株価は安値を更新した。しかし、MACDは逆に少し上がっている。値動きと指標が不一致だから、ひょっとしたらここが底かもしれない。たしか株の本にも、これはブリッシュ・ディバージェンス、という買いシグナルとして紹介されていたような気がする。よし、買いだ。
おかしい、まだ反発ラリーが来ない。ブリッシュ・ディバージェンスのシグナルは相変わらず有効だから、そろそろ株価は底を打つだろう。だが、一転反発が訪れないだけでなく、信じられないことが起きてしまった。上昇していたMACDが下げ始め、点滅していた買いシグナルが消えてしまった。何ということだ。あんな本を信じるのではなかった。
こんなケースもある。ここ数日間の壁を突破して、A株は上放れに成功した。分かりやすい買いシグナルだが、買わないことにした。たぶん、たいした上昇はないはずだ。なぜなら、ストキャスティクスは既に買われすぎのレベルを示している。こんな位置で買うのは素人のすることだ。
あれからA株は7%も上げた。勢いは一向に衰える兆しを見せない。もちろんストキャスティクスは、いぜんと買われすぎを表示したままだ。何故こんな過熱しているものが買われるのだろう。どうしてストキャスティクスは無視されたのだろう。どちらにしても、大きな獲物を取り逃がしてしまった。
似たような例なら、まだまだあるが、MACDなどのオシレーターが役に立たないわけではない。致命的だったのは、自分で作り上げた意見に縛られてしまったことだ。ストキャスティクスが買われすぎの位置にある、というのは実際の数値だから、間違った情報ではない。ただ、これを見てしまったために買わない、という決断をしてしまった。
MACDの場合でも、もしこの指標を見ていなければ、わざわざ買うことはなかっただろう。ニュースも同じだ。有名アナリストの買い推奨や格上げは素早く報道され、多くの投資家がそれらの銘柄に殺到する。言うまでもないが、そんなニュースを聞いていなければ、きっと買うことはなかっただろう。
株トレーダー養成で知られる、ベネット・マクドウェル氏の言葉を引用しよう。「100%確実に値動きを予知できる指標などありません。もしそのようなものを探しているのでしたら単なる時間の無駄です。よく考えてください。これだけコンピュータが発達した今日ですが、ほとんどの人たちは損を出しています。コンピュータのなかった50年前と状況は全く変わっていません。」
繰り返しになるが、情報や指標を見るのは悪くない。ただ、それに縛られてはいけない。影響されやすいタイプの人なら、株価だけを頼りに売買するのも一案だ。