・・というわけで、大成さんのブログから転載させていただきます。
2011年6 月19日 (日)東日本大震災復興支援の夏(1150回記念)(7)
2000年の3月より、北海道噴火湾でのホタテ養殖改善の研究開発事業が始まりました。
この噴火湾は、広島江田島湾(水深20m)よりも広くかつ深い海(40m)です。そしてホタテの筏も大きく、かつ長いものでしたから、そのことを考慮して装置の設計をすることが求められました。
そこで、広島で用いたM2改良型(カキ筏のなかに垂直に吊るすために、そして横方向に広げるために、装置の下部に円盤状の衝突板を取り付ける工夫をしたタイプ)から、M3型と呼ばれるステンレス製の装置を開発しました。
これを海水用水中ポンプに2機配備しました。この改良は、マイクロバブルを一方向に噴出させることによってより広く拡散させるために工夫でした。
また、噴火湾では海が荒れることもあり、ステンレス製にして丈夫にすることの配慮もなされました。
この装置を噴火湾の水深15mの位置に入れ、マイクロバブルバブルの出具合を水中カメラで観察し、マイクロバブルが問題なく発生していることを確かめました。
同時に、陸上の水槽内でも、M2型を改良したステンレス製のマイクロバブル発生装置の配備もなされました。
これは、稚貝の分散や耳吊り作業時の貝の斃死防止に威力を発揮しました。
結果として、約2倍の成長促進と、それらの作業時におけるホタテの大量斃死の防止が完全にできるようになり、さらには、ホタテのグリコーゲンが増加して、その肉質改善もなされました。
これらの飛躍的な改善の基礎に、上記のようなマイクロバブル発生装置の改良と工夫があり、装置の進化がなされました。
当時、漁業関係団体の幹部の方が、次のようによく言われていました。
「これまでの漁業の技術開発においては、先端技術が開発されても、それが回りまわって、それこそ最後の段階でようやく、漁業の分野に適用されるという歴史を繰り返してきました。
ところが、先生は、マイクロバブルという最先端技術を、いちばん先に漁業に適用してくださいました。これはとてもありがたいことです」
これに対して、私は、こう返答していました。
「そう言ってくださって、とても光栄です。私には、その順番は関係なく、求められているところに、すぐに使うことが大切だと思っています。
それから、海水マイクロバブルは、淡水のマイクロバブルよりも数倍の効果がありますので、海に適用することの方が成功する確率が高いのです。この利点を発揮させることをおろそかにするわけにはいきません」
こういうと、彼を含めて漁民の方々も大変喜ばれていました。
それだけ、マイクロバブル技術は海に適しているのです。しかし、私を含めて、この海への応用問題、さらには海水マイクロバブルの科学的解明が意外と進んではいません。
なぜでしょうか?
ここにも、重要な問題の所在があるように思います(つづく)。
2011年6 月21日 (火) 東日本大震災復興支援の夏(1150回記念)(8)
広島カキ養殖、北海道ホタテ養殖に続いて、2001年から三重の真珠養殖改善にも取り組むようになりました。
この場合は、より深刻で、2000年には、国産真珠貝の大量斃死現象(ほぼ100%に近い)が起こっていました。
これは、「赤変病」と呼ばれる、貝柱が赤くなる病気を伴う現象であり、その防止が重要な課題となっていました。
この舞台となった英虞湾の平均水深は約10m、アコヤガイの筏を下げる位置は水表面から3mまでした。
しかし、この筏の範囲は、80m四方と広く、ここにいかに有効にマイクロバブルを供給するか、この点を考慮して装置を設計することが第1の問題点でした。
その第2は、ほとんどの真珠養殖業者が海岸沿いに自分の工場を持ち、そこでの作業を行うときのことでした。
卵抜き(アコヤガイの卵巣内の卵を吐き出させる)、挿核(卵抜き後に、核の珠をアコヤガイの卵巣に入れる作業)、から養生(挿核後に、貝を静かに海中で養生させ、真珠層の巻きを促す作業)までの作業を行いますので、ここにもマイクロバブルを与える問題がありました。
前者においては、より大きな装置が必要であり、後者においては、小型の装置が必要でした。
