思えば、評判の悪い最高経営責任者だった。辞めるのも時間の問題、と言われていたが、とうとうシティグループのチャック・プリンス氏が辞任した。サブプライム、そして不動産担保証券で、評価損が更に80億から110億ドル増えるというのだから、正に退任するしか他に道は無かったわけだ。
職を失ったと言っても、プリンス氏を、米国の一般サリーマンと比較することはできない。過去4年間で得た報酬は5310万ドル(約60億円)、それに9400万ドル相当(約107億円)のシティグループ株も保有しているから、貧困生活に陥る可能性は皆無だ。
usatodayに寄せられた読者のコメントに、こんなものがあった。
「覚えてますか?高金利クレジットカードを始めたのはシティグループです。こんな会社は倒産してしまえば良いのです。」 jtwtさん
フォーチュン誌の報道によれば、現在米国消費者が抱えるクレジットカードの借金は、史上最高の9150億ドルに達している。金額的には、問題になっているサブプライムと、ほぼ同額だ。ドイツ銀行のアナリスト、マイケル・メーヨー氏は「クレジットカードは、先天的時限爆弾のようなものですから、状況を慎重に監視しなくてはいけません」、と述べている。
最悪のシナリオを、ピーター・ガンベル氏(フォーチュン誌)は、こう説明している。
不動産担保証券や債務担保証券のように、消費者によるクレジットカードの借金も証券化されている。既に、月々の支払いが不可能になった人たちの数が増え始めているが、これが急ピッチに増え続けると、単に銀行が損をするだけでなく、債務担保化された証券価格が下がる。担保化された証券の下げが進めば、投資していたヘッジファンド、ミューチュアルファンド、それに年金ファンドが損を出すことになり、場合によってはサブプライムと同等の混乱になるだろう。
このシナリオは現実性を欠く、と非難するアナリストは多い。しかし、ガンベル氏はこんな例も挙げている。
アメリカとイギリスの状況がよく似ている。違いは、住宅市場のピークが早かったイギリスは、金融周期的には、アメリカより約18カ月先を進んでいることだ。2005年の終わり頃から、イギリスでは、クレジットカードの支払いが不可能になった人たちの数が50%以上増え、銀行の評価損も大幅に上昇した。
更に、先月のアンケートによれば、イギリスの住宅保有者の6%は、クレジットカードで月々の住宅ローンを払っている。言うまでもなく、自殺的な行為だと思う。こんなイギリスでの状況が、大西洋を越えて、アメリカに上陸しないことを願うばかりだ。
(参考にしたサイト:http://www.usatoday.com/money/companies/management/2007-11-04-citigroup-prince_N.htm
http://money.cnn.com/2007/10/29/magazines/fortune/consumer_debt.fortune/index.htm?postversion=2007103013)
現在アメリカには、売りに出されている中古住宅が440万件ほどある。全米不動産業協会の調べによれば、これらの住宅が全て売り尽くされるには10.2カ月の期間が必要になり、これほどの高水準に達するのは1998年の2月以来だという。住宅ブームの頂点、2005年の1月は、たったの3.6カ月だったから、いかに今日の住宅市場が落ち込んでいるかが分かる。
先週のマーケットで、一番大きな被害を受けたのは、おそらくウェルケア・ヘルス・プランズ(WCG)に投資していた人たちだろう。先ず、説明する前に週足チャートを見てほしい。
128ドルから、一気に30ドルまで転落してしまった。こんな下げ方だから、トレンドラインを割り始めたところで逃げることができたはず、と思われるかもしれないが、それは無理だったことが下の日足チャートで分かる。
(大きなギャップダウン。寄付いた時点で、既に膨大な損が出ていた。)
まだ詳細は発表されていないが、この暴落は、FBIによるウェルケア・ヘルス・プランズの強制捜査が原因だ。さっそく、株主たちは弁護士を雇って、集団訴訟を起こしている。
不幸にも、もしあなたがこの株を持っていたとしたら、ギャップダウンの寄付きで直ぐ持ち株を処分するべきだろうか。多くのスイングトレーダーたちは、こんなやり方をしている。
1、寄付き直後の5分間は、何もしないで株の動きを見る。
2、5分過ぎたら、最初の5分間の高値と安値に線を引く。
3、次の25分間で、最初の5分間の安値を割った場合は、少なくとも持ち株の半分を売る。
4、30分経過したら、30分間の安値に線を引く。
5、30分間の安値も割るようなら、残りの持ち株を全て処分する。
6、もし、一日中30分の安値を割るようなことがなければ、大引けで残りの株を売る。(または、トレーリングストップを使って処分する。)
(参考にしたサイト: http://biz.yahoo.com/rb/071026/wellcare_connecticut_probe.html?.v=1)
サブプライム問題を象徴する金融機関、カントリーワイド・ファイナンシャルの決算発表は、思ったとおり惨たんたる結果だった。しかし、「最悪の事態を既に乗り切り、第4四半期は黒字に持っていけると思う」、という会社側からのコメントで、金曜のマーケットは強い寄付きになった。
これで、サブプライムは過去のものとなった、と一安心する投資者だが、もちろんまだ他にも不安要素はある。例を挙げれば原油だ。
金曜午前中の取引で、原油価格は瞬時92ドルを突破して、新高値が記録された。バリー・リットホルツ氏(リットホルツ・リサーチ)は、こう語っている。「たしかに原油は高値更新だが、インフレを考慮して計算すると、最高値は1980年4月の101ドル70セントになる。だからと言って、今日のレベルが安いわけではない。この52週間で、原油価格は47.3%の上昇、そして2001年から511%の上昇だ。」
なぜ原油価格は、こうも上がったのだろうか?別に天才でなくても原因は誰でも分かる、とリットホルツ氏は言うが、氏の指摘する五つの要因を見てみよう。
1、世界的な需要の増大
急成長を続ける中国だけでなく、インド、韓国、ロシア、ブラジル、そしてオーストラリアでの原油需要が増加している。
2、ドル安
主要経済国家通貨に対して、ドルは15年ぶりの安値を記録した。財務長官が、「強いドル政策」と言うたびに、ピノキオのように鼻が伸びたら、さぞ楽しいことだろう。
3、イラク、アフガニスタンでの戦争
言うまでもなく、戦争は中東情勢を極めて不安定な状態に陥れる。不安定=高リスクだから、中東からの原油には高い割増料金が要るわけだ。
4、制限された供給量
輸送に必要なタンカー、それにパイプライン、石油製油所が世界的に不足し、需要を十分に満たすことができない。
5、武力を誇示して、イランを威嚇するアメリカ
更に中東問題を悪化させるだけだから、とうぜん先物市場で原油が買われる材料になった。
(参考にしたサイト: http://money.cnn.com/2007/10/26/markets/markets_1215/index.htm?postversion=2007102612
http://bigpicture.typepad.com/comments/2007/10/crude-oil-above.html)