トレーダーなら、必ず一度や二度は悪夢のような日がある。ほとんどの人たちは、そこで挫折してしまうが、その苦しみを乗り越え、更に成長したアメリカの現役トレーダーを紹介しよう。
ジョン・エミリー氏は、カリフォルニア州に住むデイトレーダーだ。「トレードを始めて2年ほどたった、1999年の春でした。大した儲けや損も無く、とにかく何とか泳いでいる、といった状態だったと思います。ですから、ここで一発勝負してやろう、といった気持ちがあったことは確かです。」
エミリー氏、どうやら焦り気味だったようだが、話を続けよう。「私は単純なトレード方法を使っていました。チャートには20にセットした移動平均線を入れました。株価には、移動平均線に戻る習性がありますから、あまりにも大きく上に離れている時は売り、逆に極端に下に乖離している場合は買いです。
出来高もトレードには大切な要素ですから、銘柄は取引の頻繁にある、S&P500指数に属する銘柄を選びました。それからもう一つ、当時の私はファンダメンタルズ的なことにも注意を払っていました。売上や収益がしっかりした会社だけが買える、と信じていましたから、どんなに割安に見えても、ファンダメンタルズの悪い会社には手を出しませんでした。
さて、問題の1999年の春ですが、アナリストたちはこんなことを言い始めたのです。「ルーセント、ノーテル・ネットワーク、PMCシエラ、そして同業種の会社では在庫がだぶつき始めている。この状況は更に悪化することが予想されるから、売上の下降原因になるだろう。」
もちろん、私はアナリストの言葉を重要な情報として扱いました。ルーセント、ノーテル・ネットワーク、PMCシエラなどの、インターネット装置を製造する会社では在庫が増え続けている、というのですから売り材料です。当然の成り行きですが、私はルーセントやノーテルの売りチェンスを待つことにしました。
繰り返しになりますが、株価が20日移動平均線より、かなり上にあるものを売るのが私のやり方です。1999年4月、ついにルーセントの空売りチャンスが訪れました。株価は大きく20日移動平均線から乖離して、明らかに割高レベルです。買われ過ぎ、と判断した私は先ず48ドル近辺で空売りました。思ったように直ぐ下げなかったので、マーケット終了間際に更に空売りを入れました。
翌日です。ルーセントは、1株を2株に分割するストック・スプリットを発表しました。分割と聞いただけで買い材料になった頃ですから、もちろんルーセントには買いが殺到しました。ルーセントは在庫問題がある!私は更に空売り株数を増やしました。
そしてその翌日、口座にある空売り株数を見て、私は本当に怖くなりました。いままで、こんなに大きく空売ったことなどありません。相変わらず株価は上げています。恐怖はパニックに変わりました。完全に耐え切れなくなり、私は成り行きで全株買い戻しました。口座資金は40%減、膨大な投資資金が消え去りました。」
往々にしてあることだが、ひにくなことにエミリー氏が買い戻した直後、株は下げ始めたという。もう少し我慢できれば利益になった、というからいっそう気分が悪くなってしまう。この大失敗で氏が学んだのは、リスク管理の重要性だ。