待ちに待った新作、ジェイソン・ボーン・Jason Bourne を109シネマズHAT神戸で見てきた。
監督は、2作目、3作目を担当したポール・グリーングラス。
マット・デイモンが出演しているボーンシリーズ3作はそれぞれ10回は観ているだろうか。
これら3作は、主役のマット・デイモンの魅力を引き出すため、脚本、カメラワーク、音楽などがバランス良くマッチした希有な作品で、この手のアクション映画では金字塔を打ち立てた名作と断言してもいいだろう。
3作目のボーン・アルティメイタムは2007年公開。
なので、ほぼ10年ぶりの新作というわけで、当然期待は高まるというわけだ。
さて映画が始まると、既視感のあるシーンが続く。
ボーンが悩まされていた悪夢に登場する過去を回想するシーンで、シリーズをご覧の方なら、おなじみのシーンだ。
そして、ギリシャの抗議運動での追跡シーンへと続く。
このデモ隊に紛れるというのも、旧作で登場したシークエンス。
音楽でもそうだが、いい曲というのはイントロでわかるもの。
映画もまたしかり。
それだけオープニングというのは大事なわけだが、イントロからは既出のシーンやパターンの連続。
つまり新作感がないため、作品の中へ「グイグイ引き込まれる感」がないのだ。
定番のCIAに依頼され、やってくる殺し屋も、今までなら複数いたのだが、今回登場するのは一人だけ。
今回の殺し屋役はヴァンサン・カッセル Vincent Crochon
そして肝心の格闘シーンだが、やたらカット割りが多い。
これはちょっとやり過ぎだろう。
何が何だか分からないほど、めまぐるしくカットが変わるのだ。
今までのシリーズなら、長回しと細かいカット割りを組見合わせた、見事な殺陣を堪能できたのだが、残念ながら新作は、そういうレベルにまで達していなかった。
マット・デイモンが40代半ばのため、カット割りを細かくしてキレを誤魔化しているのか?
と思ってしまうような、イマイチな出来。
それとボーンシリーズでは、ボールペンや雑誌など、その辺にころがっているブツを使って武器にするというシーンが見せ場の一つでもあったのだが、そういったシーンも登場せず、ありきたりな格闘シーンになってしまっている。
CIAのボス役は、トミー・リー・ジョーンズ Tommy Lee Jones
CIAが総出でボーンを追いかけるという定番のシーンも、今までと同じで、何だか新鮮味のない展開が続く。
新作ならではの仕掛けや、観客の意表を突くアイデアも登場せず。
とにかく殺し屋が一人だけのため、どうもCIA側が人材をケチっている感あり。(笑)
そのため、このシリーズの魅力ともなっている、ボーンをグイグイ追い詰めるCIAを、ボーンが返り討ちでやっつける、という快感が薄くなってしまっている。
監督が違うのだろうか?
と思ったので調べてみると、監督は、2作目、3作目を担当したポール・グリーングラス。
2002年ボーン・アイデンティティー:監督ロジャー・ヤング
2004年ボーン・スプレマシー:監督ポール・グリーングラス
2007年ボーン・アルティメイタム:監督ポール・グリーングラス
CIA側なのにボーンの味方をする、いわゆるパメラ・ランディ役は、今回ウェーデンの女優アリシア・ヴィキャンデル Alicia Amanda Vikander 28歳が演じている。
若さ故だろうか、ちょっと役不足の感は否めず。
どうせなら、パメラ・ランディも出して欲しかった。
そうすれば、キャスティングに厚みが出るはず。
また2作目と3作目にはあった、ボーンと絡む女性が今回は一切登場ぜず、どうも色気がない。
それだけではなく、女性との恋愛要素がないため、ボーンが他人と通い合わせる、人間の心理描写が一切ないわけだ。
そのため、ボーンの内に秘めたる想いによる怒りが感じられないのも痛かった。
ストーリーの中では、ウィキリークス的なハッキング団体・ギリシャの抗議運動・facebook的なディープ・ドリームなど、今のトレンドはしっかり押さえてはいる。
だが、どうも歯車が噛み合っていないかのように、キレや迫力が無いのだ。
いったい監督はどうしてしまったのか?
2作目、3作目の鳥肌が立つような興奮は一体どこへ行ってしまったのか?
と言いたくなる状態でストーリーは進んで行く。
もちろん、観客を2時間余り飽きさせず映画に集中させるだけの早いテンポは健在だ。
やたら早いカット割りの割には、何がどうなっているのかは分かるようにはなっているのだが・・
だが、女性との絡みがない分、どうしても緩急の付け方が単調になってしまっている。
そのためやたらめまぐるしく変わるカット割りの連続で引っ張るため、展開がやたら忙しい。
エンディング近くの、カーチェイスは、殺し屋が運転するSWATの装甲車がクルマをなぎ倒して行く迫力はあれど、あれじゃあマッドマックスではないか。
ボーンシリーズならではの、独自の魅力が感じられないのだ。
となんだか無い物ねだりになってしまっているのは、それだけ過去の3作が飛び抜けて面白かったからかもしれない。
マット・デイモン自体は、冒頭の格闘シーンで見せてくれる鍛え上げた肉体に加え、加齢に伴う渋さが加わり、ファンを裏切らない魅力を放っている。
さすがスターだ。
それだけに、マット・デイモンの魅力を伝え切れず、制作陣側がなんだか噛み合っていないかのようなもどかしさが残る出来が、残念な作品だった。
映画のエンドロールが始まっても感動の余韻で、席を立たず呆然と流れてゆくリストを眺めているだけ・・
という体験を味わいたかったのだが・・
観客もエンドロールが流れ始めると早々に席を立つ人が多く、オレも途中で席を立ってしまった。
とはいえ、もし次のシリーズ作品がリリースされたら、多分見に行くだろうけどね。(笑)
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