背骨や膝の骨、それに皮膚などが盗まれたとして、1万6800以上の遺族が葬儀会社を訴えている。そんな物を盗んでどうするのか、と思われるかもしれないが、人体の部分は高い値段で売れる。連邦法は、人体の部分を売買することを禁じているが、死体取り扱い料金を請求することは許可されている。
例えば、死体を整えて医学部に解剖実習用として調達すると、最低でも5000ドル(約57万円)の死体取り扱い料金を受け取ることができる。しかし、死体不足の現状だから、料金が1万ドル以上になることも頻繁にあるようだ。人体部分の一般的な料金は、脳が600ドル(6万8000円)、そして肘と手がそれぞれ850ドル(9万7000円)だ。
死体を医学部などに提供する場合は、必ず遺族からの許可を得なければならない。しかし、上記したように、脳600ドル(6万8400円)、手850ドル(9万7000円)、そして肘850ドルの料金を請求できるのだから、人体売買という不法地下ビジネスを生んでしまった。
最近の事件では、ニューヨークの歯科医、マイケル・マストロマリノを中心とするグループが、葬儀会社と共謀して人体の部分を盗んでいた。一旦、盗まれた手や骨はバイオメディカル・ティッシュ・サービシズ(生物医学会社)に送られ、合法的に医学部へ調達する準備が整えられた。実際の数字はまだつかめていないが、少なくとも1000以上の死体から、人体部分が盗まれたようだ。
遺族が、亡くなった家族の体から、膝や肘の骨が盗まれていることに気がつくことは先ず無い。葬式では棺が開けられ、弔問者が故人の顔を見ることができても、膝が失われていることまでは確認できない。また、火葬されてしまうとDNAテストが不可能になってしまうから、灰となった骨が本当に亡くなった家族のものかも分からなくなってしまう。
合法的に死体が、無事に医学部や病院に運ばれたからといっても、それで安心することはできない。なぜなら、そこでも人体部分の盗難が起きているからだ。推定によると、毎年1万から1万2000の死体が医学部に提供されている。問題は規制機関が無いから、大学側は死体がどこから調達され、どんな目的に使われるかなどの情報を、どこにも報告する必要がない。
テキサス大学の医学部で起きた事件は、死体安置所に勤務する職員、アレン・タイラーによる犯行だった。人体がエイズにおかされているため、移植には不向きといったでたらめな書類を作成し、人体部分を盗んでいたようだ。FBIの捜査官によれば、タイラーは医師たちに盗んだ人体部分を売り、約20万ドル(2300万円)の金を手に入れていた。どちらにしても、口のきけない死人から盗むのだから、全く何と言っていいのか分からない。