宇宙戦争

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ネタばれ、大ありなのでご注意を。

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1898年にH.G.ウェルズが発表したSF小説「宇宙戦争」の映画化作品。

  

主演は「ラストサムライ」「コラテラル」のトム・クルーズ。

  
共演に「マイ・ボディガード」「ハイド・アンド・シーク/暗闇のかくれんぼ」の人気絶頂?子役少女ダコタ・ファニング、「ショーシャンクの空に」「ミスティック・リバー」のティム・ロビンス、「ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還」「フライト・オブ・フェニックス」のミランダ・オットー。

監督は「マイノリティ・リポート」「ターミナル」のスティーブン・スピルバーグ。

  

この顔ぶれじゃあ期待も高まろうというもの。

    

スピルバーグ監督は映画化の前に「やってはいけないこと」を、いくつか決めていたという。

主人公を軍人や政府の高官に設定する、有名な都市の破壊シーンを大々的に映す、などといういわゆる、インディペンデンスデイなどと混同されるような類型的シチュエーションを避けたかったということなのだろう。

  

小説による原作との違いは主に登場人物のエピソードに絞られているようだ。

原作と違う時代背景を描くために映画の冒頭では、離婚した主人公は週末だけを子ども達と暮らしているといったシーンで始まる。

  

主人公のトム・クルーズの設定はあくまでも庶民的な労働者。

頼りない父親で、さらには車オタクというわかりやすいキャラクターで、登場人物の解説にも抜かりはない。
  

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この作品から受けた印象をわかりやすく表現すると「現代の映像技術とオーソドックスな手法で監督が憧れの小説を映画化した作品」というところだろうか。

ストーリーそのものがすでによく知られているため、1952年に製作された旧作の宇宙戦争で主人公とヒロインを演じた役者を、最後に出てくる嫁さんの父親と母親に設定するなどというように、細部にもかなりこだわって制作されている 。

 

オリジナルの持つクラシック?な宇宙人の乗り物の造形や、群集のパニック、突然の外敵による恐怖などという、小説での基本的なエッセンスも十分に盛り込まれている。

一方で、オリジナルの小説では「無力な軍隊が闇雲に攻撃する」といった部分は削除され、米軍の反撃に置き換わり、意外にあっさりと描写されている。

 

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小説では怪光線で焼き殺されるという部分が、人が消滅するように変更されていたり、いたるところで壁をすり抜けるカメラワーク が使われているが、この手法を最初に見たときは、どこにカメラを置いて、どうやって撮ったのだろうかと驚いたものだが、最近ではこうした手法がかなり頻繁に使われるようになってきた。

この作品でも、電子部品がダメになって立ち往生するクルマを避けながら、ハイウェイを疾走する車内でトム親子3人が口論しあうという、退屈になりかねないシーンを、手の込んだ長廻しで見せている。

   

邦画では、いまだにこうしたシーンを見ることができないから、そういう意味では見所満載といっていいだろう。

   

戦闘場面ではCGを多用すると同時に、リアリティー追求のため、実際のエキストラを多数使っているようだが、予算がなければここまではできない、という圧倒的なリアリティー再現への執念も見所だ。

主役のトムがインフルエンザでロケができなくったときは、その補償に何百万ドルを支払ったという。

    

観客が最も見たい?宇宙人は、場面こそ少ないが、もちろん登場する。

インディペンデンスデイに出てきた宇宙人と似ているが、原作のタコ型に近いデザインにしなかったのは、実在の宇宙人にこだわったためなのだろうか?
  

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「激突!」や「ジョーズ」のように、映像の技術で恐怖感を煽るのではなく、心理描写で根源的な恐怖を描く手法は、スピルバーグならではのもの。

視点が客観的な視点ではなく主人公の視点で描かれているのは、細かい説明が不要で、たたみかけるスピード感を実現するには有利になるからだろう。

 

冒頭での主人公の生活や人間関係を最小限に抑えることで、展開のスピードの速さを観客が予想以上のレベルに設定しているところなどはさすがで、恐怖感で作品全体をまず覆ってしまう素早さには、目を瞠るばかりだ。

地下から沸き起こる恐怖の始まりを起点に「展開の速さ」によって、鳥肌が立つほどの興奮とともに、常に先回りした位置から観客を引きずり込むのだ。

 

観客の心をこのように「わしづかみ」する手法の巧みさは、スピルバーグならではの持ち味ではないだろうか。

展開が速いために、観客が流れに追いつけず、その効果によって「先が分からない」不安や恐れが増幅されるというわけだ。

 

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こうした手法では相乗効果として、危機的状況が設定されることで群集の集団パニックや「100万年前から埋まっていた」などという根も葉もない噂を信じてしまうというシーンが際立ち、未来への絶望感が、ますます高まるというわけだ。

人間が災害に襲われた時の心理や状態は実にリアルだ。

 

「自分と家族だけが助かれば良い」といった誰もが持つかもしれない心理や、人間の力ではどうにもできないような事態に陥った時の、エゴの醜さの描写も漏れなく網羅されている。

