株価には、あらゆる情報が既に織り込まれている。だから、ニュースを聞いてから行動したのでは遅すぎる。この考え方は、1970年代前半に発表された、ユージーン・ファマ教授の「効率的市場仮説」が基盤になっている。皆さんの中にも、ファマ教授の仮説を、直接経験された方がいると思う。XYZ社の新製品が華々しく市場に登場し、アナリストも続々と買いを薦める。これなら行ける、と意気込んで買ってみるが、株価はサッパリ上がらない。それどころかズルズルと下げ始め、けっきょく安値引けになってしまう。
常識的に考えれば、新製品発表、アナリストの買い推奨なら、株価は上昇しないといけない。しかし、逆の結果になってしまうということは、アナリストは企業と組んで、個人投資家たちを罠に落とし入れようと企んでいるのだろうか?もちろん、答えは「ノー」だが、投資心理の研究で知られる、ブレット・スティーンバーガー氏は、こんなことを言う。「株式市場は、私たちの頭脳とは配線のされ方が違うのです。」配線のされ方が違う?もっと氏の説明を聞いてみよう。
「人間は誘導的、そして帰納的な思考をする傾向があります。同じ現象が何度も繰り返されると、私たちは物事の規則性に気がつきます。例をあげれば、澄み渡っていた青空に暗い雲が広がり始めると、私たちは雨を予測します。初めて暗い雲を見た時は雨を予測しませんが、これが何度も繰り返されると、暗い雲=雨という公式が私たちの頭の中に定着します。ですから、雲ひとつ無い空を見て、雨を予想する人は滅多にいません。
さて、株式市場の方ですが、人々が傘をさすとアッという間に晴天、海岸で日焼け止めローションを塗っていると、突然大雨といった有り様です。正に、極端な状況から極端な状況へと動きます。
マーケットは配線のされ方が違います。ですから常識が通用しません。男の子を持つ親なら、子どもの身長は160センチから190センチくらいまで伸びることを予想するでしょう。どちらにしても、自分の身長を50センチも上回ることは予測しないはずです。しかし、子どもの身長が株式市場のルールでコントロールされるなら、2メートル以上の身長、そして1メートル10センチにも満たない身長が頻繁に起きるのです。」
こんな話を聞くと、悪材料は買い、好材料は売り、と思ってしまうが、あるデータを紹介しよう。1989年以来、S&P500指数を三日連続で下げた後買うと、次の5日間での利益は平均週間利益を約4倍上回る。逆に、三日連続上昇後S&P500指数を買うと、次の5日間での利益は±0だ。
上げが続く時は買いが入りやすい。下げが続くと売りが殺到する。常識が通用しないマーケット、同じ状況が継続する時は、注意が必要だ。