そこで、このときに考案したのが、M2ーM型装置を4連結させて、船に備え付けの洗浄用ポンプに接続させるシステムでした。
そのときまでには、発電機を丸ごと船に搭載させる方式でしたので、ここで重要な変化が起こりました。
これは、ある浜に視察に行った時に、若い漁師から、この船に付属のポンプを利用できないかと相談されたことがきっかけでした。
圧力が大きくて、流量もかなりあるポンプが、アコヤ貝の洗浄用としてすでに備え付けられていましたので、それを利用できないかという提案であり、「これはよいものがあった」とすぐに、その採用を決めました。
この4連結の装置の威力はすばらしいものでした。この装置を船に搭載し、広いアコヤガイの筏の中を順繰りに動きながらマイクロバブルを発生させていきました。
これだと、筏がいくら広くても大丈夫で、マイクロバブルを与えては移動し、さらにマイクロバブルを与えるという作業を繰り返すことで、広い筏内のアコヤガイの成長を促すことができました。
すなわち、この移動方式で海の広さの問題を解決できたのでした。
また、このマイクロバブルが発生している様子を水中撮影して見事な映像を撮ったのが、当時NHKの有名カメラマンであったKさんでした。
このKさんとは、この時がきっかけとなり、大変親しい仲となりました。今では、彼にとってマイクロバブルはなくてはならないものとなり、実際に彼の窮地を何度も救ったのがマイクロバブルでした。
これらの様子は、ほんの一部ですが、このブログでも紹介させていただきました(K1さん)。
水中ポンプと一体になった小型の2機装置も、卵抜き、挿核、養生に活躍しました。それらの3過程において、マイクロバブルの適用が功を奏したのです。
これは、それまでの真珠養殖の常識を根本から覆す画期的な試みとなりました(つづく)。
2011年6 月26日 (日)東日本大震災復興支援の夏(1150回記念)(9)
こうして広島江田島から、北海道噴火湾、三重英虞湾と続いた一連の水産養殖改善の結果を踏まえますと、そこには次のような特徴がありました。①マイクロバブル発生装置を、その都度改良していくことで、より効果的な装置開発が可能となり、現場に役立つことになりました。
すなわち、M2ーL 型のカキ用、M3ーL型のホタテ海面用、M2-M型4機のアコヤガイ用と装置が進化していきました。
②ここでは、装置の構造の単純化と小型化が模索されており、それが持続的に追及されることになりました。
③同時に、広島カキ養殖改善の研究において見出されたマイクロバブルの生物活性作用、これについても、その後に重要な解明がなされていきました。
その第1は、この生物活性が酸素濃度の変化とは無関係に発生する固有の特徴であることを明らかにしたことです。
これは非常に重要な解明であり、マイクロバブルの生物活性作用のメカニズムを解明するうえで決定的なヒントになりました。
「マイクロバブルの生物活性には何か独特の今まで知られていないメカニズムがあるのではないか」
この仮説を抱くようになっていったのでした。
第2は、水温が高温になり過ぎると、マイクロバブルの効果ですら及ばなくなるということでした。
真夏の暑い時に、三重の英虞湾で実験をしているときでした。アコヤガイの心臓に血流センサーを付けてマイクロバブルによる、その促進効果を調べているときに、その限界を見出したのです。
「おかしいな?マイクロバブルをいくら与えても、血流促進が起こりません」
このようにいわれ、首をかしげながら、その原因を探っていくと、その時の水温が30℃近くにまで達していたのです。
アコヤガイも植物と同じで、水温の高温限界が約28℃であることを後に知りましたが、その時には、その限界があることを知りませんでした。
「おかしいな?と思いながら、水温が下がるまで待ってみましょう」
こういいながら、水温が29℃以下になると、マイクロバブルによる血流促進の効果が発揮されることを見出すことができました。
こうして、装置開発とともに、マイクロバブルによる生物活性に関する貴重な成果が一歩一歩現場で積み重ねられて行きました。
2011年6 月27日 (月) 東日本大震災復興支援の夏(1150回記念)(10)
