コーヒー業界の巨人、スターバックスが小さな田舎の喫茶店に営業停止を正式に申し入れた。1971年、シアトルのパイク・プレース・マーケットで誕生したスターバックスは、現在35カ国でビジネスを展開する国際企業だ。スターバックスは、いったい何が気に食わなかったのだろうか。さっそく説明しよう。
この小さな喫茶店は、オレゴン州のアストリアにある。人口はたったの1万人だ。物覚えの良い人なら、全住民の名前を記憶することができるだろう。問題は、喫茶店の名前サムバックス・コーヒーだ。何でわざわざスターバックスと似た名前をつけたのだろう。結論を言ってしまえば、別にスターバックス・コーヒーをまねたわけではない。経営者の名前はサム・バック。だから喫茶店をサムバックスと命名したまでだ。
ここで一つ注意しておこう。バックは旧姓で、1993年に結婚した彼女の正式名は、サム・ランデンバーグだ。喫茶店に旧姓を使った理由を、「この町では誰もが私のことをサム・バックと呼びます」、とサムさんは説明している。サムバックスがアストリアでビジネスを開始した時、まだスターバックスはこの喫茶店の160キロ以内で営業をしていなかった。
そして、スターバックスはサムさんを商標権侵害で訴えることになるのだが、どうもよく分からない。スターバックスとサムバックスは名前が類似しているため、消費者を混乱させた、とスターバックスは主張するが、人口1万のアストリアの住民は本当に二者を混同したのだろうか。「驚きました。あんな大きな会社が私を告訴したのです。サム・バックは私の名前です。自分の名前を使うのは違法ではありません」、とサムさんは憤慨する。
サムバックス・コーヒーは狭い。3メートル四方の店内にはビーフ・ジャーキーもおかれているが、広いスターバックスの雰囲気とは大違いだ。どう見ても、スターバックスには被害は無いと思われるのだが、商標に詳しい弁護士は、サムバックスはヒルのようなものだと言う。いったん前例ができてしまうと、次を取り締まることが難しくなる。だから、まぎらわしい名前の撲滅は、早ければ早いほどいいわけだ。
結果を記しておこう。サムバックスは負けた。7年間の結婚生活後、意図的に旧姓で喫茶店を始めた事実は、スターバックスの知名度を不法に利用した、と判断されたようだ。ここで質問。スターバックスの会社名は、どこから取ったかご存知だろうか。ホームページにはこう書かれている。Starbucks is named after the first mate in Herman Melville’s Moby Dick..モビー・ディックに登場する、一等航海士の名前がスターバックスだ。