がん患者はわずかな利益のために副作用の強い抗がん剤治療を受け入れる
標準治療が認めている通常の抗がん剤治療は強い副作用を伴います。
副作用が耐えられるギリギリの量(最大耐用量という)の抗がん剤を投与するためです。
抗がん剤の量を減らして副作用の少ない低用量の抗がん剤治療を行う場合もあります。
強い副作用を伴う治療でも、治癒する可能性が3割くらいあれば、その治療を受けてみようと決断する人は多いはずです。
しかし、治癒する確率が1%しかないと言われると、その抗がん剤治療を受ける事を拒否する人の方が多くなるのです。
しかし、がん患者さんは、治癒する確率が1%と言われても、副作用の強い抗がん剤治療を受けることが報告されています。
化学療法に対するがん患者の受け止め方を、医師や看護師や一般市民の見解と比較した研究が英国で行われています。
Attitudes to chemotherapy: comparing views of patients with cancer with those of doctors, nurses, and general public.(化学療法に対する態度:がん患者の見解を医師、看護師、一般市民の見解と比較する)BMJ. 1990 Jun 2;300(6737):1458-60.
この研究はロンドンのがん治療専門の病院で、新たに固形がんが診断され、化学療法による治療が計画され、アンケート調査が完了した100人が対象です。
患者群と年齢・性別・人種・仕事の構成を一致させた100人のコントロール(対照群)、315人のがん治療専門医師(238人の放射線治療医と77人の腫瘍内科医)、無作為に選ばれた1500人の一般開業医、1000人の無作為に選ばれたがんがん治療に携わる看護師と比較されました。
通常の考え方では、受けることによるメリット(治癒する確率、延命する期間、症状が緩和する確率)が大きければ、副作用の強い化学療法でも受けてみようと考えはずです。
副作用が少ない化学療法であれば、治療から得られるメリットが少なくても、治療を受ける判断をしやすくなります。
対照群(がんに罹っていない一般人)では、副作用の強い抗がん剤治療を受けるには、中央値として、治癒の可能性が50%、生存期間が24-60ヶ月延長、症状緩和の確率は75%が必要と考えています。
つまり、この程度のメリットがなければ半数の人はこの治療を受けないということです。
副作用の軽い化学療法の場合は、治癒の確率が25%、生存期間延長が18ヶ月、症状が改善する確率が50%であれば、半数の人はこの治療を受けるという結果です。
副作用の少ない治療であれば、得られるメリットが少し低くても受容するということです。
一方、がん患者は、治癒の可能性が1%、生存期間の延長が12ヶ月、症状が改善する確率が10%あれば、副作用の強い集中的化学療法を半数は受けると答えています。
副作用の軽い化学療法であれば、1%の治癒の可能性、3ヶ月間の生存期間延長、1%の症状の改善が得られる可能性があれば半数は受けるという結果です。
一方、開業医やがん専門医やがん治療に関わっている看護師の意識調査では、副作用の強い集中化学療法を受けるには、治癒の可能性が10%、生存期間延長が12-24ヶ月、症状の改善が50-75%の効果が得られなければ、半数以上はこの治療を受けないということです。
副作用の少ない抗がん剤治療の場合は、治癒の可能性が10%、生存期間延長が6-12ヶ月、症状の改善が25%の効果が得られなければ、半数以上はこの治療を受けないという結果です。
つまり、がん患者さんは、がんにかかっていない人(医師や看護師を含めて)よりも、有益性の可能性が低くても抗がん剤治療を選択する可能性が非常に高いことが示されたのです。
遠隔転移のある固形がんの場合、集中的化学療法を行っても、治癒の可能性は1%もなく、生存期間の延長が12ヶ月を超えるものもほとんど無く、症状が改善する確率は10%も無い(むしろ症状は悪化し、QOLは低下する)ので、本来なら、ほとんどのステージ4の固形がんの患者さんは、集中的化学療法を受けたく無いと判断するはずです。
しかし、ほとんどのがん患者さんは集中的化学療法を受けています。
それは、治癒の確率は1%以上あると信じているからかもしれません。
前述のようにステージ4のがんは根治が困難であることを理解している人が少ないという報告もあります。
一方、治癒が望めないと理解しても、抗がん剤治療を受ける患者さんは減らないという調査結果もあります。
このように、ほとんどのがん患者さんは、わずかな利益のために集中化学療法を受け入れる態度を示すことが、死の直前まで副作用の強い抗がん剤治療を受け入れている理由の一つになっています。
ただ、死が迫っている進行がんの患者さんが、1%で治る可能性があれば、抗がん剤治療を受けようとする心理は理解できます。
末期がんの抗がん剤治療は苦しむだけで延命効果はない
