ふところが寂しくなると、さすがに心細いものだが、現在のフォード・モーターが正にそんな状況だ。ビジネス・ウィーク誌の報道によれば、きびしい展開が予想される向こう18カ月間に備えて、フォードは貴重な現金を節約しているという。その証拠に、5月24日、フォードは今年10月に満期となる社債保持者に、高金利の2010年と2011年に満期になる社債へ乗り換えることを説得した。
少し説明すれば、10月に満期を迎える社債総額は25億ドルにおよび、4.95%の利子が支払われていた。当然、フォードはこれで25億ドルの金が必要になるわけだが、この出費は経営の苦しいフォードはどうしても避けたい。そこでフォードが思いついた策が、現金を払う代わりに、社債保持者に他の債券への乗り換えを強く勧めているわけだ。
もちろん、社債保持者はフォードの悪化する経営状況を知っているから、10月には満期になる社債を現金化したいと思っている。こんな投資者の気持ちを変えるために、フォードが乗り換えを勧める債券は、なんと10.6%の金利支払いがある。満期になる債券は4.95%だから雲泥の差だ。
第1四半期の決算報告書によれば、フォードは210億ドルの現金を持っている。これだけあるなら、投資者に社債乗り換えを説得しなくてもよさそうだが、なぜフォードは現金節約に懸命なのだろう?原因は最近5年間で2回目になるリストラだ。
今回のリストラで、フォードは大幅な経費削減を計画している。自動車工場の閉鎖、従業員数の縮小、そして労働組合との交渉が主な内容だ。工場の閉鎖、それに従業員を解雇するには、膨大な離職手当金を払わなければならない。しかし、労働組合側はスト決行の動きを見せているから、そんなことが起きればフォードの収益に悪影響だ。
推定によれば、現在75%のフォード北米工場が稼動している。アナリストの話では、稼働率が80から85%以下になると、企業の保有する現金消費速度が大きく上昇するという。稼働率が減れば、もちろん自動車の生産数も減少するが、従業員には給料を払い続けるわけだから、アナリストが言うように現金消費速度が上がることになる。
「フォードにとって、きびしい現況ですが、これは更に悪くなることでしょう」、と投資アドバイザーのジョン・カセサ氏は言う。「今年フォードは離職手当として2億5000万ドル、それに工場閉鎖に2億2000万ドルの出費が計画されています。しかし、問題は自動車労働者組合(UAW)です。工場閉鎖反対を求めてスト決行を考えているようですが、これはフォードに致命的な打撃を与える可能性があります。」
マーケットシェア減少を防ぐために、過去6カ月間フォードは新車を発表しているが、自動車評論家やウォールストリートのアナリストは冷たい評価をしている。おまけにガソリン高も重なって、期待されたスポーツ・ユーティリティ車の売上は冴えない。暗いニュースばかりのフォード、はたしてどのくらいの投資者が、社債乗り換えに同意するのだろう。