大きな社会問題となったエンロンのおかげで、2002年、米国企業改革法が成立した。別名サーベンス・オクスリー法とも呼ばれ、エンロンのような不正会計を防ぐことを主眼に、企業が書類を改ざんしたり破棄することを重罪に定めた。そのため、企業でのビジネス倫理教育が義務付けられ、倫理産業という新分野が誕生した。AMRリサーチ社の調べによれば、今年度米国企業は、ビジネス倫理教育に約61億ドルを割り当てたという。
ゴルフを習うなら、プロに指導してもらうのが良い。空手なら、黒帯の先生から手ほどきを受けたい。なら、どんな人がビジネス倫理の講師として最適だろうか。さっそく人気講師を紹介しよう。名前はマーク・モルゼ、以前ZZZZ・ベスト・カーペット・クリーニング社で最高財務責任者を務めた。この肩書きだけなら何と言うこともないが、氏には暗い過去がある。約1億ドルを顧客と銀行から騙し取り、1980年代、モルゼ氏は5年の日々を監獄で暮らしている。
「毎年60回ほど、ビジネス倫理の講師として、企業だけでなく大学やFBIに招かれています」、とモルゼ氏は語る。講師料は少なくても500ドル、多ければ1万ドルに達する。「昔は株投資などで不正を犯すと、証券取引委員会から民事訴訟を起こされたものです。しかし今日、状況は変わり、単に訴訟だけでなく何百万何千万ドルという多額な罰金が科されます。これが、私のビジネス倫理講師業を忙しくさせたようです。」
映画をご覧になった方も多いと思うが、「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」はペテン師が主人公だ。モデルになったのがフランク・アバグネール氏、正真正銘の詐欺師だった。言うまでもなく、アバグネール氏のビジネス倫理セミナーは大繁盛だ。「年間で35回くらいセミナーをしていました。しかし不正会計が多発し、今では毎年100回以上のセミナーをしています。」
前科者からビジネス倫理講師、いったいどうやって彼らは大きく変身することができたのだろうか。ウォルター・パブロ氏に聞いてみよう。「監獄から出た後、何度か入社面接をしましたが、前科のある私を雇ってくれる所はありませんでした。しかし、ある会社での面接で、こんなことを言われました。「君を雇うことはできない。だが、我が社の社員たちを教育してほしい。」これが、私のビジネス倫理教育講師業のスタートになりました。」正に失敗を生かした成功例だ。