体力や抵抗力の低下している時に抗がん剤治療を行なうことは、すでに低下している免疫力や体力に壊滅的なダメージを与え、生命力そのものを低下させ、死を早める結果にもなります。
抗がん剤投与によって免疫力や生体防御力が低下すると細菌やウイルスに感染しやすくなり、ますます全身状態が悪化して死を早めます。
西洋医学のがん治療には、体力や抵抗力を高めて延命する視点は乏しいと言わざるを得ません。
抗がん剤治療に代表されるように、病気の原因を取り除くためには体の抵抗力や治癒力を犠牲にしても構わないという考え方をしがちです。
「がんは小さくなったが、患者も亡くなった」ということがしばしば起こっています。
末期がんの状態で抗がん剤治療を受けると、苦しむだけで延命効果は無いことが明らかになっています。
末期がんで緩和の目的で抗がん剤治療を受けるとどうなるかという研究結果が米国から報告されています。
Associations between palliative chemotherapy and adult cancer patients' end of life care and place of death: prospective cohort study. (緩和的化学療法と成人がん患者の終末期ケアと死亡場所との間の関連性:前向きコホート研究) BMJ. 2014 Mar 4;348:g1219.
この研究は米国の8カ所の腫瘍クリニックで治療を受けた386例の末期がん患者の解析です。
216例(56%)が緩和の目的で抗がん剤治療を受けていました。
集中治療室(ICU)で亡くなった割合は、抗がん剤治療を受けなかった群が2%で、抗がん剤治療を受けた群では11%でした。
死亡時に心肺蘇生や人工呼吸器装着を受けたのは、抗がん剤治療を受けなかった群が2%で、抗がん剤治療を受けた群では14%でした。
自宅で亡くなって割合は、抗がん剤治療を受けなかった群が66%で、抗がん剤治療を受けた群では47%でした。
ホスピスなど自分が希望した場所で亡くなった割合は、抗がん剤治療を受けなかった群が80%で、抗がん剤治療を受けた群では65%でした。両群に生存期間の差は認めませんでした。
この研究の結果は、余命数ヶ月の末期がん患者に抗がん剤治療を行うと、「延命効果はなく、生活の質が低下し、在宅やホスピスで亡くなる率が低下し、ICU(集中治療室)で亡くなる率が高くなり、最後に心肺蘇生や人工呼吸器装着をされてしまう」ということを示しています。
抗がん剤依存症:医者も患者も抗がん剤治療を過大に評価している
私は抗がん剤治療を否定はしていません。
がん治療において、適切な抗がん剤の使用が有益であることは十分に理解しています。
しかし、「固形がんに対する最大耐用量の抗がん剤投与」によるがん治療には多くの欠陥が指摘されています。
奏功率(腫瘍の縮小率)や無増悪生存期間の延長で有効性が示されても、全生存期間を延長するとは限らないことが明らかになっています。
抗がん剤治療の奏功率を高めることを優先する結果、抗がん剤の副作用で苦しんでいる患者さんは増えています。
抗がん剤治療に過大な期待を持つため、死の間際まで無駄で有害な抗がん剤治療が行われているという状況にあります。
ある医師は大学を卒業して肝胆膵(肝臓、胆のう、膵臓)が専門の外科に入局、最初の受け持った患者さんが膵臓がんだったため、40年前から膵臓がんを専門にしています。
しかし、肝臓や腹膜に転移したステージ4の膵臓がんの治療成績は40年前とほとんど改善していません。
進行膵臓がんに対する最大耐用量の抗がん剤治療が科学的であれば、40年も経てば生存率や生存期間や生活の質(QOL)がもっと良くなってくるはずです。
しかし、現在でも、進行膵臓がんで通常の抗がん剤治療が始まると、ほとんどの患者さんは半年から2年で決まったように亡くなっています。
最大耐用量の抗がん剤治療が患者さんの体力を低下させると同時に、がん細胞の薬剤耐性を誘発(促進)して抗がん剤が効かなくなり、その結果、多くの患者さんは、抗がん剤治療開始後1-2年で抗がん剤治療を終了せざるを得なくなります。
数ヶ月の延命効果はあっても、かなりの副作用で苦しみます。
複数の抗がん剤を併用して抗がん作用を強くすれば、数ヶ月の延命が得られていますが、抗がん剤の数を増やせば副作用が強くなります。
苦しみながら数ヶ月の延命という事実に、抗がん剤治療に疑問を持っている患者さんが増えています。
しかし、いったん広まった医療は変えるのは困難です。
その問題が気づかれていても、再検証することはほとんど行われていません。
「科学は知識を生み、意見は無知を生む」というヒポクラテスの言葉があります。
「治療法が効くかどうかを判断するためには、意見ではなく科学を用いるべきだ」ということです。
ヒポクラテスは約2400年前のギリシャの医者で、原始的な医学から迷信や呪術を切り離し、科学的な医学を発展させ、その業績から「医学の父」、「医聖」とよばれています。
今の抗がん剤治療は本当に科学的な検証が正しく行われているのでしょうか?
