「何のために解体したのだ?」早速そんな声が聞こえてくる。電話会社AT&Tは、670億ドルでベルサウス買収計画を発表した。これが実現すれば、年間売上1200億ドルの巨大電話会社が出来上がる。ここで歴史を振り返れば、1984年、裁判所の命令でAT&Tは長距離専門の電話会社になり、更にベル・テレフォン・システムは7つの会社に分割され、事実上ベル・テレフォン・システムによる市場の独占が終わった。
しかし、それから20年以上経った今日、電話業界は大きく変わっている。2005年1月、SBCはAT&Tを160億ドルで買収し、新社名はSBCではなくAT&Tに決定した。同年5月、べライゾンは長距離電話会社MCIを84億5000万ドルで買収し、そしてスプリントとネクステルが合併した。最近ではレベル3がプログレス・テレコムを吸収したが、どれも今回のAT&Tとベルサウスの規模には遠く及ばない。
ジーン・キンメルマン氏(消費者保護団体)は、「これは完全に独占禁止法を無視した行為です」、と語りAT&Tのベルサウス買収阻止運動を開始するようだ。USAトゥデイによれば、買収が成立すると、AT&Tは22州から7000万件の電話サービス、5400万の携帯電話サービス、そして1000万のインターネットサービスを獲得する。そうなれば、全サービス料金が一斉に値上げされる可能性があるわけだ。
この買収は独占禁止法に違反するだろうか?一株当たりに換算すると、ベルサウスの買収価格は35ドル80セントだ。現在ベルサウスは+9.7%の34ドル50セントで取引され、買収価格に近づいている。ようするに、投資者たちは、買収がほぼ間違いなく成立すると見ているわけだ。テレコム業界に詳しいデービッド・カウト氏も、この買収は比較的やさしい条件付きで許可が下りるだろう、と述べている。
メリル・リンチのデービッド・ジャナゾ氏もカウト氏に賛成だ。「政府側は、AT&Tの状況説明に納得することでしょう。電話会社は、毎年数パーセントの顧客をケーブルテレビ会社に奪われています。それに、たとえ買収がうまく行ったとしても、心配されているようなAT&Tによる携帯電話市場独占は起きません。」
買収で恩恵を受けるのは誰だろうか?今日、AT&Tには13州に700万の高速インターネット顧客がいる。高速インターネットサービスの名前は、AT&Tヤフーだ。2000年からAT&Tは、ヤフーだけをパートナーとして、高速インターネット市場の開拓を進めてきた。
ゴールドマン・サックスのアンソニー・ノト氏の意見を紹介しよう。「買収成立後も、ヤフーが現在と同様な契約をAT&Tと結んだとしましょう。85%のマージンで計算すると、ヤフーはベルサウスの顧客が増えることで、年間売上が1億ドルほど上昇しそうです。ですから、キャッシュフローも9000万ドルの増加が見込めます。」どちらにしても、現時点では憶測にすぎない。買収が認可されるには、長ければ12カ月の時間が必要なのだから。