インターネットが引き起こしつつある変革の性質を、ひとことで表すなら「ダイレクト・アクセス」だと思う。メーカーと顧客、ミュージシャンとファン、総理大臣と市民・・・etc.。これまで、ヒトの媒介が必須だった関係が、文字通りダイレクトに結べるようになったのだ。そしてネット歴14年の筆者が、ここ数年でもっとも衝撃を受けた「ダイレクト・アクセス」の具体例は、アメリカの「ダイレクト・アクセス・トレーディング(以下DAT)」である。株式市場に、個人ユーザーが直接注文を出すシステムのことだ。ニューヨーク市場やナスダックに上場されている銘柄であれば、世界中どこからでも、リアルタイムに売買に参加することができる。昔の感覚でいえば、取引所の「立会場」に自らが立ち、買い手や売り手に直接値段を提示するということなのだ。
馬渕一さんは、シアトル在住の個人プロフェッショナル・トレーダー。株価チャートを正確に読みこなすDATの名手として、Web上ではカリスマ的な人気を得ている。DATを始める前は、金融ともコンピュータとも直接は関係の無いビジネスをされており、日本在住時はプロのミュージシャンだった時期もあるというユニークな方だ。現在は、日本からDATを試みようとする人のためのセミナーを東京でしばしば開催されており、太平洋を往復する日々だという(馬渕さんのサイト)。
馬渕さんほどのDAT技術があれば、悠々自適の暮らしが送れるはずなのだが、なぜセミナーなのか。意外な答えが返ってきた。
「人の役にたつことは快感ですから。あと、これは可能性のひとつとしてですが、障害をお持ちの方でもきちんとノウハウを知れば、DATによって経済的な自立をすることができます」
そう、実際にアメリカでは重度のハンディキャップでベッドに寝たままの方が、特殊なインターフェイスを使ってオンライン・トレーディングをしている例もある。馬渕さんのセミナーとDATによって、静かなIT革命が起きるかもしれない。 |