Tokyo Walk
土風炉
土風炉新宿店。「土風炉」は(株)ラムラのチェーン店
。
以前有楽町にオフィスがあったときも、この店の銀座店をよく利用していたため、米国人スタッフは、このレストランを「忍者屋敷」と呼んだことから、現在も我々の間では、「ニンジャヤシキ」と呼んでいる。
こうした写真からは、オフィスビルにある店には見えない
居酒屋は新旧の交代の非常に激しい業態だと言われている。
居酒屋の通常の客単価は約2,000円から2,500円だというが、この「土風炉」は、その上の3,000円から4,000円の上位業態を狙っている
ようだ。
「土風炉」の1号店は東京・高田馬場駅前のビルの4階。
元映画館だった物件のため、その天井の高さを生かした空間をうまく利用、演出し、それが当たったというわけだ。
この大きさこそが居酒屋にとって、最も儲けの大きな宴会の需要を、「きめ細かに」吸い取るための重要なファクターとなったようだ。
この新宿店には、その最新のノウハウが注ぎ込まれている。
二人用の席には暖簾をうまく利用し、個室感を演出
店内は260席で個室は19室。
カウンター席から2人掛け、4人掛けのテーブル席、さらには大小さまざまな広さの座敷数まで、利用者のあらゆるニーズに対応できるような客席を備えている。
(株)ラムラは、WEBを見ればわかるが、居酒屋の「にほんばし亭」などを展開してきた居酒屋経営のノウハウが非常に豊富なのだろう。
田舎屋風というか、忍者屋敷風のインテリアは、銀座店と同じように昔の日本のモチーフが使われている。
こういういわゆる居酒屋レストランは、カジュアルダイニングというジャンルに入るらしく、大規模形態で勝負するという傾向にあるようだ。
このようなちょっとした装飾を加えた一見無駄に思える投資がされている。
つまり食事だけの価値ではなく、人と会食をする楽しさを、どれだけ演出できるかという点に、成否がかかっている。
こうしたレストランカテゴリーでは食事の品質だけでなく、サービス、インテリアやエクステリアデザイン、照明を含んだ中の雰囲気、清潔さ、などのいわゆる店舗側のセンスが問われるといっていいだろう。
店のデザインを含めた演出という意味での商品力は、居酒屋ではトップクラスだろう。
「にほんばし亭」は個室の作り方に定評があると業界ではいわれていたようだが、「土風炉」はそれをさらに進化させている。
このチェーン店では、一貫したポリシーがあるといわれている。
それは「地域一番店をめざす」という発想だという。
居酒屋というのは、いわゆるブランド力というのは通用しない業態で、そのために、少しでも油断をすると新しい勢力にとって代わられるという厳しい競争がある。
だからこそ、「その地域でトップになること」が生き残るための、最も重要なポイントとなる。
足を伸ばせる掘りごたつ風の個室はもちろん宴会需要用
メニューを見ると一品ごとの品質も非常に高く、それでいて価格があまり高くないような値ごろ感が非常にうまい。
刺身などは、いわゆる刺身居酒屋に負けないレベルで、一品料理にしても200円台からあり、さらには中華やイタリアンなど
のジャンルまで幅広い種類をカバーしている。
カバーするジャンル幅の広さを、割安感が出るような価格設定と組み合わせているのだが、このあたりのバランスが非常にうまい。
割安感から注文する品数がつい多くなってしまう、という巧妙な作戦だ。
多分客単価は、3500円から4000円前後だろうと思う。
女性客を取り込むために、照明にも気を使った雰囲気作りがされている。
夜は娘と再び行ってみたが「土風炉」は、2人でも十分に満足できるメニューを揃えている。
時間も少し早かったせいもあるだろうが、カウンターには一人で来ていた客も複数見受けられた。
これは大事なポイントをおさえているという「証」にほからない。
宴会の客ばかりではなく、少人数の客のこともけっしておろそかにはしていないということだ。
たとえば、同じような客単価の刺身居酒屋などで刺身をオーダーすると確かにボリュームはあるから、単価を考えれば確かに安い。
そのかわりある程度の人数でないと、何品も楽しめないということになってしまう。
だが、この店では低価格の一品料理も「ほどよい量」で揃えているから、一人でも楽しめるようになっている。
十割蕎麦
個人的には「十割蕎麦」がお勧め。
香りは若干弱いけれど、麺の表面は滑らかで、喉越しもよし。
量もちょうどよく、他のメニューも食べたいときは「半もり」もある。
砕いた氷が散りばめられているから見た目はいいが早く食べないと、水っぽくなる。
つゆは少し甘め。
一杯飲みながら一通りの料理を食べたあとで、食べるというシチュエーションを考えると、なかなかのものといえるだろう。
メニューの価格設定や量とのバランスコントロールによって、客層や来店動機の幅を広くして、来店頻度を高めることを考えている。
アルコールについても、店に入ったときに受ける高級感とのバランスで考えれば「安い」と思わせる価格設定がされている。
刺身などにはしっかりとした値段をかけているが、中華メニューやスパゲティ、ピザなどは比較的低原価を低く抑え、利益を稼ぎ出しているようだ。
「どれもそう高くはないのだけれど、かといってこれだというような、売りものがない」などという店は、客側にとって、あまり印象に残らなものになってしま
い、リピートが期待できないことになる。
このあたりの、メリハリのつけ方は非常にうまい。
ランチタイムには順番待ちの列。
こうしたメニューを提供できるのは、しっかりとした調理人がいるからだろう。
カウンター席の内側では、焼き鳥などの焼き物作業の調理人がの姿が見えるが、これも適度なライブ感を醸し出している。
そしてそれが単なる演出に終わらずに、メニューにきちんと反映されている。
調理人の技術が商品力になっていることは、「ごぼうとこんにゃくの煮物」の完成度の高さからも窺い知ることができる。
刺身の切り方や火の通しかたなども、料理の基本を抑えた、高い品質を維持している。
また、器の選び方にも神経が行き届いているから、デートや簡単な「接待」にも「使える」店となっている。
ただ、接客サービスの質はやはり居酒屋どまり。
若いバイトが中心なだけに、これは仕方ない部分だ。
だが、このような高級居酒屋は、接待需要の一部にも、着実に食い込んでいるようだ。
ただしマーケットサイズはそれほど大きなものではないから、競争は非常にシビアだろう。
だけど、我々客側にとっては、とてもうれしい状況だといえる。
日本食ランチやディナーの選択肢が増えるのだからね。
やはり只者ではなかった「忍者屋敷」。(笑)
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