アメリカを旅行された方なら覚えておられると思うが、レストランで食事をすると、15%から20%をチップとしてテーブルに置く。気の利いたテキパキとしたウェイトレスならチップ代など問題にしないが、時々あからさまに失礼なウェイトレスに巡り合うこともある。アメリカ社会の習慣だから仕方がない、と渋々チップを払うわけだが、こんなニュースがCNNから報道された。
ニューヨーク、マンハッタンの高級レストランはチップ制度を止めて、勘定に20%をサービス料金として自動的に上乗せするところが増えている。自動的だから、もちろんウェイトレスの良し悪しは全く関係が無い。今のところマンハッタンに限られた話だが、これは近い将来、全米のレストランに広がる可能性があるようだ。
なぜチップを廃止して、サービス料金制を導入する必要があるのだろう。CNNによれば、これは表方(ウェイトレスやウェイター)と裏方(コックなどのキッチンスタッフ)の争いが原因らしい。毎晩チップが手に入るウェイトレスの収入と、同様に忙しく働くコックの収入が、あまりにかけ離れてしまった。事実上レストランの評判はコックの腕にかかっているのだが、肝心なレストラン経営者はウェイトレスの機嫌ばかりを取っている。ようするに、コックたちの不満が爆発してしまったわけだ。
料理学校で講師を務めるビル・グフォイル氏は、「マンハッタンの高級レストランの場合、ウェイトレスやウェイターなどの表で働く人たちは年間で10万ドルに近い収入があります。しかし裏で働くキッチンスタッフは、せいぜい3万ドルがいいところです」、と述べている。サービス料金を実施することで、レストラン側は、この大きな収入格差を解決しようというわけだ。
単にチップと言うが、これを使って客はサービスに対する意思表明ができる。言わなくても客の心を察することができるウェイトレスなら、客は喜んで20%以上のチップを残していく。逆にいい加減なもてなしなら、10セント(約10円)をテーブルに置いて不快な気持ちを伝えることも可能だ。サービス料金制度、これは一番大切な客を無視した愚策だ。