ウォールストリートで最も熱狂的な男、人はそうジム・クレーマー氏を呼ぶ。とにかく型破りなのだ。半分禿げ上がった頭は汗で光り、全くおとなしく話すことができない。いきなり椅子を床に叩きつけたり、とんでもない奇声を上げる。これが株番組なのだから、本当に世の中は変わった。
今年50歳になるクレーマー氏、ウォールストリートの表も裏も知り尽くしている。80年代、ゴールドマンサックスで経験を積んだ後、ヘッジファンドマネージャーに転向した。4億5000万ドルの資金を14年間運用し、成績は毎年24%のリターンを下ることはなかったという。これだけの好成績だから、クレーマー氏の個人資産も大きく増えた。しかし、優雅な隠居生活など、氏の頭にはない。
クレーマー氏の一日は午前3時45分に始まる。人気テレビ番組「マッド・マネー」、それ以外にもラジオ、コラムの執筆に追われ、仕事に一段落がつくのは午後7時頃だ。今、アメリカで投資と言えば、だれもが不動産を話題にし、株は厳しい環境におかれている。それにもかかわらず、なぜクレーマー氏は株式市場に異常な情熱を燃やすのだろうか。
ビジネスウィークとのインタビューで、氏はこんなことを語っている。「今日のアナリストたちは無色無臭、何の味もありません。テレビやラジオの株番組も同じです。企業の悪を暴くことばかりに夢中になり、大衆に役立つ情報を全く流していません。」少し説明しよう。アナリストがそうなってしまったのは、90年代のブルマーケットが原因になる。特にエンロンに見ることができるように、正当評価額を無視して、アナリストはエンロンが倒産する直前まで買い推奨を連発した。当然な結果として、アナリスト=嘘つき、の公式が出来上がってしまったわけだ。クレーマー氏の話に戻ろう。
「よくアナリストは、ニュートラル(中立)という格付けを発表します。そんなものは格付けではありません。」そのとおりだと思う。長いレポートを読まされて、その結果が「ニュートラル」では時間の浪費と言うしかない。アメリカだけに限らず、大衆が求めているのは使える情報だ。株の世界だから、当たり外れがある。しかし、クレーマー氏が人気者になった秘密は単刀直入に「買え」、「売れ」、と叫ぶからだ。「まだそんなモノ持っているのか、売れ!」スタイルに問題があるかもしれない。だが優等生アナリストの多い今日、一段と光るクレーマー氏だ。