もう株はコリゴリだ、と諦めてしまった人もいるかもしれないが、私たちの気持ちに関係なく、ウォールストリートは常に次の投資テーマを探している。

今回の大幅下落で、株の怖さを初めて知った人が多い。こんな人たちが口を揃えて言うことは、「いい加減な株ではなく、これからは優良株を中心に投資したい」、というものだ。それでは、実際に買えそうな優良銘柄はどれだろうか?MSNマネーの、ジム・ジューバック氏の話を聞いてみよう。

「ある程度の安全性があり、そして平均以上の成長を望める優良銘柄を探すには、世界的な視野でマーケットを検討しなければいけません。例をあげれば、韓国のサムスン電子、ルクセンブルグのTenaris SA(TS)などが国際的な優良銘柄です。

私たち米国投資者は、優良銘柄と聞くと、ペプシ(PEP)、ジョンソン&ジョンソン(JNJ)、それにアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)、といった銘柄を直ぐ思い出します。なぜなら、それらの企業は、毎年のように8%から12%の成長を見せているからです。過去10年間の株価ですが、ペプシは+10.7%、ジョンソン&ジョンソンは+11.6%の割合で毎年伸びています。、(S&P500指数は+6.8%)

それでは、優良株ペプシとジョンソン&ジョンソンの欠点は何でしょうか?先ず、これらはの名前は、あまりにも私たちに馴染み深すぎることです。個人投資家だけでなく、機関投資家にも広く買われている銘柄ですから、決して割安とは言えません。

両社は、アメリカを本拠地にした企業です。たしかに国際企業でもありますが、売上は日本やヨーロッパのように経済成長がゆっくりとした安定した国が中心です。もちろん、アメリカの経済成長もゆっくりですから、両社は急成長をするインドや新興市場から直接大きな恩恵を受けていません。

国際的な優良銘柄としてサムスン電子をあげましたが、もう少し見てみましょう。携帯電話、テレビ、半導体で知られるサムスンの株価収益率は12.5です。同業種のインテル(INTC)は24.3、そしてモトローラ(MOT)は14.5ですから、サムスンの方が割安です。会計方法の違いはありますが、サムスンの株主資本利益率は18.7%ですから、インテルの13.8%より魅力的です。

それでは、あともう3銘柄挙げておきましょう。

鉄とニッケルの大企業Companhia Vale do Rio Doce (RIO)、セメントメーカーのCemex(CX)、そしてパルプのAracruz Cellulose (ARA)です。どれも、米国株式市場に上場されています。」

ブルマーケット終了!?

寄付きまであと1時間、いつものように投資者たちはチャンネルをCNBCに合わせる。上海総合指数は前日比8.84%の大幅安、のニュースがいきなり飛び込んで来る。次々と各国の市況も映し出されているが、上げているところは一つも無い。

さっそく先物市場を見れば、ダウ96ポイント安、ナスダック31ポイント安、そしてS&P500は13ポイント安。間違いなく、寄付きは売り物殺到だ。とうぜん、個人投資家の質問はこれだ。「持ち株は全部売るべきだろうか?」アナリストたちの意見を要約すると、「中国だけに限らず、新興市場に一時的な下げが来るのは時間の問題だった。たしかに今日の下落幅はきびしいが、長期的な悪影響になることはない。」

どうも歯切れが悪い。実際に株を売買している人、ダグ・カシュ氏(ファンドマネージャー)の話を聞いてみよう。「過去数週間にわたって説明してきたように、私は完全に空売りを中心に行動している。もちろん、私のことを何度も狼だ!と叫んだ少年に例える人もいることだろう。

現在の状態では、危険を冒してまで株を買う意味は無い。ロバート・マーシン氏(ディファイアンス・アセット・マネージメント)も指摘しているが、バリューライン総合指数を構成する3000銘柄の中間株価収益率は20.5だ。2000年にマーケットが天井を形成している時は14.5だったから、明らかに今日の株は割高だ。

なぜ、私は株を避けているのかを、もう一度簡単に説明しよう。

1、大手銀行株、証券株の頭打ち。

2、ヘッジファンドによる買い残が記録的な高レベルに上がっている。既に目一杯買ってしまった、という状態だから、あとは売るしかない。また、AAII(米国個人投資家協会)の調べによれば、弱気論を唱える投資者数が、2004年12月以来最低の水準に落ち込んでいる。

3、中国市場におけるデイトレードの異常なブームは、正に1990年後半の米国インターネットバブル時代に酷似している。

4、熱狂的な合併吸収。

5、既に4年以上継続しているブルマーケット。1937年、1962年、そして1987年に起きた暴落は、いずれも4年以上続いたブルマーケットの後に発生している。

繰り返そう、これからは空売りがマーケットの主流だ。」

まだ大引けまで少し時間があるが、現在ダウ指数はマイナス372ポイント(2.98%安)とパニックするには十分な震度がある。他の指数ほど知られていないが、ニューヨーク証券取引所総合指数は180ポイントを超える下げとなり、プログラムトレードが規制された。もう一つ付け加えれば、取引が一時停止されるには、ダウ指数が1250ポイント以上下げる必要がある。

オンライン個人融資サイトは安全?

