「心配で眠れない夜が続いています」、と語るのはナイト・キャピタル・グループのラルフ・アカンポラ氏だ。ベテランアナリストとしてファンの多い氏だが、今年ダウ指数は、20%の大幅下落になる可能性があると言う。悲観論者が少ないだけに、さすがにアカンポラ氏の意見は目立つ。ほとんどのアナリストの見方は、次の三人に要約される。ゴールドマン・サックスのアビー・コーエン氏、シティ・グループのトビアス・レブコビッチ氏、そしてリーマン・ブラザースのヘンリー・ディクソン氏は、それぞれ+10%という今年のマーケット成長率を予測している。
少数派のアカンポラ氏に賛成するのは、スタンダード・アンド・プアーズ社のマーク・アーベター氏と、モルガン・スタンレーのリック・ベンシグナー氏だ。アーベター氏は、10%から20%の下げを予想し、ベンシグナー氏は今年の中頃に大きな下げがやって来る、と強調する。
ベンシグナー氏、アーベター氏、そしてアカンポラ氏の三人に共通する点は何だろうか?答えは、三人ともテクニカルアナリストだ。古い言い方をすれば罫線師、ということになる。テクニカルアナリストは、ファンダメンタルアナリストのように、収益、売上、キャッシュフローといったことを一切考慮しない。テクニカルアナリストにとって重要なのは、株や指数の値動き、出来高、移動平均線、そしてストキャスティクスなどのオシレーターから得られる情報だ。
楽観的なファンダメンタルアナリスト、悲観的なテクニカルアナリスト。はたしてどちらが正しいか、ということは問題にならない。皆が強気な時に、アカンポラ氏のような意見は貴重だ。ひょっとしたら、テクニカルアナリストの言うことは本当かもしれない。そんな疑問が投資者の中に芽生えれば、次の買いにもっと慎重になるはずだ。
テクニカルアナリストが活用する一つに、周期(サイクル)がある。今年、特に注目されているのが、大統領選挙サイクルだ。大統領の任期二年目は、米国株式市場が低迷する傾向がある。今年、ブッシュ大統領は二期目の二年目を迎える。1970年以来、1986年を除いて、任期の二年目はいつも株が下がった。1962年、1974年、そして2002年にベアマーケットが訪れたが、これも大統領任期の二年目だ。
もう一つサイクルの例を挙げよう。上げ相場が始まったのは2002年の10月だから、既に39カ月が経過している。そろそろ終わりが来てもおかしくない頃だ。なぜなら、大二次世界大戦以来、平均的なブルマーケットは39カ月で幕を閉じている。「最近のマーケット内容は悪化しています。新高値、新安値を記録した銘柄数を二年前と比べてみると、マーケットは明らかに上げ基調の最終段階に入っています」、とアーベター氏は言う。
ボラティリティ指数という、マーケットと正反対の動きをする指数がある。現在の数値は12.4を示し、過去13年間を振り返ると、こんなに低いレベルに達することは滅多にない。投資者たちが安心しきり、マーケットが天井近辺にある時ボラティリティ指数は極めて低い数値を示すから、ここからの積極的な買いは控えた方が良い、というのがテクニカルアナリストの見解だ。
よく眠れない、と心配するアカンポラ氏だが、こんなことを付け加えている。「今年中に起きる大きな下げは、マーケットを4年来の安値に落とすことでしょう。しかし、そこが最高の買い場になります。とにかく今はあまり動かないで、十分に資金を蓄えてください。」なるほど、アカンポラ氏は短期的な弱気論者だが、長期的には強気な姿勢だ。