アメリカでは、グーグルやアップルなどの影響で、経済に対する考え方や流れが大きく変わり始めている。
不必要な不安から開放され、自分の将来についてかならず関わりを持つことになる「お金に関する実際に役立つ経済」について知っておくことは、大事なことではないだろうか。
こうした「今」の経済の流れや仕組みを知ることは、これからの自分自身の生き方にもプラスになるはずだ。
ナスダックに上場され、人気のある企業は、いわゆる「情報」そのものを商品にしているケースがほとんどだ。
それは、今までのカイシャの概念では計れないシロモノだといってもいいだろう。
というのは商品としての「情報」は、既存の商品とはまったく異なる性質を持っているからだ。
モノの価値はふつう、数量が少ないほど高くなる。
たとえば原油価格が急騰するのは、原油不足または、不足するかも知れないという不安感が原因の場合が多い。
だが情報の価値というものは、こうした一般的な概念とは全く別のメカニズムで決定されることが多い。
ウォークマンであれだけの足跡を残したソニーが、アップルのiPodに見事にしてやられたのは、この価値の違いを有効に生かすことができなかったからに他ならない。
コンピュータやインターネットの登場でわかるように、情報というものは、普及すれば普及するほど価値が高くなる。
たとえば、ファクスは1台だけあっても役に立たないが、どこのオフィスにも「普及」すると、簡単で手軽に文書をやりとりする便利な道具となる。
パソコンやネットワークも然り。
分かりやすい身近な例で言えば、ハードウエアそのものは、単なる部品を集めたものでしかない。
だが、多くのケースで商品としての魅力はハードウエアではなく、ソフトウエアにある。
もちろん斬新なデザインも魅力的な要素の一つだ。
だがiPodの持つ強い競争力は、ライバル製品より簡単に音声データを取得し管理できるソフトウエアの仕組みであり、この部分こそが、この商品の商品としての真の魅力となっている。
ハードウエアは真似ができても、ソフトウエアの仕組みさえ独創的であり、それが普及してしまえば、他社はトータルの商品として、その価値の真似をしようにもどうすることもできない、という時代になっている。
金利が引き上げられると、その影響を受け住宅ローンやクレジットカードの返済負担が重くなる。
当然消費者の懐具合は苦しくなり、モノの売れ行きに多少の影響は出るかもしれない。
だが、金利の上昇によってアップルが大打撃を受けることはない。
その理由は、昔の製造業と違って、膨大な借金を抱えているわけではないからだ。
生産設備を整えるために借金をしているのであれば、金利が上昇すると出費が増えるが、そもそもがアップルは、商品の「生産」を行っているわけではない。
アップルの社内で行う独創的な部分というのは、商品の企画やデザインのセクションだ。
実際に商品を作っているのは、ほとんどがアメリカ国外の工場でだ。
さらに企業の吸収・合併に積極的でないところも、アップルが従来型企業とは違う点だ。
M&Aは、状況が悪化したときに行われる傾向が強い。
新しい音声通信技術が登場したときには、電話会社は合併を繰り返すしかなかった。
だがが、今のグーグルやアップルのようなハイテク企業は、じっくり段階を追って成長するため、企業の吸収・合併はそれほど重要な要素ではなくなってきているのだ。
企業が合併する理由とは何だろうか?
それは、規模が大きくなれば競争に勝てると考えるからだ。
だがモノではない知識や創造性を売る情報経済型の企業の場合、事業の規模と創造性はほとんど関係がない。
そのため、会社の規模を大きくするだけでは競争には勝てないのだ。
情報経済型の企業が吸収・合併に強い意欲を示すときというのは、他社の保有するコンテンツ、つまり情報の内容が欲しい場合だけに限られる。
では、次に貿易赤字の点から、iPod のビジネスモデルを考えてみよう。
iPodのハードウエアの生産委託先の台湾企業インベンテックにアップルが支払う金額は1台当たりで150ドルほど。
昨年第4四半期のiPodの売り上げは1400万台に達したため、アップルはアメリカの貿易赤字をおよそ21億ドル増やした計算になる。
この金額は、同時期の米国の貿易赤字額の1%余りに相当する。
では、iPodはアメリカ経済の足を引っ張っているのだろうか?
そうではない。
iPod が成功する前の株式市場でのアップルの株価は9ドル台まで低迷していた。
だが現在は6倍以上にはね上がっている。
この株価急騰をもたらした最大の要因は、投資家がiPodの大成功を高く評価したからだ。
このように、一部では盛りを過ぎたと考えられている米国で何故 iPodが莫大な富を生み出しているのだろうか?
その理由は、iPodの生産委託額は、アメリカの貿易赤字の一部となっているかもしれないが、それをはるかに上回る額が、株などへの投資として還流され、米国経済を押し上げているからだ。
このように製品のコンセプトや仕組みをデザインし、国外で安価に生産することは、情報経済で生き残る有効な手段の一つだ。
貿易赤字は増えても、富が増えればバランスが取れるから問題はなくなるというわけだ。
アメリカから流出したお金は、アメリカ市場への投資という形で還流する。
このように「経済における先進国」は、社会の少子高齢化などで「経済が盛りを過ぎた」ことを心配する必要はなくなるということを実証し始めている。
自分たちは頭を使い、モノづくりはよその国にやらせればいいという、交際社会での分業を効率よくスマートに行う術をすでに手に入れたのだ。
グーグルの株価は、何よりもその価値を雄弁に物語っている。
私もそうした経済活動に、トレードという仕事を通じて日本から加わることができるのだが、よく考えればこれだって、よくできた仕組みだと言っていいのではないだろうか?
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