この映画は何度も鑑賞に堪える、希有な作品だと言っていいだろう。
見るたびに「そういうことだったのか・・」と、作り手側の仕込みに感心しながら楽しむことができる作りになっている。
映画を見終わり、よく分からない点を知りたいがために、もう一度見たくなる作品でもあるのだ。
観客は作品を見る前から、巨大な宇宙船が地球上に現れるというシーンがあることは承知の上で観るわけだ。
だがドアタマでは、全く関係が無いかのようなシーンから始まる。
オープニング直後の戦闘機が飛びかうシーンでは、観客は大変なことが起きたということが、否が応でもわかるようになっている。
主人公のルイーズ(エイミー・アダムス)は政府に呼び出され、飛来した宇宙船の目的を知るために、言語を解明する任務を与えられる。
飛来した宇宙人が敵なのか味方なのかがわからないという状況で作品が進行するため、適度な緊張感を保ったまま物語は進む。
それが、我が娘に起きた悲劇と、どう結びつくのか?
これが分からないままで、ストーリーはどんどん進んで行く。
ルイーズが最後に迫られる選択が何を意味するのか?
そして、作り手が彼女の行動を通じて伝えようとするメッセージの着地点はどこなのか?
2回目を見終わった頃には、なぜ、冒頭に子供とこどもが病気で亡くなってしまうというシーンから始まるのかがわかるようになっている。
いわゆるミスディレクションという、観客を誘導するという制作陣の意図は実に見事だ。
この仕掛けが分かると、その緻密な構成や大胆な展開に思わず感嘆することになるというわけだ。
まさに一本取られたという快感が、これまた心地よい。(笑)
最後は、原題のARRIVE(到着)というタイトルとも重なる結末を迎える。
彼女は何を選んだかのか。
そしてそれを選んだ理由は何なのか?
現実の世界でも、我々は日々、これにも似た選択を数限りなく行っているわけだ。
だがそうした事よりも、そのときそのときの瞬間を真摯に生きる素晴らしさ。
これを伝えてくれるこの作品は、毎日行わなければならない選択の苦しみに悩む人にとっては、ある種の救いにも感じられるはず。
つまり未来に対して不安を持つ我々すべてを励ましてくれる映画でもあるのだ。
しかも、子供の名前が回文になっているなどといった、観る者の想像力を喚起させる仕掛けが満載。
さらに、サウンドエフェクトがこれまた素晴らしい作品だ。
自宅でスターチャンネルなどを通じて楽しむ際、良いオーディオシステムをお持ちなら、椅子から飛び上がるような迫力に驚かれるはず。
近年まれな味わいを持つ、「白眉の作品」と呼んで差し支えない作品ではないだろうか。
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