「毎月10万円は夢じゃない!株で3000万円儲けた私の方法」、と言えば主婦トレーダー、山本有花氏の本だ。アメリカで山本氏の名を知る人は先ずいないが、実は先日、ニューヨーク・タイムズ紙に山本有花氏に関する記事が載った。内容を見てみよう。
「毎朝自宅のコンピュータを使って、山本氏は株、為替、そして先物を分析し、デイトレードで素早く稼ぐ。セミナー講師、そして著作活動もする氏は、今や時の人となっている。山本氏によれば、日本には夫に内緒で株のオンライントレードをする主婦が増えているという。
証券業界自由化による手数料の大幅引き下げ、そして高速インターネットの普及が、日本にデイトレーダーを増やした大きな原因だ。日本証券業協会の資料によれば、オンライン証券会社が保有する口座数は790万に及び、1999年の29万6941から飛躍的な伸びを見せている。
日本経済を牛耳る巨大企業の体制側は、デイトレーダーに対して冷ややかな態度だ。今のところデイトレード人気は、体制側にあまり貢献することが無い、若者や主婦に限られている。「デイトレードでは全ての人が平等です。成功の鍵を握っているのは、あなただけです」、と山本有花氏は言う。」
更にニューヨーク・タイムズは、29%の取引がオンライン証券を経由し、この大量な個人投資者参加が、東京市場のボラティリティを高めていることを説明している。また、現在の日本は1990年代後半の米国市場に似ているようだ。正確に言えば、1999年の状況に近い。米国のオンライントレーダーはドット・コム熱に冒され、暴騰するインターネット銘柄を追いかけていた。最終的にバブルは弾け、信用取引を積極的に利用していたオンライントレーダーは大怪我をした。
ニューヨーク・タイムズ紙は、ライブドア事件も取り上げている。三週間で90%以上の下落という凄まじさだが、これは一時的にデイトレードに水を注した程度で、1999年にアメリカを襲ったインターネット株急落とは比べ物にならない。ようするに、日本のオンライントレード人気は、まったく衰えていないわけだ。
強い上げ相場が続く時は儲けやすい。確かに、ドット・コム銘柄が総崩れになり、相場全体の冷えこみが始まった時、次々とアメリカのデイトレーダーたちは廃業し、サラリーマンの生活に戻った。日本には、まだそんな厳しいマーケット環境は訪れていない。松井証券取締役マーケティング部長、矢吹行弘氏の言葉がニューヨーク・タイムズに引用されていた。「デイトレーダーにとって、真のテストは下げ相場です。難しい相場が到来した時、はたしてどの程度のトレーダーが生存することができるでしょうか。」
「9時から5時まで」、という映画があったが、アメリカ人のほとんどは9時から5時まで会社勤めだ。90年代にデイトレードが流行った理由の一つは、この単調なサラリーマン生活から抜け出し、自由なライフスタイルを獲得することだ。日本の雑誌などで優雅な生活を送るデイトレーダーが持てはやされるように、90年代のアメリカも同じだった。午前中でトレードを終え、午後は毎日好きなゴルフを楽しむ。デイトレードは、正に企業という階級組織からの解放手段だったわけだ。
アメリカの真似をして、日本でデイトレードが流行った、と思っている人もいるが、「日計り」という表現は「デイトレード」という言葉が生まれる前から存在していた。アメリカに追従というよりも、日本の社会自体が大きく変わっている。終身雇用など死語になり、サラリーマンには過酷な世の中だ。低手数料、高速インターネット、それに最も重要な上げ相場と揃ったのだから、デイトレードに人気が集まっても当然だ。あとは矢吹氏が言うように、真のテスト、下げ相場が来た時、どう乗り越えるかだけだ。