「1990年3月、60万ドルちょうどで家を買いました」、とエコノミストのベン・スタイン氏は言う。場所は海岸で有名なカリフォルニア州のマリブ、2年間あちこち探し回って決めたようだ。「90年といえば不動産が大人気でした。5年前は30万ドルほどの物件でしたが、場所が場所だけに、たとえ不動産人気が衰えても、たいした値下がりは無いだろう、と楽観していました。」
運が悪いことに、氏が家を買った一カ月後から住宅市場の下げが始まった。「暴落の中の暴落、そんな表現がされたくらいですから、タダだ、と叫んでも引き取る人はいません。購入してから3年後、物件の価値は35万ドルまで下げていました。全く絶望的な状態でしたが、また不動産ブームがやって来ました。2005年、物件はなんと180万ドルになったのです。そして2006年、住宅市場の冷えこみが顕著になり、もはや180万ドルは夢の値段になりました。」
最初から投資目的ではなく、住むことが目的で買った家だから、別に失敗談ではない。しかし、極端に動いた住宅価格には、ある真実が隠れている。スタイン氏の話に戻ろう。
「物件価格の大きな下落を見て分かることは、住宅市場にソフトランディングは存在しない、ということです。キビシイ下げ方でしたから、正にハードランディングでした。ここは環境が特に良いから下げ渋るはずだ、と人々は言いますが、完全に現実を無視した考え方です。冷えこみが進む状況では、どんなに値段を下げても売れません。
いや、今回は違う。今日も、そんな声が聞こえてきます。たしかに金利が上がりましたが、住宅ローンの金利は、決して高すぎるレベルではありません。米国経済も成長が続いています。また、最近ガソリンやオイルの値段も下がっていますから、消費者には明るいニュースです。
歴史を振り返るなら、住宅市場はあと2年ほど下げます。低迷が5年間に及ぶことも希なことではありません。景気には好不況の波があります。賢い投資家は、不景気な時に買い出動します。私が買ったマリブの家は賢い例ではありませんが、景気が低迷している時に買った他の物件では、良い利益を上げることができました。」
株投資に関して、スタイン氏はこう付け加えている。「もう何年も前から、新興成長市場ファンド(EEM)への投資を薦めてきましたが、タイでのクーデタや商品市場の大幅下落で、新興成長市場ファンドも下げています。長期的に見れば、アジア諸国の成長が、ここで終わってしまうことはありません。商品市場も、現在の下げは長期アップトレンドにおける、一時的な下げです。友人のレイ・ルシアが言うように、この下げは良い買い機会だと思います。」