米国株の空売りが、最近やりにくくなった、と言うトレーダーの声が増えている。たしかに、アップティックルールという規制があるから、株価が下落している時には空売りができない。逆に株価が上昇している時には、買い制約など無いから、アップティックルールは評判が悪い。
しかし今回、空売りがスムースにいかないのは、アップティックルールが原因ではない。問題はnaked (裸)shorting(空売り)だ。順を追って説明しよう。
チャートソフトウェアで有名なだけでなく、デイトレーダーに人気の、トレードステーション証券に全米証券業者協会(NASD)から「空売りルール違反」の通達があった。取調べの対象になったのは2004年度に起きた、約200件におよぶ不法な空売りだ。その結果、トレードステーション証券には罰金が科されるようだが、金額などの詳しい内容は、まだ全米証券業者協会から発表されていない。
トレードステーション証券だけが狙われたわけではない。NASDは去年から、証券会社における、違法な空売りを広く捜査中だという。ここで明確にしておかなければいけないのは、正当な空売りに対するNASDの見方だ。「空売りは、株式市場の抑制と均衡を保つ重要な要素の一つだ。例を挙げれば、空売りは不正な企業を暴露する有効な手段になる。」
空売りを成立させるには、対象になる株を、ブローカーから先ず借りなければならない。それが済んだ時点で、はじめて空売りが可能になる。しかし、トレードステーション証券が行ったnaked (裸)shorting(空売り)は、肝心な最初の部分を飛ばしている。ようするにnaked shortingというのは、実際に株を借りずに、トレーダーたちの空売りを許可することだ。naked shortingは、需給バランスを崩す要因になるから、株価を必要以上に下落させてしまう、と批判するアナリストも多い。
トレードステーション証券だけに限らず、ほとんどの証券会社は、シティグループやゴールドマン・サックスのような大手証券会社から空売り用の株を借りる。トレードステーションの話によれば、2004年度に起きたとされる違反取引は、ベア・スターンズから正規に株を借りた後で発生したようだ。
もしそれが事実なら、悪いのはトレードステーションではなく、ベア・スターンズの方になる。名前は公表されていないが、内部事情に詳しいマーケット関係者は、こう語っている。「ゴールドマン・サックスやベア・スターンズにとって、空売り用の株を貸すことは良い収入になります。ですから、naked (裸)shorting(空売り)と分かっていても、それを無視することが多いのです。」
お分かりいただけただろうか。最近空売りがスムースにいかないのは、取調べや罰金を恐れて、大手証券会社が、空売り用の株を貸すことに慎重になったからだ。
空売りに関する、こんな報道もある。オーバーストック・ドット・コムの最高経営責任者、パトリック・バーン氏はロッカー・パートナーズ(ヘッジファンド)を訴えた。理由は、違法なnaked (裸)shorting(空売り)を利用して、ロッカー・パートナーズは、オーバーストック・ドット・コムの株価暴落を企んでいる、というものだ。