なぜ死の間際まで抗がん剤治療を受けるのか
終末期に抗がん剤治療を受けた患者は、受けなかった患者よりも、集中治療室(ICU)で亡くなる頻度が高くなります。
しかも死亡時に心肺蘇生や人工呼吸器の装着を受けることが多くなるのです。
末期がんで抗がん剤治療を受けた患者は自宅で看取られる率が低くなります。
ホスピスや自宅など自分が希望した場所で亡くなる可能性が低くなってしまうのです。
終末期の抗がん剤治療は生存期間を延ばすことができないのです。
つまり、余命数ヶ月の末期がん患者に抗がん剤治療を行っても延命効果はないのです。
それだけではなく、生活の質は確実に低下し、自宅やホスピスで亡くなる率が低下してゆくのです。
ICU(集中治療室)で亡くなる率が高くなります。
最後に心肺蘇生や人工呼吸器装着をされたままで亡くなってしまうのです。
西洋医学はがんを攻撃することしか考えないので、死の直前まで抗がん剤治療を行うことが多くなっています。
がん患者も治療する医師も抗がん剤治療を過大に評価し「抗がん剤依存症」になっているのです。
医者は抗がん剤治療を受けない
週刊誌のアエラ(朝日新聞出版)の2018年2月12日号に「医師ががんになったら、どんな治療法を選択するのか」という内容の記事が掲載されています。
ステージ4(がんが他の臓器に転移している状態)の進行がんになったとき、医師がどのような治療法を選択するのか?
という20代から60代までのがんの診療経験のある現役医師553人にアンケートで調査しています。
その結果、ステージ4のがんに対する治療として、抗がん剤治療を受けずに緩和ケアを選ぶ医師が40%前後、という数字が報告されています。
具体的には、緩和ケアを選ぶ医師の割合は、胃がんが40%、大腸がんが35%、肝臓がんが43%、肺がんが40%、食道がんが39%、膵臓がんが56%、乳がんが32%、子宮がんが35%となっています。
がんの種類によって抗がん剤の有効性は異なります。
膵臓がんの場合、緩和ケアを選ぶ医師が56%と多い理由として、この記事では「効く薬がないから」「痛いのはいや」「治療がしんどい」「現時点で有効な治療手段がない」「治る見込みがないなら、好きに過ごしたい」と言う意見を紹介しています。
週刊誌の記事ですので、どの程度の信頼性があるかは不明ですが、ステージ4の進行がんに対して、抗がん剤治療の有効性が低いこと、副作用の割に得られるものが少ないことは、がん治療に携わる医師であれば十分に認識しています。
したがって、「膵臓がんや肺がんや肝臓がんになったら、抗がん剤治療は積極的には受けない」という意見を持つ医師が40から50%というのは妥当な数字ではないでしょうか。
転移がんでも抗がん剤治療で治ると思っている患者が多い
転移のあるステージ4の進行がんは抗がん剤治療では根治はほぼ不可能です。
根治というのはがん細胞が消滅することです。
しかし、ステージ4の進行がんでも、抗がん剤治療でがんが治ると間違って信じている患者さんが多いようです。
例えば、以下のような研究が米国から報告されています。
Patients' expectations about effects of chemotherapy for advanced cancer.(進行がんに対する化学療法の効果への患者の期待)N Engl J Med. 2012 Oct 25;367(17):1616-25.
