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インターステラー・スペシャル映像
SoundWorks Collection - The Sound of Interstellar
町山智浩 クリストファー・ノーラン『インターステラー』を語る
この映画は、深刻な環境汚染で滅びつつある地球を救うため、移住可能な他の惑星を求めて恒星間(インターステラー)航行を通じ、生き残を賭けた戦いに挑む人々の姿を描いた作品。
そしてまた同時に、その家族たちが時空を超越し、お互いの絆を描いた愛と感動の物語でもあるわけだ。
この作品は当初、スティーヴン・スピルバーグが監督する予定だったという。
その場合、ほとんどがCGとの合成になるはずだったらしいが、この作品の監督クリストファー・ノーランは、CGの使用は最小限で撮影したという。
この点以外にも違いは大きい。
スピルバーグ版の構想では、主人公であるクーパー(マシュー・マコノヒー)の視点だけで物語が進行、地球側の描写はなく、天才科学者マン博士もクーパーの娘も登場せず、クーパーとヒロインのアメリアとの関係だけが描かれる予定だったという。
クーパーたち米国チームだけでなく中国も宇宙へ乗り出し、クーパーたちが目的の星に到達する30年前には中国の基地ができていた、などという、いわゆる今の世相を反映させたかのような構想だったらしい。
異星人やら悪のロボットやらにも遭遇、地球に帰還してみると、出発から200年が経過し、すでに全人類が地球を去った後だったなどという「A.I.を彷彿とさせるような映画になっていたのかも知れない。
さて、映画が始まると、冒頭でコーン畑が登場する。
このシーンは約200万平方メートルの土地で、実際に種から育てたうえで撮影したという。
人類を襲う砂嵐も、強風で巻き起こして撮影されたというこだわりよう。
さらに冒頭部分では、学校の教師が、アポロ計画の人類の月面着陸は捏造だったと語るシーンが登場する。
以前この件に関してはあのとき人類は月へ行ったのか?や、Amazon設立者の快挙でも書いたが、映画の中でこうした使われ方をするとは、ちょっと意外だった。
スピルバーグの降板により監督に就任したクリストファー・ノーランは、ジョナサン・ノーランが書いていた脚本に自身のオリジナルアイデアを付け加えたという。
そのため、スピルバーグ版との最も大きな違いは、父と娘の物語になっている点だ。
これは本作のプロデューサー、エマ・トーマスとのあいだに4人の子供がいるノーランだからこその、コンセプトなのだろう。
中盤で登場する自己愛に生きるマン博士を創造したのも、ノーランならではの味付けだという。
そのためクーパーが娘を思う気持ちを強調するなど、愛を抱いた人間の行動力を示唆するシーンもいくつか挿入されている。
愛とは独善であり、なおかつ我が子への愛に敵うものはないという強いメッセージが、エンディングまで一貫して貫かれている。
言い換えれば、家族に対する愛と同じ想いを、知らない他人に注ぐことなどできないという前提で物語は進行してゆく。
また映画の中程ではマン博士の自己愛を描き、さらにブランド教授の欺瞞を通し、愛が極めて狭量柁と言う点も示唆している。
所詮人間は人類という種全体のことなどよりも、本人や家族を想うもの。
という強いメッセージが映画全体に貫かれ、愛の強さと、愛こそ高次元に到達できる力であると語らせている。
この映画は、このような「家族愛のためなら、どんな犠牲も厭わない」という力強いテーマがコアとなっている。
映画というのは、えてして「ありえないことが起こる」という、いわゆる「ご都合主義」が登場することが多い。
この映画でも然り。
さらにこの作品では、ワームホールを利用したワープ、ブラックホール、重力波などといった、我々の普段の生活では、あまり馴染みのない言葉が多用されている。
そのため理論物理学者のキップ・ソーンをコンサルタントに迎え、科学的に正しい描写を検証したうえで、映画が進行してゆく。
このように、難しい言葉については、その意味や仕組みを考証しながら説明をするシーンもあるのだが、とにかく「事象の地平線」、「特異点」などといった、普段我々には馴染みのない用語がバンバン出てくるのだ。
相対性理論、重力の影響を受けて時間の進み方が遅くなる、などという話についてゆくのは、結構大変なのだが、一応科学知識があまりない人でも大丈夫な作りにはなっている。
だが、SF小説やSF映画に馴染みが薄い人にとっては、「何だがよくわからん」ということになりがちだ。
この映画は、別の言い方をすると「人類宇宙移民計画」ということになるのだが、その計画は2種類の、プランAとBに分かれている。
プランAは「現在の地球人を全て他の惑星に送る」というもの。
そしてプランBは「人類の受精卵のみを移住先で人工培養しながら、種の存続を図る」という計画になっている。
当然のことながら、プランBでは自分の家族達を救えないことになってしまう。
そのため、主人公はプランAを実現させるために必死で惑星を探すわけだ。
ところが、主人公が宇宙へ探索のため飛び出したあとで「実はプランAなどなかった」という事実が発覚することになる。
もちろんこのラザロ計画の発案者であるブランド教授は、プランAの実行に必要な「重力の謎」を解明するため、研究に取り組んできたわけだが、実はある時点で「この謎は解明できない」ということに気付いてしまったというわけだ。
だがこの衝撃の事実は誰にも話さず、ブランド教授は老衰で息を引き取る直前に真相を暴露することになる。
教授と一緒に研究を続けていたクーパーの娘であるマーフは、これに気がついて仰天するわけだ。
