俳優ケビン・スペイシーが、主演のみならず、監督・製作・脚本までもこなした渾身の作。
製作・監督・脚本・主演と一人4役のいわゆるワンマン映画だ。
Beyond The Sea - Clip
2004年 アメリカ・ドイツ・イギリス作品
監督 ケビン・スペイシー
出演 ケビン・スペイシー、ケイト・ボスワース、ウィリアム・ウルリッチ
ケビン・スペイシーファンの私としては、これは買わないと・・というわけで速攻でゲット。
スタンダード音楽にスウィングを持ち込んだといわれる歌手、ボビー・ダーリンの伝記風映画だが、ほとんどの人は、 ボビー・ダーリンを知らないだろう。
1960年代のボビー・ダーリン
私も実はかろうじて名前だけは知っていたという程度だった。
1950年代から70年代にかけて活躍した歌手だ。
ボビー・ダーリンは、1960年に映画「九月になれば」で共演したサンドラ・ディーに一目惚れで結婚。
その後映画俳優や司会者などエンタテイメントの多くの分野で一流の才能を発揮したが、37歳で夭折。
本作は、幼少期に心臓を病み、15歳までしか生きることが出来ないと宣告された少年が、母親の影響で音楽に目覚め、天賦の才能と努力でフランク・シナトラを越えるスターを目指し、ショウビジネス界へ足を踏み入れ、数々の栄光と挫折をを手に、短か過ぎた人生を駆け抜ける様を描いた映画だ。
ヒット曲としては「マック・ザ・ナイフ」「ビヨンド・ザ・シー」が有名で、映画の中でケビンが「ビヨンド・ザ・シー」を歌うシーンでは、多くの方が「ああこの曲か!」と思うはず。
「ビヨンド・ザ・シー」はフランスのチャールズ・トレント作詞・作曲の名曲「La Mer」が原曲。
この歌は映画でよく使われるようで「普通じゃない」(1997)や「X-ファイル」に使用され、ボビー・ダーリンの歌も「ユー・ガット・メール」(1999)や「マッチスティック・メン」(2003)で使われている。
ケビン・スペイシーは「ユージュアル・サスペクツ」(アカデミー賞助演男優賞)「アメリカン・ビューティー」(同主演男優賞)と2度もオスカーを受賞しているが、宇宙人、ゲイ、犯人、父親など多彩な役どころを演じることができる守備範囲の広さがピカイチの俳優だ。
ケビン・スペイシーは、ボビー・ダーリンの熱烈なファンで、映画製作の権利を取得後10年以上かけて本作品を作り上げたという。
そのケビンが惚れ抜いたボビー・ダーリンを演じる時、ボビー・ダーリンを知らないほとんどの人は、彼自身がボビー・ダーリンだと思ってしまうだろう。
それほどケビン・スペイシーの俳優としての底力を味わうことができる作品だといっていいだろう。
ここまでケビンが入れ込む理由は、DVDのボーナストラックに収められているのだが、ケビンの両親がボビー・ダーリンのレコードを山のように持っていたため、ケビンは子供の頃からボビーの歌を聴いて育ったのだという。
ボビー・ダーリンはシナトラの影響を強く受けてはいるが、それだけにとどまらず、多くのジャンルの音楽に影響を受けている。
ロックンロールからポップス、ゴスペル、フォーク、カントリー、と様々な音楽スタイルと変化し、最後には反戦ソングまで歌うという幅広さで、わずか14年のキャリアということが信じられないほどだ。
そして彼の本から彼に何が起こり、どう乗り越えたのかを知ったケビンは、彼の人生こそ真のサクセスストーリーだと感じたと言う。
Mack The Knife - Kevin Spacey as Bobby Darin
冒頭はデビュー10周年記念公演のシーンから始まる。
よくスイングする「マック・ザ・ナイフ」で一気に歌の世界へ引きずり込んでくれる。
いい映画は、オープニングでわかるからね。
どちらかといえば、前半はミュージカル色が強く、後半にかけてはヒューマンドラマ仕立てという作りになっている。
映画の構成は子供時代のボビーと成功を収めたあとのボビーが物語を語り合うというアイディアで展開するのだが、ここの部分は最初少し戸惑うかもしれない。
つまりボビー・ダーリンが自分の人生を演じて、それを子供時代の自分も加わって交互に「人生」を見つめる、という構成の工夫がなされているからだ。
