ビジネス2.0誌によれば、6000万人のアメリカ人が太りすぎだという。1980年、肥満者の数は2300万人だったから、約2.6倍になったわけだ。この勢いで肥満人口が増えていくと、2013年には8800万人のアメリカ人が太りすぎになる。
こんな話がある。数年前のことだが、ティム・バリー氏(55才)はボストンからサンフランシスコ行きの飛行機に乗った。氏の身長は183センチ、体重は165キロの肥満体だ。他にも氏に劣らぬ肥満者が数人いたが、皆あまりに太りすぎているため、シートベルトが短すぎて締めることができない。
普通なら、飛行機の中にはシートベルトを延長する器具がおかれているのだが、この日は肥満者が多すぎて器具が足りない。乗務員があちこち探し回って、皆そろって離陸することができたが、この恥ずかしい体験がビジネスになった。今日、バリー氏はオンラインでシートベルトの延長器具を一つ60ドルで販売している。これを持っていれば、いつでも心配無く飛行機に乗ることができるわけだ。器具は既に1万セット以上売れた、とバリー氏は言う。
肥満は低所得者に多いだろうか、それとも高額所得者に多いだろうか。アイオア大学の発表した統計を見てみよう。1974年、年間所得が2万5000ドル未満の人たちの22.5%が肥満だった。そして2002年、この数値は32.5%に上昇した。1974年、年間所得が6万ドル以上の人たちの9.7%が肥満カテゴリーに属し、2002年には26.8%に上がった。以前は、たしかに低所得者に肥満が顕著だったが、現在は高額所得者にも肥満が目だっている。
ダイエット産業は490億ドルに及ぶ巨大産業に成長したが、太った人全てがダイエットに挑戦するわけではない。贅肉が付き始めると、ウエストサイズは2センチ、5センチと大きくなっていく。肥満もある限度を超えると、通常のLやLLサイズでは間に合わなくなる。そこで、伸びているのがLLL以上のプラスサイズ需要だ。2000年、プラスサイズの女性衣料品の売上は200億ドルだったが、2005年には300億ドルを突破した。2000年、Mサイズの女性用衣料品の売上は780億ドルほどだったが、2005年、その数値は700億ドルを割った。
サイズが大きくなっているのは衣類だけではない。例えば、トヨタの四輪駆動車Rav4の新モデルは、肥満人口を考慮して、座席幅が旧モデルより3インチ(7.62センチ)ほど大きくなっている。ベッドの一番大きなサイズはキングだが、セレクト・コンフォート社は、キングを30%上回るグランド・キングサイズの発売を始めた。
総人口の三分の一が太りすぎのアメリカ、肥満体が主流になる日は意外と早くやって来るかもしれない。現に、ブランド商品のラルフ・ローレンやトミー・ヒルフィガーもプラス・サイズ衣料品に手を伸ばしている。
シートベルトの延長器具を販売する、上記したティム・バリー氏の言葉を付け加えておこう。「私には、体重を減らすことは無理だと思います。人間は、一定の体重を超えてしまうと、減量することがほぼ不可能になってしまうようです。」