トレーダーのコーチとして知られるダグ・ハーシュホーン氏は、大学を卒業するまで、野球に明け暮れる毎日だったと言う。シカゴ・マーカンタイル取引所で、しばらくフロア・トレーダーを務めたが、やはり野球を忘れることができない。そんな訳で氏は、大学へ戻ってスポーツ心理学を学び、野球コーチとしての生活が始まった。
「スポーツ心理学が、トレードに応用できることに気がつきました。トレードも野球のように、メンタル・ゲームの要素を多分に持っています」、とハーシュホーン氏は言う。「ほとんどの人たちは、トレードで成功するには、プロ・スポーツ選手のようなタフ・メンタリティーが必要と思っています。しかし、それは誤解です。」誤解?タフなメンタリティーは要らないのだろうか?氏の話を続けよう。
「スポーツの場合ですが、失敗したらうまく出来るようになるまで、徹底的に練習することが強調されます。失敗が重なっても、練習を繰り返すことで、必ず成功できると信じるわけです。トレードも、うまくなるまで練習することが大切と言われますが、練習が逆効果になってしまうことが多いのです。
スポーツはイメージ訓練をして、自分が最高のプレイをしている場面を想像します。トレードもイメージ訓練が使えますが、最高の売買をしている自分を想像する前に、現実問題として、先ず最悪な結果を知っておかねばなりません。成功しているトレーダーは、うまく行くことだけを考えているのではなく、もしこんな状況が起きたらどうしょうか、ということを常に頭の中に入れています。」
数多くのトレーダーを成功に導いたハーシュホーン氏だが、成功するトレーダーに共通することは何だろうか?「自己認識が成功への鍵です。成功しているトレーダーは、自分の長所欠点を理解しています。」この長所短所ということで、ハーシュホーン氏は面白い例を挙げている。「あなたがカーブ打ちの名人だったとしましょう。相手チームは、あなたの優れたカーブ打ち技術を、直ぐ見破ることでしょう。ですから、ピッチャーはシンカーやスライダーを中心にして、あなたに一球もカーブを投げることはないでしょう。
しかし、マーケットは違います。マーケットは、あなたの得意トレード手法を知りません。もちろん、知りたいとも思っていません。成功しているトレーダーは、明確なゴールを持って、自分の得意技でいつも勝負しています。繰り返しますが、マーケットはあなたの得意技を避けようとして、故意に値動きを変えることなどありません。」
トレードはいつもうまく行くとは限らない。どうやったら、うまいタイミングで損切ることができるだろうか。「神様、助けてください。お願いですから、あともう5セント株価を上げてください。こんな祈りが思わず出る時が損切りのタイミングです」、とハーシュホーン氏は冗談まじりに言う。
(出張のため、12日から23日までは有名トレーダーの談話やインタビューの一部をお届けします。)