医師たちの収入が減っているという。経済レポーター、クリステン・ゲレンシャー氏の調べによれば、1995年から2003年までの間に、医者たちの手取り収入は平均で7%下がった。他の専門職と比較してみると、弁護士やエンジニアの収入は、逆に7%上がっている。
なぜ米国医師たちの手取り収入が落ちたのだろうか?最大の原因は、メディケア(高齢者向け医療保険制度)、そして個人向け健康保険会社からの払い戻しが減ったためだ。(注:アメリカには日本のように、国民全員が加入できる医療保険制度が無い。そのため、国民は民間の医療保険サービスに加入することになる。ただし、65才以上の高齢者や身体障害者には公的医療保険制度があり、これがメディケアと呼ばれている。)
もちろん、手取りが減ったからといって、医者が経済的に困っているわけではない。2003年度の平均手取り年収は20万3000ドルだから、円に換算すると2354万円だ。普通以上の暮らしができることは間違いないが、下げ基調が見え始めた医師収入は、アメリカに将来的な問題になる、とゲレンシャー氏は言う。説明を聞いてみよう。
「心臓病専門医、それに循環器専門医などのスペシャリストの収入は問題ないのですが、ファミリー・ドクターと呼ばれる内科や小児科の開業医の収入が10%以上も下がっています。こんな状況ですから、医師はスペシャリストへの道を選ぶことになり、かかりつけの医者であるファミリー・ドクター不足になる可能性があります。」
開業医の手取り収入減少が著しいのは、医療過誤保険料が急騰しているためだ。そのため、毎月の経費を抑えることが優先され、看護婦の数が制限されるだけでなく、新医療機器導入にも消極的になってしまう。とうぜん、診療の質も低下するわけだ。
ラリー・フィールズ医師はこう語る。「ファミリー・ドクターたちは経費の節約に必死です。医療過誤保険料金は上がり続ける一方ですから、最高の経費節約方法は開業医を辞めることかもしれません。医者の使命は患者を治療することです。しかし、今日の状況は開業医を起業家に変身させてしまい、医師たちは肝心な治療ではなく、経営のことばかりを考えるようになってしまいました。」
フィールズ医師はケンタッキー州で開業しているが、更にこう付け加える。「私たちの厳しい現状を知った医学部の学生たちは、次々と開業医への夢を捨てています。私自身、口述録音をやめて自分で診療記録を作るようにしました。こんなことでも、年間で2万ドルほど節約できます。」医学部学生の多くは、大きな学生ローンという借金がある。これで、ますます開業医は少なくなりそうだ。