下のグラフで分かるように、住宅着工戸数が顕著に減っている。
8月分の住宅着工戸数は、年間ベースで167万戸と発表され、7月の数値を6%下回った。更に、去年の同時期と比較すると、ほぼ20%の落ち込みとなり、明らかに米国住宅市場はダウントレンドだ。冷え込む住宅市場は、米国経済に悪影響を及ぼす。ということは、株式市場も住宅市場の後を追うのだろうか?
こんな事実がある。代表的な株指数といえばS&P500だが、このチャートと全米住宅産業協会から発表される、住宅建築指数を比べると、面白いことが発見できる。S&P500指数は、住宅建築指数を追従する傾向があるのだ。追従といっても直ぐ後を追うのではなく、約1年間のずれがある。だから、S&P500が上げ始めるのは、住宅建築指数が上げ始めてから1年後、そしてS&Pの下げ開始は、住宅建築指数の下げが始まってから1年後に起きるわけだ。
嫌なことに、住宅建築指数が下げ始めたのは、ほぼ1年前だから、そろそろ株の下げが始まることになる。「歴史を参考にするなら、ここからの株投資は慎重にしなくてはいけません」、とスタンダード・アンド・プアーズ社のサム・ストーバル氏は言う。
JPモルガンの投資戦略家、アブヒジト・チャクラボーティ氏は、先日こんな見方を発表した。「夏に展開されたドラマ的なラリーで、ダウ指数は高値更新まで、あと169ポイントに迫った。その結果、多くの銘柄が割高になっただけでなく、既に企業の利益幅減少も予想されているから、株式市場は下げ方向の確率が高くなった。」
住宅市場のスランプで、個人消費の下落も予想されている。住宅ブームだった頃は、積極的なローンの借り換えが行われ、消費者は多額な現金を手に入れた。新車の購入、家族旅行などにその金は使われたが、住宅市場の下降に伴い、ローンの借り換えも大幅に減った。以前のように、派手な金遣いを消費者に期待できなくなったのだから、これも株には悪材料だ。
もっと直接的な話をすれば、住宅市場の落ち込みは失業率の上昇も引き起こす。家が直ぐに売れないから、不動産業者は以前のように多数のセールスマンは要らない。売れないものを建てても仕方が無いから建築業者も人員を減らす。銀行も不動産ローン部門を縮小することになるわけだ。
正反対の意見も記しておこう。「S&P500指数と住宅建築指数の関係が注目されていますが、解釈の仕方が間違っています」、とファースト・トラスト・アドバイザーズ社のボブ・カリー氏は言う。「株は住宅建築指数を追従する、と信じられていますが、それは最近10年間の話です。もっと長期的に見れば、それら二つには何の関係もありません。
株は割高、という意見もありますが、私はそう思いません。現在の水準でも、株はまだ20%から25%ほど割安です。企業収益も好調ですから、いきなり雇用状況が悪化することもありえません。住宅市場がこれ以上冷え込めば、連銀は金利を引き下げる可能性があります。これは株に好材料です。」
さて、水曜には連邦公開市場委員会がある。心配になる金利は、今回も5.25%に据え置かれることが予想されている。ガソリンやオイルの値下がりでインフレ懸念が薄れ、更に悪化する住宅市場を考慮すると、連銀が金利を今年再引き上げすることは無い、と言うアナリストが増えている。