ミトコンドリアは赤血球以外の全ての細胞に存在する細胞内小器官です。
1個の細胞当たり平均で300-400個のミトコンドリアが存在します。
肝臓や腎臓や筋肉や脳など代謝が活発な細胞には数千個のミトコンドリアが存在し、細胞質の40%程度を占めています。
体全体で体重の約10%を占めると言われています。
まだ酸素が無い太古の地球に生きていた生物は解糖系のみでエネルギーを得ていました。
ところが、海中に発生した藻類が光合成によって吐き出す酸素が大気中に増えていくと、酸素の無い環境で生きていた生物は酸化力の強い酸素に触れることでダメージを受けるようになります。
そのためこの時期には原始真核生物の多くが絶滅し、あるいは酸素の影響を受けることのない深海などに移動していきました。
このような状況で誕生したのが、酸素を使ってATPを生成する好気性細菌です。
そして、約20億年前に好気性細菌のα-プロテオバクテリアが原始真核細胞に寄生してミトコンドリアになったと考えられています。
大気中に増える酸素による悪影響に苦しんでいた嫌気性の原始真核生物にとって、酸素を使ってATPを作り出す好気性細菌との共生は好都合でした。
好気性細菌は生体にダメージを与える酸素をグルコースに結合させ、二酸化炭素と水に分解し、さらにその過程でATPを大量に生成することができるからです。
この細胞内共生によって酸素が豊富な環境で生物が急速に進化することになります。
ミトコンドリアは酸素を使ってグルコース(ブドウ糖)や脂肪酸やアミノ酸を燃焼してエネルギーのATP(アデノシン3リン酸)を産生する働きがあります。
ミトコンドリアはATPの産生以外に、カルシウム代謝の制御、様々な物質の合成、アポトーシス(細胞死)の制御など重要な細胞機能を担っています。
このように、ミトコンドリアは細胞の生存と死の両方の制御に重要な働きを担ってます。
この点が、がん治療のターゲットとしてミトコンドリアが注目されている理由です。
ミトコンドリアの働きを活性化するとがん細胞の増殖や転移が抑制されることが報告されています。
しかし一方、ミトコンドリアの活性化が、逆に増殖や転移を促進する場合があることが報告されています。
このように、がん細胞のミトコンドリアの活性化によるがん治療には賛否両論がある状態です。
これは、ミトコンドリアの活性化や活性酸素の産生のレベルが関係しています。
中途半端な活性化では細胞活性を亢進し、高度な活性化では細胞活性を抑制すると考えるのが妥当です。
活性酸素の発生を増やし、酸化ストレスを極度に高めるとがん細胞の機能は破綻して自滅するのです。
細胞内のミトコンドリアの増殖を刺激することによって、細胞内のミトコンドリアの数と量を増やすことができます。
ミトコンドリアを増やすとがん細胞の増殖や浸潤や転移が抑制される
がん細胞のミトコンドリア新生を刺激してミトコンドリアを増やすと、細胞のがん化や悪性進展が阻止されることが報告されています。
解糖系が亢進し、乳酸が増え、がん細胞の周囲が酸性化すると、がん細胞が周囲組織に浸潤しやすくなり、転移が促進されます。
血管新生も亢進します。
ミトコンドリアDNAを欠損させて、ミトコンドリアでの酸化的リン酸化を阻害すると、がん細胞は悪性度を増し、浸潤や転移が促進されることが報告されています。
逆に、がん細胞のミトコンドリアの機能を活性化すると、がん細胞の浸潤や転移が抑制できることが報告されています。
DNAの構造解明でノーベル賞を受賞したジェームズ・ワトソンはがん細胞は酸化ストレスを高めて死滅させるべきだと主張しています。
がん細胞に高度に酸化ストレスを高めることができれば、死滅させることが可能だと考えられています。
しかし、中途半端な酸化ストレスだと逆に増殖や転移を促進することになります。
がん細胞に酸化ストレスを高めて死滅(自滅)させる治療を行うためには、複数のメカニズムを組み合わせ、がん細胞に選択的に徹底的に酸化ストレスを高めることが重要です。
参考資料
代謝をターゲットにしたがん治療(その3):ミトコンドリアを増やすとがん細胞は自滅する?から一部引用しています。
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