世界の中央銀行として知られるスイスの国際決済銀行は、最近出された年次報告書の中で、世界的なスタグフレーションの可能性を警告している。景気沈滞下でのインフレがスタグフレーションだが、本当にそんな心配があるのだろうか?
インフレ退治に躍起な連銀は、既に17回連続で短期金利を引き上げた。アナリストやエコノミストは、口を揃えてこんなことを言う。「連銀自身、いつ金利引き上げをストップさせるべきかが分かっていません。たぶん、アメリカ経済冷えこみが顕著になるまで、金利を上げ続けることでしょう。それだけではありません。ヨーロッパやアジアにもインフレ懸念がありますから、各中央銀行も連銀と同様に、経済下向きの確認ができるまで金利を上げることでしょう。」
「ケインズの経済学では、下向きな経済状況で起きるインフレ、ようするにスタグフレーションを説明することができません」、と経済コラムニストのジム・ジューバック氏は言う。ケインズの経済学によれば、需要が供給を大きく上回ると物価が上昇し、その結果労働者の賃金も上がる。賃金が上がれば、企業は値上げを実施するから、それが更なるインフレの原因になる。金利引き上げ政策は、需要の減少を引き起こすから、理論的にはインフレを抑制することができる。しかし1970年代、アメリカはスタグフレーションを現実に経験した。ジューバック氏の話に戻ろう。
「1973年から1975年にかけて、アメリカの実質国内総生産(GDP)は減りました。もう少し期間を長くして、1973年から1977年で見ると、実質GDPは年間平均で1.3%の成長がありました。注目したいのは、同時期のインフレ率は8.8%もあったのです。
そんな状況下で、株式市場はどう動いたでしょうか?イボットソン社のデータによれば、1973年から1979年までのS&P500指数の平均年間上昇率は3.2%、そして国債は3.5%でした。言うまでもありませんが、インフレ率は8.8%ですから、株も国債も目減りしたわけです。
1970年代のスタグフレーションは、なぜ起きたのでしょうか?これは、ミルトン・フリードマン氏(1976年、ノーベル経済学賞受賞)が言うように、貨幣供給量(マネー・サプライ)が問題になります。商品やサービスに対する需要が減っても、貨幣供給量が貨幣需要を上回るとインフレが起きてしまいます。
世界の銀行は、インフレの兆しが見えていたにもかかわらず、あまりに長期間にわたって貨幣供給量を増やし続けてしまいました。正にフリードマン氏や通貨主義者が述べるインフレシナリオです。確実にスタグフレーションがやって来る、と断言はできませんが、世界の中央銀行は通貨供給量をコントロールする一手段として、金利引き上げを継続することになりそうですから、経済の下降は避けられないのではないでしょうか。」