8時間は要らない。せめて6時間、いや5時間でもいいから毎晩ぐっすりと寝てみたい。バロンズ誌によれば、アメリカには6千万人の不眠症に悩む人たちがいる。およそ三分の一が医師に診てもらっているが、実際に処方せんが出ているのは、そのうちの半分だ。
「不眠症治療の処方薬マーケットには大きな可能性があります。正に眠れる巨人です」、と経済記者のヨアンナ・ベネット氏は言う。ベビーブーム世代の人たちが、次々と不眠症に苦しむ年齢に達し、処方薬の需要は2010年までに倍以上になる可能性が高い。証券アナリストのディーパック・カンナ氏も、「現在20億ドルほどの不眠症処方薬マーケットですが、向こう3、4年間で40億ドルに届くと思われます。安全そして効果的な新薬が開発されるなら、その製薬会社は大きく成長することでしょう」、と述べている。
不眠症患者には睡眠薬が処方せんとして出されるが、睡眠薬の問題はカンナ氏が指摘するように安全性だ。常用性の強い睡眠薬は規制薬物の一つに分類され、多数の医師もこれを患者に与えることを好まない。現在アメリカで最も使用されている睡眠薬は、サノフィ・アベンティス社のアンビエンだ。1993年から販売が開始されたアンビエンは、従来の薬より副作用が少ない。IMSヘルス社の話によれば、2004年、アンビエンの売上は19億ドルを記録し、これは米国睡眠薬マーケットの9割を占めている。
しかし、「来年アンビエンの特許が時間切れになります。ノーブランドの安い薬品に門戸が開かれるのです」、とベネット氏は強調する。さらにアナリスト、トリシア・ベーリー氏の言葉を付け加えよう。「アンビエンが特に優れた薬だったわけではありません。ただ他社が無視していた患者のニーズに応えただけです。」次のアンビエンを目指して、多くの製薬会社がこのマーケットに参加してくるわけだが、どの会社が有望なのだろうか。ベネット氏の意見を聞いてみよう。
「二社あります。まず武田薬品のロゼレムです。先月米国FDAから許可が下りましたが、不眠症治療薬として初めて規制薬物に属さない薬品です。もうひとつは、セプラコア社(SEPR)のルネスタです。データの不足が原因ですが、米食品医薬品局(FDA)はアンビエンの使用期間を10日間までに限定しました。しかし、ルネスタには6ヶ月間という長期服用が認められたのです。」
武田が勝つか、それともセプラコアか。もちろん、大手メルクやファイザーも黙っているはずがない。安全で常用性の無い睡眠薬、そんな薬を浅い眠りの中で、不眠症患者たちは夢みていることだろう。