トム・ディロンさん(19才)には、既に5万2000ドル(608万4000円)の借金がある。そしてこの金額は、最終的に15万ドル(1755万円)を超えることになるらしい。ディロンさんは、コネチカット大学薬学部に通う学生だが、15万ドルは、大学と大学院授業料のために借りる学生ローンの総額だ。
1月31日、連銀は14回連続の短期金利引き上げを実施した。2004年の6月から金利上昇が続いているわけだが、これは学生ローンにも影響を及ぼしている。連邦政府が出資する学生ローン金利は、7月1日、6.8%に引き上げられる。その結果、利率はここ5年間で最高のレベルに達する。これで学生は、高い授業料に閉口するだけでなく、金利の返済にも悩まされるわけだ。
高額な学生ローンの借金は、大学卒業後の社会生活に、様々な弊害を起こす原因になる。例を挙げれば、学生ローンの返済を優先させるため、老後のための投資ができない。結婚資金が貯まらず、独身生活が長引く。住宅購入が困難になる。子どもの教育資金用の貯蓄ができない。
バージニア・カレッジ・セービング・プランの、ダイアナ・キャンター氏はこう語る。「卒業後は社会人として、旺盛なチャレンジ精神が必要なのですが、多額な学生ローンの支払いがあるため、どうしても消極的な生き方になってしまいます。自分で商売を始めて起業家になりたい、という願望があっても、月々の借金支払いを済ませると、手元には大した額の金が残りません。ですから、少ない資金を守ろうという気持ちが生まれ、起業家の夢を捨てることになるのです。」
ヘザー・ブシェイ氏(エコノミスト)の調べによれば、1981年、学生が毎年夏休みに仕事をすれば、授業料の三分の二を稼ぐことができた。だから、夏休み以外にもパートで働けば、学生ローンを利用する必要は、全く無かったわけだ。今日の学生は、毎日フルタイムで働いても、州立大学の一年分に相当する授業料しか貯めることができない。
こうなると両親が当てにされるが、住宅ローン、自動車ローン、クレジットカードの支払いなどに追われ、子どもの教育費まで手が回らない。多くのファイナンシャル・プランナーは、こんなアドバイスを親たちにする。「子どもは学生ローンを利用することで、授業料を借りることができます。しかし、老後の生活代は借りることができません。子どもの教育は重要ですが、自分たちの老後用投資を犠牲にしてはいけません。」
在学中に学生ローンを気にする学生は、ほとんどいない。ローン=借金、という公式が現実味を帯びるのは、大学の卒業後だ。返済が立て続けに遅れるようなことが起きれば、連邦政府は給料を差し押さえることができる。運悪く自己破産のような事態に陥っても、学生ローンは帳消しにならない。とにかく払い終わるまで、連邦政府は借り主を追いかけるわけだ。
貿易赤字、財政赤字、自動車ローン、住宅ローン、学生ローン、そしてクレジットカード。正にアメリカは赤字大国だ。