プロスパー・ドット・コム(Prosper.com) 、というウェブサイトが話題になっている。Prosperには、繁栄する、繁盛する、成功するなどの意味があるが、このホームページには、お金を貸したい人と借りたい人が集まる。オンライン・オークションで知られるeBayの仕組みに似ている、とフォーブス誌はProsper.com を説明している。少し記事を読んでみよう。

車を買いたい、家の頭金が欲しい、と金を借りたい理由は人によって異なるが、そんな人たちに、グレゴリー・ベケット氏はプロスパー・ドット・コムを通して余剰資金を貸すことにした。既に貸した金額は87万8000ドル(1億536万円)におよび、人数に直せば163人の人たちが、平均金利26.4%で氏から個人融資を受けている。

借りることのできる金額は2万5000ドル(300万円)までに限られ、ローン期間は長くても3年までだ。金利は、クレジットカードよりも、3ポイントから5ポイントほど低くなるのが通常だが、借りる人のクレジット歴が一番の金利決定要素になる。たとえば、借りたい人のクレジット歴がAクラスと判断されると、金利は8.8%になり、クレジットカードの13.8%より得だ。

なぜ、プロスパー・ドット・コムの金利は、一般のクレジットカードより低いのだろうか?簡単に言えば、安い経営費だ。借金の申し込みがあると、プロスパーは申込者のクレジット歴を、サンフランシスコの会社を使って調べる。クレジット歴は、最高のAAから最低のHR(ハイリスク)までの格付けがあり、オンラインにこの格付けが公表される。

借りたい人は、使用目的、金額、希望金利などをオンラインで表示して、融資者が現れるのを待つ。ようするにeBayと同じ要領で、有利な条件を示した融資者を借金申込者が選べる仕組みだ。言うまでもなく、危険度の低いAAクラスの人には、多くの融資希望者が現れる。

心配になることは、個人融資をして、本当に金が戻ってくるだろうか?プロスパー・ドット・コムの1年におよぶビジネス歴を振り返ると、0.5%が完全に支払い不可能になり、6.5%が月々の支払いに遅れている。(クレジットカードの場合は、完全支払い不可能4.2%、月々の支払い遅れ4.4%)

今のところ、ベケット氏から金を借りた人で、完全に支払いが不可能になった人は一人もいない。支払いが遅れている人は3人だけだから、今年は少なくとも15%ほどの利子を稼げるという。

まだ、ごく限られてはいるがヘッジファンドもプロスパー・ドット・コムから利益をあげている。ジョナサン・ホーニック氏(シカゴのヘッジファンド)は、AAの格付けではなく、ある程度危険性の高い借金申込者を中心に融資して、既に15万ドル以上の利益を手に入れている。

株は買い、しかし

現在、30年物国債には4.83%の利回りがある。投資コンサルタントの、ドナルド・ラスキン氏によれば、S&P 500指数を国債と仮定して利回りを計算すると6.5%ほどになる。単純に引き算すれば、S&P 500が国債を1.67ポイント上回り、歴史的平均の0.2ポイントをはるかに超えている。だんぜん株の方が有利だから、まだまだ積極的に株を買っていくべきだろうか。ラスキン氏の意見を聞いてみよう。

「過去22年間を振り返ると、株が割安な時、S&P 500指数は三カ月で4.9%の上昇がありました。逆に割高な時は、1.7%に下がっています。期間を12カ月で見ると、割安な時は+18%、そして割高な時は+9.5%です。さて、今日の状況はどうでしょうか?

長期投資を前提にしますが、私の評価方法によれば、現時点で株は割安です。しかし、割安状態は既に数年以上続いており、現在の割安度は最も浅い、と言うこともできます。現在と同程度の割安度だったのは去年の5月です。5週間で、S&P 500指数が7%下落する、という事態が起きていますから、短期的に考えれば、今は利食ったほうが良いと思われます。

去年の5月の一件は、割安なものは更に割安になることを示す良い実例です。そして私は、今回も去年の5月が繰り返される可能性が高いと思います。もし、ここで一時的な下げが生じ、うまく底値近辺で買うことができれば、30%ほどの利益を得ることができるはずです。

株の浮き沈みに関係なく、長期投資者は株価の割安が続く限り、持ち株を売りません。もし、あなたが短期投資家なら、ここは良い利食いのタイミングです。マーケットは、一時的なプルバックとなるでしょうから、割安な株は更に割安になります。

もちろん、私の予想が完全に外れることも当然ありえます。私の投資モデルは、企業収益のおだやかな減少を前提にしています。もし、おだやかな減速ではなく、大幅な収益急落が起きると国債の方が有利になってしまい、株からの高利益を望めなくなってしまいます。

一つ心配事があります。ひょっとしたら、株は割安でないかもしれません。たしかに分析した結論が割安ですが、これは将来の高インフレを予期している可能性があります。もしそうなら、国債利回りは跳ね上がり、完全に株は不利になります。もちろん、そんな状況が起きれば、連銀は間違いなく金利引き上げ政策に戻ります。

繰り返します。現時点において、株は割安です。短期的にはプルバックが起きそうですから、一先ず利食いを勧めます。しかし、連銀の金利引き上げ再開は、全てを変えることになることを頭に入れておいてください。」
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