がん細胞だけをターゲットにがむしゃらに攻撃するという手法は原始的な医学と変わらないように思えます。
科学的に検証することによって、正しい知識が得られ、有用な治療法を開発することができます。
進行した固形がんに対する現行の抗がん剤治療が「科学的」というには、あまりにも進歩がなさすぎます。
それは、経験から発想されたがん治療が、科学的な検証が十分に行われずに継続されているためなのです。
奏功率と全存期間の延長の相関が低いことが分っていても、奏功率の結果だけで抗がん剤が承認されているということは、抗がん剤の承認が科学的に行われていないことを証明しています。
それを改めようとしないことも不思議です。
多くの抗がん剤が無増悪生存期間の延長で評価されて承認されていますが、無増悪生存期間が延長しても全生存期間が延長しない例が多く存在することが明らかになっています。
がん患者さんは「もう治療法が無い」と言われるのが怖くて、無駄な抗がん剤治療にしがみついています。
抗がん剤依存になっています。
標準治療は、抗がん剤治療が中止になれば、ホスピスでの緩和ケアしか選択肢が無いことが問題です。
標準治療は低代替療法をエビデンスが無いといって否定しています。
しかし、末期のがん患者に対する抗がん剤治療の方がエビデンスが乏しいのです。
がん治療以外に使用されている既存の安価な医薬品を使った副作用の少ないがん治療も報告されています。
臨床試験で効果が証明された代替療法もあります。
このサイトでは、数々のこうした療法について説明しています。
がん患者は自分でそのような治療法にアクセスできれば一つの選択肢になるはずです。
多くのがん患者さんは抗がん剤治療で延命すると思っているのかもしれません。
しかし、延命効果が証明されていない抗がん剤が多く使われていることが指摘されています。
国が認めた治療に有益性が無いと言われると多くの人は信じないかもしれませんが、残念ながらそれは事実です。
2017年5月に、米国食品医薬品局が近年承認した抗がん剤の半数以上は臨床的なメリットが無いという論文が、臨床腫瘍学のトップレベルの学術雑誌のAnnals of Oncologyに発表されました。
さらに、欧州医薬品庁が最近承認したがん治療薬のうち、「意味のある臨床的利益」があると評価されたのは20%以下であることを報告する研究結果も複数発表されています。
簡単に言えば、大した効果のない抗がん剤が多く使われているという事実が明らかになったのです。
がん患者は効き目のない抗がん剤で苦しめられているだけかもしれないのです。
無駄で過剰で有害な抗がん剤治療で苦しんでいるがん患者さんが増えています。
末期がんにおける抗がん剤治療の止め時を適切に判断できない患者さんが増えているのです。
抗がん剤治療を止めた方が良いと理解しても止められない状況は「抗がん剤依存症」と言ってもよいかもしれません。
「抗がん剤依存症」という病名があるわけではありません。
抗がん剤治療を止めるか続けるかを決めるのは患者さん本人ですが、これを判断する知識は患者さんにないのが問題なのです。
以上のような観点から、末期医療に抗がん作用と症状緩和の効果を目的とした漢方治療や代替療法はもっと利用されるべきではないでしょうか。
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参考文献
抗がん剤依存症:なぜ死の間際まで抗がん剤治療を受けるのかkら一部引用しています。
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