1億9千700万ドル対2千万ドル。軍配は、もちろん1億9千700万ドルに上がった。「私たちは最善を尽くしました。しかし、テネシー州を上回る好条件を用意することはできませんでした。」カリフォルニア州、ガーデナ市にあるニッサン・モーター北米本社が、テネシー州ナッシュビル近郊に移動することになった。
移転費用などの名目で、テネシー州がニッサンに示した金額は1億9千700万ドル。そして、残留を求めるカリフォルニア側が提供したのが、減税と2千万ドルの電気代やガス代の割引だった。クッシマン&ウェークフィールド社のマイケル・クトリ氏は、「企業誘致のために、これほど巨大な金額が使われることは希なことです」、と言う。
ニッサンがカリフォルニアに北米本拠地を構えたのは、1958年のことだった。ガーデナ市はロサンゼルス国際空港から20分ほどだから、交通も便利だ。年間を通じておだやかな気候にも恵まれているが、コスト削減対策の一つとして、ニッサンは移転に踏み切った。
ニッサンを得ることで、テネシー州の経済は毎年5億2700万ドルが加算される。テネシー大学の調べによれば、ニッサンに関連した供給業者、それに他のサービス業者もテネシーに移転してくることが予想され、結果的には1万1000人の新規雇用が生まれそうだ。「1ドルが2ドル50セントになる投資です。これを見逃すことはできません」、とテネシー州経済開発部のマット・キズバー氏は語る。
テネシー州がニッサン誘致に乗り出したのは1998年のことだ。既にニッサンは1982年、テネシー州のスミルナに自動車組立工場を建てた。その後テネシー州は、第二の工場建設を積極的にニッサンに呼びかけていたが、それを実現することは失敗に終わった。工場がダメなら、というわけで狙われたのがガーデナ市の北米本社だったわけだ。
カリフォルニア州知事、アーノルド・シュワルツェネッガー氏もニッサン引き止めの努力をしたが、ニッサンの要求を受け入れるためには、カリフォルニア州の法律を大幅に変更するしかない極めて難しい条件だった。問題は、第二第三のニッサンが出そうなことだ。JDパワー&アソシエーツ社のトム・リビー氏を引用しよう。「南カリフォルニアにあるホンダ・モーター、ミツビシ・モータース、そしてマツダ・モーターも他州への移動を考慮することになるでしょう。」