夏本番、しかし北米の小売業者はクリスマスの心配をしている。理由は中国だ。当てにしていた低労働コストが見込めなくなり、おもちゃ、服、靴などを安く入手するのが難しくなってしまった。カナダの玩具メーカー、スピンマスターのハロルド・チズィック氏はこう語る。「第4四半期の需要は予想以上に伸びそうなので、クリスマスシーズン用の玩具増産を検討していました。しかし、中国の人件費問題が浮上し、増産計画を中止する可能性が出てきました。」
特に影響を受けるのは、スピンマスターのような玩具メーカーだ。統計よれば、全世界の90%以上の玩具が中国で製造され、更に53%の履き物、50%の衣料品、そして16%の家電製品も中国で生産されている。正に世界の工場だ。
11月、12月は玩具業界にとって、最も重要な季節だ。年間に製造される70%以上の玩具がこの二カ月間に小売店に発送され、おもちゃの年間売上の50%以上が11月、12月に集中している。それだけに、中国の労働コスト問題は、玩具業界に大きな打撃を与えそうだ。
中国政府の発表によれば、玩具工場や家電製品工場での人件費が上がっているのは、頼りにしていた出稼ぎ労働者数の減少が原因だという。
衣料品と履き物業界を代表する、アパレル・アンド・フットウェア協会のネイト・ハーマン氏は、「中国の労働コスト上昇が顕著になった今日、アメリカの企業は製品の製造を中国からベトナムに移し始めています」、と述べている。もちろん、全ての業者がベトナムに工場を確保できているわけではないから、多くの玩具業者はクリスマスシーズンがギリギリになるまで、中国の工場への注文を遅らせるようだ。しかし、そうなると中国側からの発送も時間どおりにいかなくなることが考えられるから、どちらにしても北米の玩具業者は頭が痛い。
なぜ出稼ぎ労働者不足が中国で起きているのだろうか?ニューヨークのチャイナ・レーバー・ウォッチ社のレポートによれば、第一の原因は中国政府が農業政策を改善したためだ。そのため農業に従事する労働者の賃金が上がり、農村に住む労働者たちは、玩具工場などに出稼ぎに行く必要がなくなった。もう一つの理由は、1970年代の終わり頃から実施された出産数の制限だ。子どもは一人だけ、という中国政府の指示で、明らかにに若い世代の労働者が減っている。そのため2015年に労働者数がピークになり、それ以後は減少基調に入ることが予想されている。
安い労働コストを求めて、外国企業は中国から本格的に撤退して、ベトナムに進出するのだろうか?「米国企業は、インフラ投資、技術投資といった形で、膨大な資金を中国に投入しました。そう簡単に撤退することはありえません」、とビジネス・コンサルタントのヘリエット・ワイス氏は言う。