あまり物事をはっきり言い過ぎると大変なことになる。いったん口から飛び出た言葉を、引っ込めることはできない。これが株と何か関係あるのだろうか。投資心理研究の第一人者として知られる、ブレット・スティーンバーガー氏の意見を紹介しよう。
「たとえ言論の自由なアメリカでも、言ってはならことがあります。たとえば、あなたが住宅を買おうとしているとしましょう。間違っても、不動産セールスマンに、こんなことを言ってはいけません。「周囲に黒人家族が住んでいる所は困る。最近アメリカに来たばかりの、移民者の多い場所もご免だ。上流階級の白人だけが住んでいる場所で物件を探してほしい。」これでは、あなたが単なる人種差別主義者であることを告白しているだけです。
ですから、あなたは不動産セールスマンに、こう頼むべきです。「極めて治安の良い、安全な地域で家を探してください。子供の教育はとても重要ですから、家の近くには優秀な先生が揃った、トップクラスの小学校があることも条件に入れてください。」これで、ほぼ確実にあなたの求めている住宅が購入できることでしょう。
もう一つ例を挙げましょう。小学校3年生のあなたの息子が、学校で6年生から嫌がらせを受け、つかみ合いの喧嘩になりました。その結果あなたの息子は、6年生の顔面にパンチをあびせて、前歯を一本折ってしまいました。さっそく担任の先生から、あなたは学校に呼び出されます。その時、間違っても、あなたはこんなことを言ってはだめです。「私は息子を、真の男になれるように教育している。上級生と喧嘩して勝った息子を、私はとても誇りに思う。」
あなたは嫌でも、黙って担任の先生の言うことを聞かなくてはいけません。そして、もう二度とこのようなことを起こさないように、家に帰ったら息子を厳重に注意する、と約束するべきです。もちろん、家に帰ったら息子にニッコリと微笑んであげれば、それで十分です。
株や先物トレードにも、同様なことがあてはまります。ある為替トレーダーから相談を受けた時のことです。中々利益を上げることができない、と言うので私はこう質問しました。「ニューヨークとロンドンの寄付き直後を比較した場合、損が出ているのはどちらの方ですか?」
これは相手を侮辱する、最低な質問でした。このトレーダーの回答が、「私はニューヨークの時間帯だけでトレードしている」、というものだったから、私の質問が間違っていたわけではありません。結果的には、私の質問は全く質問ではなく、私の意見を明確に言っただけにすぎなかったのです。
為替トレーダーは、私の質問をこう解釈したはずです。「為替トレードで成功するためには、ニューヨークとロンドンの両方の時間帯でトレードする必要がある。」現に、この相談の後、二度とこの為替トレーダーから電話がかかってくることはありませんでした。」
損が続くと、どうしても悩んでしまう。そんな時こそ、自問自答する言葉は慎重に選ばないといけない。どうやったら適切な言葉を、自分に発することができるだろうか?スティーンバーガー氏は、次の原則をいつも頭に入れておくことを推薦している。「苦しんでいる時は、常に慰めになる言葉を選び、有頂天な時は、戒めの言葉を選ぶことです。」これを聞いたら、有名なセリフを思い出した。「タフじゃなければ生きていけない。しかし、タフなだけでは生きている資格がない。」