ファンドマネージャー、ビル・グロス氏は言う。「やっとつかんだぞ、これが完璧なスイングだ、と喜んでいたのは良かったのですが、13番から14番ホールに行く途中で体得したはずの秘密をすっかり忘れてしまいました。」皆さんも、似た経験をお持ちではないだろうか。難しいパットを立て続けに沈めると、完全にパットのコツをマスターできた、と思ってしまう。しかし、次のホールからは、たった30センチのパットも決まらない。あれは単なるまぐれだったのだろうか。
株式投資でも、ご存知のように同様なことが起きる。連戦連勝の波に乗ると、マーケットの秘密を手に入れた、と確信することだろう。だが、連敗の悪いリズムに襲われると、つかんだ秘密を疑ってしまう。だから投資者たちは、もっと優れた方法を求めることになるが、実はウォールストリートの機関投資家も同じだ。もちろん、100%確実なやり方は要らない。彼らの求めているものは「アルファ」だ。
アルファを持ち出すと、必ずベータが出てくる。ウォールストリートでベータと言えば、マーケットと同様なリターンを生む投資方法だ。例えば、マーケット指標に使われるS&P500指数が8%増なら、あなたの口座も8%上昇することになり、指数が6.5%減なら、あなたの口座も6.5%減る。マーケットと同様では、やはり面白くない。そこでアルファが求められるわけだが、アルファとはマーケットが低迷する時も利益を上げることのできる投資方法のことだ。
アルファ投資などと言うと複雑に聞こえるかもしれないが、実際はそう難しいことではない。100億円の投資を想定して説明しよう。先ず、マーケットと同じ動きをするベータ投資に5%の資金を割り当てる。(10%でも構わない。)インデックスファンドのような、指数に連動するものを利用するのが手っ取り早い。繰り返しになるが、ベータの部分はマーケットと同じリターンになるから儲かることもあれば、その逆に損をすることもある。
次は残りの95億円をアルファ投資に使う。マーケットが悪くても利益を上げなくてはならないから、何に資金を回したら良いだろうか。ここで、また手っ取り早い方法を言うと、優秀な成績を誇るヘッジファンドに任せることだ。なんだ、つまらない、という声が聞こえてくるが、機関投資家はより良いアルファ投資を求めて、際立ったヘッジファンドマネージャーを絶えず探している。一口に機関投資家といっても、それには銀行、保険会社、ミューチュアルファンド、年金基金、そして農業団体などあるから莫大な資金だ。
アルファ投資につぎ込まれている正確な金額は公表されていないが、年金基金のような大手機関投資家の総合投資額は1250億ドルと推定されている。「機関投資家が今日のように、ここまで積極的にアルファ投資を探していたことはありません。彼らは種類など気にせず、ありとあらゆるものに手を出しています」、とジェーン・ビュシャン氏(ヘッジファンド会社勤務)は言う。90年代のブルマーケットが派手だっただけに、満足できるアルファを見つけることは難しいことだろう。