ニック・バヨニス氏が、不動産セールスマンを辞めたのは1年前だ。ロサンゼルスの住宅は、過去4年間で140%以上の急騰だから、高収入を夢見て多くの人たちが不動産業界に転職した。しかし、金利上昇で住宅市場は下降が始まり、2月のロサンゼルス地域住宅売上数は、ここ5年間で最低の水準に落ち込んだ。「永久に不動産の好調が続く、とは思っていませんでしたが、本当に良いタイミングで辞めることができました」、とバヨニス氏は言う。
住宅市場の下向きが顕著になった今日、単に不動産セールスマンだけに限らず、多数の不動産関連職が減少しそうだ。USAトゥデイによれば、過去4年間で最も新規雇用が多かったのは不動産関連企業であり、2005年末現在、9.8%に当たる労働者人口が不動産関連企業に就業している。
まだどの程度、米国住宅市場が落ち込むかは分からないが、アメリカを不況から救った不動産だけに、この業界の長期低迷は米国経済に悪影響だ。先月、ワシントン・ミューチュアルは、10の不動産ローンセンター閉鎖を発表した。このため、2500人が職を失う結果となった。去年の11月には、アメリクエスト(不動産ローン会社)も1500人の人員削減を実施している。
ウェルズ・ファーゴー銀行の、スコット・アンダーソン氏はこう語る。「不動産業以外からの雇用創出が伸びないと、アメリカ経済は2007年に不況に襲われる可能性があります。雇用創出率の低下は、個人消費下落に結びつきますから、企業利益も最終的には減少です。」
先月発表された中古住宅販売件数は、5カ月連続の下落となった。住宅建築会社のKBホームズやトール・ブラザーズも、新築住宅需要が減少していることを認めている。エコノミストの見方によれば、今年の住宅販売数は去年のレベルを8%ほど下回ることになりそうだ。
不動産セールスマンのほとんどが、手数料収入に頼っているが、今年は厳しい年になることが予想されている。全米不動産業協会のデータによると、住宅市場が上向きなら、経験が2年までの新人セールスマンの平均手数料収入は年間で12852ドルある。(それ以上の経験年数がある場合は47187ドル)アメリカには、現在260万の不動産セールスマンがいるというから、生存競争も激しくなりそうだ。
ワシントン・ミューチュアルやアメリクエストの例で分かるように、住宅売上が下向きだから、不動産ローン業者も辛い状況だ。レストラン経営をやめて、2002年、不動産ローンブローカーに転身した、トニー・ガウチャー氏の話を聞いてみよう。「住宅は異常な勢いで売れていました。たとえ住宅を購入しない人でも、低金利でしたから、住宅ローンの借り換えが盛んでした。しかし、毎月のように引き上げられた金利のおかげで、去年の夏から不動産ローンビジネスは完全に干上がってしまいました。」
こう書いてくると、アメリカ不動産はお先真っ暗のようだが、JPモルガンのアンソニー・チャン氏は、米国不動産が暴落することはないと言う。住宅市場は下降が既に始まっているが、商業用ビル建築は逆に伸びている。また、存在する25%の住宅ローンは利率変動型だから、完全にローン借り換えビジネスが無くなってしまったわけではない。どちらにしても、投資者たちは金利引き上げ政策終了を待つ今日この頃だ。