広島カキ、北海道ホタテ、三重真珠に続いて有明海タイラギ漁改善にも取り組みました。この時には、装置をさらに改良しました。それらの特徴を列挙してみましょう。
①広島カキ マイクロバブル発生装置(カキ筏用、M2-L型、水中ポンプ1台に発生装置2機)
②北海道ホタテ マイクロバブル発生装置(M3-L型、水中ポンプ1台に装置2機)
③三重真珠 マイクロバブル発生装置、M2-M型(洗浄船配備のポンプを利用し、装置4機)
④有明海タイラギ マイクロバブル発生装置、M2-MS型6機と4機を各2セット、合計20機
タイラギは、実験用の浜に沖から移植して専用の実験地域(浜)で行うことにし、その周囲に、実験用水中ポンプと合計20機のマイクロバブル発生装置を配備しました。
そして、水中ポンプは潮の干満に応じて自動的にスイッチがオン、オフになるようにし、一日12時間のマイクロバブルの発生を自動的に可能にしました。
この浜では、すでにタイラギが住めなくなって久しく、ここで立派に成長すれば、それこそ人工的にタイラギを養殖できることにもつながりますので、少なくない関係者から注目されることになりました。
しかし、このころから、沖で獲れていたタイラギがめっきり少なくなり、ほとんど見当たらないという状況に追い込まれ始めていました。
それゆえに、この浜でのタイラギ移植実験実験の持つ意味も小さくありませんでした。
私たちも、月に1、2回、それこそ足しげく、この有明海の三井港の浜に通いました。このとき、装置は、海岸壁から約80mに設置し、それこそ浜の砂の上に据付ました。
この辺りは、砂といっても粘土質の黒いもので臭いを嗅ぐとわずかに腐敗臭がして、やがて生物が住めなくなる恐れのある砂浜でした。
それでも、場所によっては、アサリが獲れるところもあり、それを掘りに来る漁師の方もあるところでした。
この浜に装置を据え付けたのちに、それが正常に作動しているかどうか、この点検を行いました。
ここで困ったことは、装置がすっぽりと砂浜の上に現れるのは大潮の時のみであり、その時刻に合わせて、こちらも入浜するというスケジュールを組まざるを得なかったことでした。
その大潮で一番潮が引く時刻、これがいつも、早朝の3時~4時であり、その時刻に合わせてホテルを出て、短時間に、その点検を済ませる作業を行いました。
しかし、この作業に手間取ると、潮が満ちてきて、それこそ、冬の海中で濡れながら作業をすることもあり、それこそ試練を経験し、文字通り心身を鍛えられました。
そして、その鍛錬が進むとともに、マイクロバブルの効果が徐々に現れてきました。何が変わってきたのか、それを、それこそ鋭い観察力で見分ける必要があり、そのために、足しげく浜に通い、その浜で、じっと時間の許す限り、佇み、足下を見続けることが重要でした。
現場に赴き、手早く点検と修復の作業を行い、おして隈なく観察する、しかも鋭く丁寧な観察を行う、それを何度も行うことで、マイクロバブルによる微妙は変化を認識できるようになるのです。
このころ、よく、次のような発言をしたことがありました。
「あなたは、何も変わっていないとよく仰りますが、現場にいって、浜を歩いて、じっくり足下の浜を観察したことがありますか?」
「遠くから眺めているだけでは何もわかりませんよ!」
「スコップで砂浜の表面の砂を除けて砂浜の中を観察したことがありますか?」
「マイクロバブルの装置の近くの浜と遠くの違いがわかりますか?」
これらは、、それこそ足で現場を踏んで確かめながら、自問自答を繰り返し、「そうか、ここに違いがあったのか、こうして何度も確かめないとわからにことだ!」という思いを抱くことで形成された観察の結果として生まれたことでした。
「観察力」、これは、現場に足しげく通い、そこですべてもものを丁寧に、そしてじっくり観て、その場で考える、さらには、この観る目を養い、修行するというとても大切なことが問われていて、マイクロバブル博士としての私も、随分、修行をさせていただくことになりました。
そして、その修行のおかげでしょうか、そこには、驚くほどの「マイクロバブルの世界」が創造されることになりました(つづく)。