この研究は、米国のCanCORS研究(the Cancer Care Outcomes Research and Surveillance study)の参加者のうち、がん診断後に抗がん剤治療を受け、診断されて4ヶ月後の時点で生存していた転移を伴う肺がんまたは大腸がん患者1193例を対象にして、化学療法によって治癒する可能性があるという期待を持つ患者がどの程度存在するかを調査しています。
CanCORS研究は2003年から2005年に米国で1万人以上の肺がんと大腸がん患者を対象に行われた大規模前向きコホート研究です。
調査の結果、肺がん患者の69%と大腸がん患者の81%が、抗がん剤治療によって自分のがんが根治する可能性は乏しいということを理解していない事が明らかになっています。
また、主治医とのコミュニケーションが極めて良好と評価した患者の方が、コミュニケーションがあまり良好で無いと評価した患者よりも、自分は治ると誤解している率が高いという結果も明らかになっています。
転移を伴う肺がんや大腸がんに対して、抗がん剤治療が週や月単位で生存期間を延長し、症状を緩和できる可能性はありますが、治癒させることは現在の抗がん剤治療ではほぼ不可能です。
治癒というのはがん細胞が体内から完全にいなくなることです。
前述の説明の様に、転移のある固形がんは抗がん剤治療で根治できないことは現時点では医学の常識です。
しかし、このような進行がん患者の7-8割は「抗がん剤治療で治癒する可能性が低い」ことを理解していないという結果が出ています。
しかも、主治医とコミュニケーションが良好に取れていると思っている患者ほど、誤解していることが多いのです。
患者は自分の都合の良いように理解し、予後について厳しい話をするほど、患者満足度が低下するようです。
このようにがん患者は抗がん剤治療に過大な期待をもっているので、死の直前まで抗がん剤治療を受け、その結果、ホスピスでの適切な終末期ケアを受ける機会を逃す結果になると思われます。
抗がん剤の効果を過大評価しているがん患者が多い
抗がん剤の有効性は、がんが縮小したかどうかで判断されます。
CTなどの画像診断でがんの大きさ(腫瘍の最長径の和)が30%以上縮小した状態が4週間以上続いた場合に「有効」と言います。
画像診断でがんが消失した場合を完全寛解(または完全奏功)と言い、30%以上縮小したが消失はしていない場合を部分寛解(部分奏功)といいます。
完全寛解といっても、がん細胞が完全に消滅した訳ではなく、画像で見えなくなっただけで、微小ながんが残っていることが多いので、いずれ再増殖してくる可能性があります。
部分寛解の場合、その状態が長く続けば延命に結びつくのですが、死滅しないで残ったがん細胞は、その抗がん剤に抵抗性をもったがん細胞ですので、すぐに増殖して数ヶ月後にはもとの大きさに戻ることが多いので、延命には結びつかないことも多いのです。
抗がん剤を使った患者のうち、完全寛解あるいは部分寛解が得られた割合を奏功率あるいは有効率と言っています。
「奏功率が3割」とか「がん患者の3割に効く」というと、患者さんは、3割の人が治ると思いがちですが、それは間違いです。
抗がん剤治療を受けた人のうち腫瘍が一時的(4週間以上)に縮小する割合が3割ということです。
有効率が3割でも、延命効果はなく、治癒率は0%という例はいくらでもあります。
一時的に癌が縮小し、4週間以後にがんが増大し、2ヶ月後に患者が死亡したとしても、完全奏効や部分奏効が見られた場合は、その治療は「有効」とされてしまうのです。
腫瘍を早く小さくする「切れ味の良い」化学療法は、患者も医者も治療効果が目に見えるため安心感と期待を持ってしまいます。
しかし多くの臨床経験から、「腫瘍縮小率の大きさと延命効果が結びつかない」ことが認識されるようになり、「奏功率の高い抗がん剤が良い」という考えには多くの疑問が出されています。
進行がんでも化学療法を使用する医者の言い分として、がんを少しでも縮小させることは延命につながり、痛みなどの症状を抑えることができると述べています。
確かに、進行した胃がんや大腸がんでは、抗がん剤を使った方が使わない場合より平均で数カ月~1年程度生存が延びるという報告もあります。
しかし一方、抗がん剤の副作用で早く亡くなる人も多くいます。
健康食品やサプリメントには誇大広告がつきものです。
ほとんど効果がないのに、がんに効くと思わせるような巧みな宣伝が行われています。
一方、抗がん剤は国の認可を受けた医薬品ですので、誇大な宣伝は行われていないように思われていますが、そうではありません。
6ヶ月目で比較すると20%くらいの生存率の上昇があるが、平均生存期間(生存期間中央値)は2ヶ月程度延びるだけで、2年後は非治療群と生存率で差が無くなって、4年後には両グループとも全員死亡したという場合でも、「死亡リスク低下」や「生存率が大幅に上昇」や「画期的な新薬」という表現で宣伝されているのです。
生存率が20%上がるというと、20%の人が多く治ると勘違いしている患者さんもいます。
このような説明で、がん患者は抗がん剤治療に過大な期待を持ちます。
そのため、副作用の説明を受けても、少しでも延命できるならと抗がん剤治療を受けています。
しかし、無増悪生存期間の延長や腫瘍縮小(奏功率)で有効性が示されても、延命効果(全生存期間の延長)が証明されていない抗がん剤は数多くあるのです。
続く・・
参考文献
抗がん剤依存症:なぜ死の間際まで抗がん剤治療を受けるのかから一部引用しています。