ある大手企業が、20人のファンドマネージャーを使って、会社の資金を株で運用させた。一定期間が過ぎ、途中経過を報告させたところ、一つ腑に落ちない事が出てきた。最も優れた成績を上げたファンドマネージャーは、勝率が極めて低いのだ。ポートフォリオ全体の上昇率は文句無い。しかし、一つ一つ銘柄を調べてみると、下げ銘柄数が上げ銘柄数を、はるかに上回っている。何故こんなことが起きたのか、早速会社側はファンドマネージャーに説明を求めた。
「当たる確率はさほど重要なことではありません。大切なのは、当たった銘柄が、どの程度大きく伸びるかです。4社の株を買ったとしましょう。当然なことですが、3銘柄の損を小さく抑えて、残りの1銘柄で大きく儲けることができれば良いわけです。確かに個々の銘柄だけで見れば、3対1で下げの勝ちですが、ポートフォリオ全体はプラスになります。」
負け数が目立っても株で勝てる。三振が多くても、ベーブ・ルースのようにホームランを重要な場面で打てれば、株の世界で十分生き残ることができる。しかし、このやり方は言うほど楽ではない。1979年、ダニエル・カーンマン氏とアモス・トバルスキー氏は、こんな発表をしている。「利益と損が与える心理的影響は、圧倒的に損が利益を上回ります。比率にすれば約2.5対1です。」違った言い方をすれば、投資者はたとえどんなに損額が少なくても、心理的にはかなり大きなダメージを受けるということだ。
悪い打率で株の世界で勝つためには、強力な精神力が要求される。一つ一つの損で傷ついていたのでは、ベーブ・ルースにはなれない。「ベーブ・ルースは天才、そんな人と自分を比べるのは間違いだ」、と言われるかもしれないが、ベーブ・ルースは714本の本塁打を確かに打ったが、1330回の三振も記録している。一々三振する度に気を落としていたのでは、714本の偉業は達成できなかったはずだ。
スランプで全く打てない時、ベーブ・ルースは記者たちに、こんなことを言った。「相手ピッチャーが気の毒だね。これだけ打てないのだから、そろそろホームランがガンガン出る頃だ。」これが天才と凡人の違いだと思う。トレーダーたちもよく言うが、株は技術2割、精神力8割の世界だ。自分のルールに従って負けたのなら、必要以上に気を落とすことはない。繰り返すが、ベーブ・ルースは1330回も三振をしたのだから。