3.6対1が最近8週間の状況だ。売り株数が買い株数を上回ったことを示す数字なのだが、これは個人投資家から得たデータではない。機関投資家でもない。対象になったのはインサイダーだ。言い直せば、ここ8週間を振り返ると、最高経営責任者や役員は、積極的に自社株を売っていたことになる。
S&P500指数は10月13日の安値から順調に回復し、4年ぶりの高値を記録したのだから、インサイダーの売りは当然、と思うかもしれない。ここで、はっきりさせなければいけないのは、3.6対1の持つ意味だ。さっそく、ビッカース・ウィークリー・インサイダー・レポートの、デービッド・コールマン氏に説明してもらおう。
「前回11月の数値は2.7対1でしたから、インサイダーによる売りが加速しています。先週だけの様子を見てみると、売りが更にエスカレートし、比率は5.2対1に達しました。ほとんどの場合、売買レシオは2対1から2.5対1の間に落ち着きます。2.5対1を超える数字は、マーケットを弱らせる可能性があります。携帯電話用チップを製造するクワルコム、それに高級デパート、サックスのインサイダーによる売りが目立ちます。」
アナリスト、マイケル・ペインシャウド氏も、最近2週間のインサイダーによる売りが活発だと言う。「歴然としているのが、大手銀行のインサイダーです。例えば、サンフランシスコに本拠地がある、ウェルズ・ファーゴー銀行の最高経営責任者は合計で12万91株売っています。他の銀行では、バンク・オブ・ニューヨーク、それにノースカロライナ州のワコビア・コープです。」
インサイダーの売りは気にする必要はない、という意見もある。トリム・タブス・インベストメント・リサーチのチャールズ・バイダーマン氏によれば、企業による自社株買い戻し、それに配当金などがインサイダーの売りを十分に埋め合わせているという。そうかもしれないが、会社経営内容に詳しいインサイダーだけに、気にするな、と言われても気になる。考えてほしい。まだ上げ材料が残っているなら、わざわざここで売るだろうか。
季節的に、11月と12月はインサイダーの売りが増える傾向がる。現に2004年12月14日、AP通信は異常に膨れ上がるインサイダー売りを報道していた。インサイダーの売りは、投資者心理に大きな影響を与えるだけでなく、チャートパターンを結果的に変えてしまうこともある。新しい家の購入、車の買い換え、奥さんにダイヤモンドのプレゼント、そんな理由でインサイダーは持ち株を処分することもあるだろう。一つだけ言えるのは、トレンドが崩れないなら、インサイダーの売りに便乗することはない。