マーシー・スミスさんが会社を辞めたのは、飛行機恐怖症が原因だった。USAトゥデイによれば、2年前、スミスさんはフィラデルフィアでの会議に出席するため、アトランタで飛行機に乗った。席についたところまでは良かったのだが、やはり怖くてたまらない。結局パニック状態に陥ってしまい、スミスさんは飛行機から逃げ出してしまった。
CNN、ギャラップ社、そしてUSAトゥデイの調べによると、27%の成人が飛行機に乗ることに何らかの恐怖を感じ、9%が極度の恐怖を感じる、と回答している。飛行機恐怖症のために、多くのアメリカ人が昇給のチャンスを逃しているのは事実だが、企業側も被害を受けている。本当ならAさんを重要な商談に送りたくても、Aさんの飛行機恐怖症がそれを許さない。代わりにBさんを起用することになるが、Aさんほど専門知識が無い。これでは、商談が難航する可能性がある。
2001年9月11日、テロリストにハイジャックされたジェット機が、ニューヨークの世界貿易センターに体当たりした。この事件を境に、飛行機での旅に不安を感じる人が増えたが、こんな事実もある。「9月11日以前は、上司に飛行機恐怖症を打ち明ける人は、ほとんどいませんでした。しかし、テロを理由にすることで、飛行機恐怖症は正当化され、遠方への出張を簡単に免れることができるようになりました」、と不安障害協会のジェリリン・ロス氏は言う。
トニー・コーンハイザー氏も、飛行機恐怖症に苦しむ一人だ。氏はスポーツ・ジャーナリストだから、場所がどこであろうと、競技場に行かなければならない。ニューヨーク、ダラス、シカゴ、とフットボールの試合を追うこともあるようだが、コーンハイザー氏は、会社から特別に手配されたバスで移動している。飛行機ならロサンゼルスからニューヨークまでは約5時間15分ほどだが、バスだと4日はかかるから大変だ。
ジェリリン・ロス氏は、全ての飛行機恐怖症に悩む人たちは、精神医などの専門家に相談することを勧めている。絶対に治るという保証は無いが、カウンセリングやセラピーを繰り返すことで、ほぼ90%の人たちが、飛行機に乗れるようになるようだ。
ジョンズ・ホプキンズ大学のアラン・ラングリーブ氏によれば、飛行機恐怖症が仕事に支障を来たさない限り、専門医が利用されることはない。「このビジネス会議に出席しなかったら昇進できない。大事な社員教育だから、行かないと会社での地位が危なくなる。皆そんな切羽詰った状況になって、初めてカウンセラーに会う決心をします。」
さて、ここで話を戻そう。飛行機から逃げ出したスミスさんは、上司にこう連絡した。「航空会社の手違いで、フライトはオーバーブッキング状態でした。私の予約も取り消されてしまい、会議に行くことができませんでした。」結局これで、スミスさんと会社の関係がギクシャクしてしまい、辞表を提出することになったわけだ。その後スミスさんは、カウンセリングやセラピーを受けて、現在は違う業界で仕事をしている。まだ飛行機は怖いようだが、もうパニック状態に陥ることは無くなった、とスミスさんは言う。