飲食業界は「飽和状態」である・独りよがりの店を作りがち・「投資回収」という発想がない・その店、満員に出来ますか?・友達はきてくれない・少しの変化で一気に大赤字・自分の力ではどうにもならないことがある
記事の内容を要約してみよう。
飲食店は参入障壁は低いが、つぶれる可能性も相当高いビジネスモデルだ。
厚生労働省大臣官房統計情報部が発刊している「衛生行政報告例」によると、2009年度時点での全国の飲食店の数は144万店。
毎年16万店ほどの飲食店が新規出店している。
これは、ほかの業種ではありえない数字で、この業種の人気の高さがうかがえる。
その5年後、2014年の「衛生行政報告例」を覗くと、飲食店施設数は142万店、と微減している。
つまり日本の外食市場は、完全に飽和状態にあるのだ。
数が増えていないということは、毎年新規出店と同じだけの数がつぶれていることになる。
少なくない初期投資額
20坪くらいの小さな店を賃貸で構えると、保証金や礼金、仲介手数料などでまず500万円くらいがかかる。
設計内装や厨房機器、POSなどの設置・導入に300万円くらい。
出店時の広告費(チラシやHP制作)なども考えると、合計で大体1000万円ほどになる。
だが、この金額は回収しなければならない。
通常は3年で、銀行で初期資金を借りる場合、返済計画を考えると、最低5年以内で回収しなければならない。
1000万円を5年間で均等割りしていくので、年間200万円。
つまり月々17万円ほどを取り返さなければならない。
これが減価償却費の概念だ。
家賃が坪単価1万円だとして、光熱費などを合わせた月々の支払いが30万円。
減価償却費とあわせて47万円となる。
最低限の利益確保として必要なFL比率を60%、最終的な利益を2%残そうとすると・・
店を回すには月に240万円は売り上げないといけないことになる。
・食材原価+人件費(60%) 144万円
・家賃など固定費+減価償却費(20%) 47万円
・消耗品や販促費などその他販売管理費(18%)43万円
・営業利益(2%) 6万円
これだけ売り上げても、利益は6万円しか残らない。
必要な売上金額
20坪の店で、26席取れ、満席率が70%で、2回転する業態を想定。
(26席×70%×2回転=36.4)で一日に36人が来ればいいわけだ。
客単価が2,500円だとすると、一日の売上は9.1万円となる。
2500円×26席×2回転×70%=9.1万円。
これで週に一日休むと、月商240万円程度(9.1万円×26日)。
一回で2500円使ってくれるお客が毎日36人くればなんとかなるわけだ。
平均で2,500円使ってくれるお客さんを毎日36人集めることができるだろうか。
初めてお店に来たお客さんが再訪する率は40%といわれている。
2回目に来てもらえる率が32%。
3回目に足を運んでくれる割合は、26%。
4回目も来てくれるようになるには、23%。
4回来てくれた人は、常連になりやすいともいわれている。
つまり、36名の常連客を確保するには、新規で160名が店に訪れなければならない(160名×23%=36名)。
データをもとに考えると、同じ店に2、3ヶ月に1回来てくれたら「御の字」。
仮に常連客が2ヶ月に1回来てくれる場合、月の営業日数が26日だから、52日に1回しか来てくれない。
常連客だけで店を回せるようになるには、160名に52日をかけた8320人が新規で来店する必要があるわけだ。
そうでなければ、月の利益6万円を達成することができないのだ。
ピボット経営に向かない業態
最近の起業ブームで「ピボット経営」という言葉がよく使われるようになっている。
トライアンドエラーでビジネスのあたりをつけ、事業の形を変えながら、収益があがる事業を特定していくという経営手法だ。
消費者の嗜好サイクルの変化が早く、ニーズを先読みしたサービスの提供が必要となってきている時代だ。
そのため一つの事業に大きく投資するのではなく、怪我を負わない程度で勝負。
勝てなければ次の事業に挑戦してゆく。
これをバスケットボールのピボットに例えている。
ところが飲食店経営では、このようなピボットを踏むにも、簡単に業態変更はできない。
店舗の移動もできない。
個人経営の飲食店は資本力もない。
つまり設備投資の大きい飲食店経営で、トライアンドエラーを繰り返しにくいわけだ。
初打席で初安打を打たなければいけない。
そんな「超高校級」の才覚の持ち主がどれだけいるというのだろうか。
飲食業は「勝てないビジネスモデル」・なぜ、郊外のさびれた中華店が存続するのか・「やってみようかな」が誤り・美味い料理を出しても、流行らない・外食が一番難しいビジネスモデルである
日本政策金融公庫が行なっている業種別廃業状況で2011年から2015年の全業種の廃業率平均が10.2%。
飲食店・宿泊業の廃業率は18.9%で、全業種を通して1番の廃業率だ。
2番が情報通信業で15.8%で、3番目が小売業の14.5%)。
つまりデータからも飲食店経営の難しさがうかがい知れるというわけだ。
外食産業の売上高トップは、すき家やなか卯を運営するゼンショーで、売上高は5400億円。
外食産業の市場規模25兆円のたったの2.4%のシェアだ。
外食産業のトップ10企業の売上を合計しても2.2兆円で全体の8.7%のシェア。
独占的な成功が難しいというのは毎年、数多くのプレイヤーが新規参入しているということになる。
25兆円市場は、参入の余地も多いが、激しい入れ替わりが起こっているのが現実。
多額の設備投資
設備投資に多くのカネがかかる。
箱ビジネスなので移動することもできない。
外部環境への依存度が大きい。
つまり自助努力では対応できないリスクが大きなビジネスモデルなのだ。
繁盛すると模倣される
集客には客が感動するストーリーやプレゼテーションが必要。
だがそれらは特許のような形で保護できるものでもないので、模倣されやすい。
模倣されやすさは、飲食店ビジネスの難点。
消費者は「新しもの好き」。
隣に新しい競合店ができても、その場で戦い続けなければならない。
その界隈に同様の店が乱立すれば、新しいもの好きの人はそちらへ行ってしまう
新業態のなかで定着するのはほんのわずか。
飽きられる前に新業態を展開する必要がある。
熾烈な競争
欧州では過当競争を避けるため、厳格にライセンスビジネス制を敷き、行政が参入障壁を作っている。
つまり営業権と呼ばれるライセンスで業界を保護しているのだ。
だが日本では、こうした参入障壁がないため、コンビニやスーパーの惣菜など、他業界と競合することになる。
利用者が飲食店に求める味のレベルは高くなり、提供価格は驚くほどに安いのが現実。
人材確保の問題と人件費
人口減少社会に突入し、全業種において人材確保が難しくなってきている。
「低賃金」「重労働」などブラックな印象が強くなっているのが飲食業界。
アルバイト代を浮かすため、正社員として採用した従業員をサービス残業で働かせるのが業界としての「ならわし」になっているという現実。
個人で飲食店を経営する場合、新たに「正社員」を雇う余裕はない。
家族や知人が働いてくれればいいが、そうでなければ、求人を探すコストが負担となるわけだ。
飲食ビジネスでは、FL比率というものがある。
Fはフード(食材原価)で、Lはレイバー(人件費)。
これを売上の55%以下に落とさないと、採算が合わなくなり、経営が傾くと言われている。
食材原価を抑え、同じ食材を他に転用できるようにメニューを工夫し、と涙ぐましい努力を日々行わなければならない。
店の日替わりランチメニューは、前日の夜の食材転用であるのは、常識となっている業界なのだ。
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