「栄光」のシーンにはステージの後ろから撮影された逆光の映像を使用し、「挫折」の場面は客席側から「逆光」なしでの映像で表現するという、プロならでは映像処理も楽しむことができる。
混乱を起しそうなカット割りやともすれば不自然になりがちなエッジで踏みとどまっているセット、さらにはフェイクっぽい色の衣装など、様々な要素を大胆に織り込む演出手腕は、「通」にはまたたまらない魅力となるだろう。
「夢・妄想・現実」を絡ませ、ミュージカルとヒューマンドラマを融合させるという、一見実現不可能に思われる構成は、単なる伝記映画には終わらせないという、ケビンの監督としての意地なのかもしれない。
あるときはミュージカル風、かと思えばユーモラスな場面もあり、余にも多くの要素を詰め込もうとして、多少消化不良気味に感じる部分もあるが、それでもケビン・スペイシーの熱演でお釣りが来るほど十分に楽しめる映画になっている。
撮影監督にはパトリス・ルコントの片腕であり、昨年公開された「真珠の耳飾の少女」の神業的映像で大向こうを唸らせたエドゥアルド・セラを起用。
音楽プロデューサーには大御所フィル・ラモーンを配置。
この映画にマッチしたセンスでスタッフを採用して製作を兼任したケビン・スペイシーの政策側の手腕もまた、大したものだと思う。
映画の最後にテロップで「この作品には創作の部分がある」と断っているように、事実そのままではなく、脚色もしていることを堂々と表明して、自分の好きなように作っているのがまた魅力となっている。
だが一方で、ケビンは楽しんでいるだけではなく、「ヅラ」をつけたり外したりする、シーンも挿入して「正直さ」を表現するために彼自身が役者として挑戦していることがわかる仕掛けも用意されている。
単純に歌って踊りたいだけなのではなく、ケビンは本当の意味でのボビー・ダーリンを演じたかったことが伝わってくるようだ。
最初、歌は吹き替えかと思ったが、よく聴くと本当の歌手ではないような音程のところがあったので、ケビン・スペイシー本人ではないかと思ったが、あとで調べるとやはり本人だった。
劇中20曲近い曲を歌っているが、吹き替えなし!
彼はプロの歌手ではないのだけれど、ケビン本人の歌は映像とあいまって、観る者に強い感動を与えるレベルまで到達している。
それもそのはずで、ケビン・スペイシーはボビー・ダーリンの歌とパフォーマンスを4年間練習したという。
ケビン・スペイシーの持ち続けた情熱の強さが創り出す感動は、ケビンがボビーになり切った、というよりも、まるでボビーがケビンに乗り移ったかのように錯覚するほどだ。
いい意味で、アメリカ映画の持つハリウッド的な明るさと、1960年代の音楽が持つリッチなサウンドがよく溶け合って、この映画はより魅力的なものに仕上げている。。
共演陣は、ジョン・グッドマン、ボブ・ホスキンス、ブレンダ・ブレシン、グレタ・スカッキとなかなかの顔ぶれ。
さらにボビー・ダーリンの子ども時代をウィリアム・ウルリッチが演じているが、ブロードウェイでの経験もかなりあるという若いのに芸達者な子役も、スパイスとしてよく効いている。
とにかくケビン・スペイシーの、歌の上手さを含めて、ボビー・ダーリンが好きで好きでたまらない!とばかりに、持てる力のすべてを注いで彼の映画を作るんだ!というパワーがひしひしと伝わってくる。
情熱の持つパワーと、夢を実現させようとする努力が、どういうものかを音楽と映像で味わえる作品だ。
気分的に何かあったときの特効薬として、手元にぜひ置いておきたい作品だ。
Beyond The Sea Kevin Spacey
ケビン・スペイシーの代表作
「隣人」(1992)
「ユージュアル・サスペクツ」、「セブン」(1995)
「真夜中のサバナ」(1997)
「LAコンフィデンシャル」(1997)
「交渉人」(1998)
「アメリカン・ビューティ」(1999)
「ペイ・フォワード 可能の王国」(2000)
「シッピング・ニュース」(2001)
「光の旅人/K-PAX」(2001)
「ライフ・オブ・デビット・ゲイル」(2003)
Robbie Williams | Beyond The Sea | Live At The Albert 2001