2005年09月の「アメリカが赤字のワケ」では、アメリカが何故赤字を流し続けているのかについて書いた。
だが「何故アメリカは赤字なのに力強い成長を続けられるのだろうか」と、疑問をお持ちになった方も多いはず。
こうした経済の仕組みについては、テレビや新聞を見ても、わかりやすく解説されたものは皆無だ。
経済について、さまざまな視点から解説されているものの最右翼といえは、ニューズウィーク誌だろう。
経済誌を定期購読をするなら、これ一冊で十分だと思う。
以下のような点について、きちんと解説されたものは、残念ながら日本のメディアではお目にかかることがない。
5月のFRBの利上げ決定は、数日後から世界の市場に大きな影響を与えることとなり、最近ではこの影響で、日本もアメリカもマーケットは大きく下げ始めている。
このように経済活動の大きな流れに対して、金利を増減させて経済活動を調整するというのが金利政策の目的だ。
その理由は、金利政策をうまく運ぶことによって、紙幣の印刷量を変えることなく、経済活動を刺激する通貨量を、増減させることができるからにほかならない。
では金利と物価とは、どういう関係があるのだろうか?
過熱する経済に対しては金利を上げることによって、ブレーキをかけること ができる。
住宅ローンや企業への融資、クレジットカードローンの金利などが上がると、住宅や車などの売れ行きは鈍り、経済活動は冷え込む。
今回の利上げで株価が大きく動いたことでもわかるように、金利がほんの少し変わるだけで、失業率や物価など、あらゆる経済指標が影響を受けることになる。
このように、国際金融市場においては、世界経済の動向を見極めるには、 まず金利に注目するのが基本だ。
とりわけFRBによる金利の変更は、アメリカの金利だけでなく、世界中の金利と経済成長に、重大な影響を与えている。
だがこのような金融政策の匙加減というのは、かなりむずかしいのだ。
車の急ブレーキと同じで、あまりに急激な利上げは、経済成長を急減速させかねない。
逆に金利を下げることで、経済成長を加速させることができるが、副作用として物価がはね上がる可能性がある。
アメリカの例で言えば、2001年のテロ後、FRBが経済活動を刺激するために金利を下げると、日本車やフランスワイン、中国の繊維製品など、あらゆるものの消費に火がついた。
そしてアメリカ史上まれに見る不動産価格の上昇にもつながることになったのだが、ただし金利操作がこのように、すぐにうまく効果を発揮するとはかぎらない。
経済政策の金利政策の匙加減がまずいと、全く効果がない場合もあるのだ。
たとえば、日本はデフレから脱却するためには、5年にわたって「ゼロ金利」を維持し なければならなかったことは、みなさんよくご承知のとおり。
アメリカ経済は2001年に短い景気後退に陥ったが、それ以降は着実に成長している。
外国への雇用流出で失業者が増えるとの懸念も高まっているが、雇用の伸びも順調だ。
では、米経済は今後も力強い成長を続けられるのだろうか。
ここで冒頭の赤字についての話へ戻るが、米国の昨年の貿易赤字は7260億ドル。
一方で資本収支の黒字もほぼ同額だった。
この二つの現象は同じコインの表と裏といえばわかりやすいかもしれない。
貿易収支で輸出を上回る額の輸入が可能なのは、アメリカが資本の純輸入国だからだ。
昨年、外国人がアメリカの資産に投資した額は、アメリカ人が外国の資産に投資した額を上回った。
基本的な性質を誤解している人が多いのは、資本収支の黒字(貿易収支の赤字)を「借金」ととらえているからだ。
アメリカの繁栄は借金に基づくもので、借金の返済を迫られれば経済が破綻するというもので、日本のメディアでは常に繰り返されているフレーズだ。
だがその根拠は、貿易収支が黒字の日本の方が健全だという結論に結び付けたいからだろう。(笑)
アメリカが外国から得ている資本の一部は、借金といえるかもしれない。
いい例が、政府支出と税収の差を埋めるために発行される短期国債だ。
だが、それは05年にアメリカに流入した外国資本の15%に過ぎない。
アメリカに流れ込む外国資本の大部分は、外国人による民間資産、つまり企業の株式や債券への投資だ。
米企業はその資金をもとに投資を行ったり、事業を拡大したりしている。
アメリカが今後も他の国や地域に比べて政治的に安定し、投資の見返りを期待できる場所であるかぎり、投資は外国から流れ込む。
アメリカ以外に最適の国があれば話は別だが、いまのところすべてのバランスから最も安全な投資先といえば、まずアメリカが筆頭に挙げられるはず。
アメリカは、今後も資本収支は黒字、貿易収支は赤字という状況が続くだろう。
だがそれは米経済の弱さではなく、強さの証しなのだ。
もちろん、アメリカの資産や債券を保有している外国人が、大挙して売りに走ったら、アメリカの金融市場が不安定になったり、米経済が破綻したりするかもしれない。
日本のメディアでは、日本がアメリカの国債を売れば、アメリカは破綻するなどという馬鹿げた論調をよく目にするが、バカも休み休み言ってほしいものだ。
もちろんその可能性はゼロではないだろう。
だが、外国人が一度は魅力的だと感じた資産を売ろうと考えるのは、世界の金融市場で思わぬ変化が生じて大混乱に陥ったときだけだろう。
その場合でも、資産の売却は経済的な問題を引き起こす原因ではなく、予想外の事態が招く結果に過ぎない。
今も、アメリカ人のスキルやリスクを恐れぬ姿勢、独創性を高く評価する経済環境が米経済の大きな原動力となっている。
過去25年間に2度あった短期間の景気後退を除いて、米経済が好調さを維持できている理由はここにあるのだ。
もちろん、誰もが平等に経済成長の分け前にあずかれるわけではない。
アメリカの社会だけではなく、どの国にもスキルや学力には大きなばらつきがある地域が存在し、それが収入の格差を生んでいる。
とはいえ、昔に比べれば、最貧困層の人でも、あまり苦労せずに生活必需品を買えるようになっているし、生活水準は向上している。
貧困層に対して今以上に富が配分されるようになるのを阻んでいるのは、劣悪な教育制度だけだろう。
人種の多い米国では、こうした問題が浮上しやすいのだが、それでも経済は好景気を維持しているし、アメリカ人の生活水準は向上し続けている。
より豊かな生活が手に入るチャンスがあるからこそ、過去30年間に2000万人を超える外国人がアメリカへ移住したのだ。
貧しい生活を送らざるをえない移民も多いが、だが彼らは、いずれ豊かな暮らしを送れるようになると信じて生きている。
この希望がある限り、アメリカの経済は大きな破綻を招くことはないだろう。
出典
と上記の記事を書いたのは10年前。
2008年にリーマンショックで一時的な混乱は起こったが、その後すぐに持ち直している。
このようにアメリカの経済は大きな破綻どころか順調に伸びているのだ。
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