しかも、観客が自分自身に置き換えてみるという「静的な時間」が、その後できちんと設定されているというのも、なかなか見事な構成だと思う。

 

こうしたさまざまな複線が冒頭から時間を経過するごとに観客の心理の中に埋め込まれてゆくために、派手過ぎない程度のハイウェイが吹っ飛ぶシーンや冷酷無比に人間を攻撃するトライポッドなどの描写が、より以上に凄まじい迫力とな り、観客の手に汗を握らせることになる。

人間の持つ心理を知り尽くした制作陣の力量が、並たいていのものではないことがよく伝わってくるから、こうした部分が楽しめる人にとっては、☆☆☆☆☆の映画だと断言していいだろう。
 

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今回は完全歩合ギャラ制で父親を演じたトム・クルーズ。

この作品の根幹を成すのは、エイリアンではなく、主役であるトム・クルーズが演じる1人の人間だという点が非常に明快なのも、この作品の特徴となっている。

 

父親のダメっぷりを見事に演じ、子供たちと逃げることしか選択肢がない無力さとその先にある恐怖心を描き出している。

ダメ親父だったトムはこの苦難を乗り越えて、家族と再会することになるのだが、原作とは違いこうしたシーンは少し強めの描写で感動的に描かれている。

 

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娘役のダコタ・ファニングやティム・ロビンスは、いってみればワサビ。

ただ、その利かせ方がうまく、ダコタ・ファニングがパニック状態になって叫びまくるシーンやティム・ロビンスが主人公を助ける出会いから、徐々に狂気に満ちた性格へと変貌を遂げるという演技も、恐怖のリアルさをさらに増幅する役割を果たしている。

 

良い父親ではなかった主人公が、直面する危機を乗り越えながら子供達との絆と、父親らしさを取り戻してゆくという「愛」の描 き方のため、最初のシーンでは観客が違和感を覚えるほどのダメ親父ぶりとして強調されている。

こうした部分を盛り込むというのは、商業映画である以上まずは米国内で興行成績をきちんと上げるためには、守らなければならない典型的なハリウッド映画の基本ルールでもあるわけだ。

 

観客の心理をどのようにコントロールするのかという視点からいえば、こうした部分の構成のうまさに加え、手馴れているがゆえんの自然さは、さすがプロ。

こうした観客の心理を視野に入れた、シナリオ構成は、現在の日本映画に最も欠けている点ではないだろうか。 

 

このような映画制作の基本を知ったうえで、人間の「愛」と人の持つ心理を中心とした展開を楽しむといった感性がないと、細部の辻褄にこだわったがために、違和感だけが残る、ということになりかねない。

  

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人間が作り出した兵器ではなく、「人間の歴史と自然のメカニズムが勝利する」という、小説と同じラストは、エイリアンの圧倒的な力の違いを見せ付けられた後だけに、観客は呆然とするあまり、違和感を覚えるかもしれない。

だからといって微生物によって宇宙人が滅びるという展開を、別の手法で映像にするのはかなり難しいだろうし、上映時間との絡みがあるので、 これ以上の映像は詰め込みたくはないはず。

   

スピルバーグはこの点でかなり苦労したようで、結局は冒頭で微生物のCGを見せて伏線を張り、ラストにはこの伏線を繰り返したうえで、 さらにナレーターとしてモーガン・フリーマンに語らせるということになったようだ。

アメリカ人なら彼の独特な声を判別できないヤツはいないだろうしね。

 

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小説でも最後の部分で自滅のメカニズムが唐突に説明されるのだが、これもオリジナルの持つ「味」のうちだと解釈をするならば、映像で解説するのではなく、モーガン・フリーマンのナレーションで処理する というスピルバーグの選択は、オリジナルへのこだわりだったのかもしれない。

スピルバーグが映画化にあたって、原作の小説のオリジナリティーを残すため、細心の注意を払いながら制作したことがよくわかる作品ではないだろうか。

 

大ヒットしたベストセラー小説の映画化の場合、原作を読んで映画を見ることで、監督の意図するところがよくわかるという楽しさが生まれるから、ぜひとも小説を読んでからこの映画を見られることをお勧めする。

そうすれば、ストーリー展開や設定などにイチャモンをつけるという見当違いを、少なくとも避けることができるはずだ。
 

 

また、この宇宙戦争は映画館で楽しみたい作品でもある。

音と映像が織り成す恐怖とサスペンスが生み出すスリルと興奮は超一級。

音響設備のよい劇場なら120%楽しむことができるだろう。

  
 
ちなみに、冒頭のニュースのシーンで異常気象を告げるリポーターの後ろには、「TV.asahi」のロゴが入っていたり、中盤のティム・ロビンスが「大阪では宇宙人を数体倒した」などという台詞があったりというサービスシーン?もあるので、お見逃しなく。
 

 

 

出典

 

2005年7月9日

 

 

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