全人類を宇宙へ送り出すには、当然それなりに巨大な宇宙船やスペースコロニーが必要になる。
だが、そんなに巨大な質量を宇宙まで飛ばすことは無理なので、重力を制御する方法を見つけるために研究を重ねていたわけだ。
結局謎は解けず、プランAは断念せざるを得なかった、という話になっているのだが・・
とにかく、馴染みのない設定や難解な言葉が多い映画だ。
そのため、こうしたことがわかるまでには、最低二回は観る必要があったというわけだ。(笑)
一方、プランBはその当時の技術で実行可能なのだが、生きている人類を見殺しにするプランBでもあるわけだ。
そんなことをハナから言えば周囲の反発は必至で、計画そのものが立ちゆかなくなってしまう。
そのためとりあえず研究を続けるフリをしながら「君たちが移住可能な惑星を見つけるまでには謎を解いておくから」と言いくるめ、宇宙飛行士を送り出したわけだ。
というわけで、この計画はハナから、密かにプランBを実行しようと目論んでいた、ということがわかるまでには、3回観る必要があったのだった。(笑)
だが、こうしたことがよく分からなくても、この映画を面白いと感じるのは、前述の「強い愛」をテーマが全編に溢れているからだろう。
このようにノーラン監督は、人類を救うほどの難事業のためには、強烈な愛が必要だというメッセージを投げかけている。
そして人間の本性に根差した姿を描くためだろうか、クーパーの娘と息子を、それぞれが人間の英知と愚かさを代弁させるかのように描写している。
また監督は、誰もが信じてしまう口あたりの良い面と、人が目を逸らしたくなるような嫌な面の両方を描き、そのギャップを作品の中で描くことで、観客の心を揺さぶっているわけだ。
映画の終盤になると、印象的な5次元シーンが登場する。
この場面が登場すると誰もが「なんじゃこりゃ?」と呆気にとられることになるはず。
まあ、それが普通の反応だろう。
死を覚悟してガルガンチュアに飛び込んだクーパーは、いきなり回りに大量の書物が並ぶ巨大な図書館のような場所で漂うことになる。
本の隙間からは子供の頃の娘マーフや若いクーパーの姿が見えている。
まさ幻想的な夢を見ているかのようなシーンで、観客なら誰もが驚くシーンだ。
この空間は、ブラックホールの最深部に存在すると言われている特異点を、勝手に解釈して映像化したもののようだ。
最新の宇宙物理学によって科学的に検証された描写らしいが、とはいってもブラックホールの中を見た人間は誰もいないため、本当に科学的に正しいかの証明はできないわけだが・・
特異点というのは、ブラックホールの中心にあると言われている「大きさがゼロで密度が無限大のポイントを指すのだという。
この空間はテサラクトと呼ばれる5次元の超立方体で、マーフの部屋を通じて地球の過去、現在、未来全ての時間と連結している、という設定のようだ。
特異点やそのまわりの時空が、本当はどうなのかは、解明されていないため、こういう解釈の映像でも間違いではないことになるわけだ。
こうした物理学上での仮説を映像化したものが、この映画でクーパーが見ている空間なのだが、彼のいる場所は今までとは全く異なる次元だということは何となくわかるような映像で構成されている。
ここでは時間の流れも一方向ではないようで、幼い頃のマーフから成長して物理学者になったマーフまでが登場する。
そこでクーパーは特異点で得たデータを腕時計によってマーフに伝え、マーフはそのデータを研究することで重力の謎を解明。
そのお陰で人類は重力を自在にコントロールできるようになり、巨大なスペースコロニーを作って宇宙へ移民した、というラストへと繋がってゆくわけだ。
愛があれば困難に打ち勝てるはずで、想いがあれば不可能な事をも、可能にすることができるかもしれない。
このようにして、監督と観客との暗黙の了解?のもと、愛する者を救うことは、結果的に他の者をも救うというエンディングへと繋げている。
劇中で何度も引用されるディラン・トマスの詩も印象的だ。
それは「穏やかな夜に身を任せるな 老いても怒りを燃やせ、終わりゆく日に 怒れ、怒れ、消え行く光に」というもの。
これは死に抵抗を示す老人の気持ちであり、また「滅びゆく地球と運命を共にするのではなく、最後まで運命に抗って人々を救おうとする」登場人物の心情をもあらわしているのだろう。
音楽はハンス・ジマーが担当、作品では荘厳なオルガンが全編に渡って印象的に使われている。
ハンス・ジマーは、オルガンは人間の素晴らしい発明品で、人間クサいところがいい、と語っているというが、なるほど。
この壮大なサウンドでは、ダ・ヴィンチ・コードでも登場した12世紀に建てられたテンプル教会のオルガンが使用されている。
オルガンは人間の呼吸を象徴し、鳴らす度に吐息が聞こえてくるかのような効果を映画に与え、それがまた映画を感動的なものへと仕立てあげている。
この映画は上映時間が2時間39分という長い作品だ。
だが見終わってからの感動は、制作費が1億6千万ドル(198億円)
そして全世界の興行収入が6億7千500万ドル(810億円)という数字が物語っている。
映画ファンなら、必見の作品ではないだろうか。
製作費 ランキング
邦画
「ファイナルファンタジー」 150億円
「クライシス2050」 70億円
「20世紀少年(3作)」 60億円
「天と地と」 50億円
「落陽」 50億円
「敦煌」 45億円
「男たちの大和」 25億円
「復活の日」 24億円
「K-20 怪人二十面相・伝」 20億円
「ヤッターマン」 20億円
「日本沈没(2006年)」 20億円
「GOEMON」 15億円
「戦国自衛隊1549」 15億円
「ローレライ」 12億円
「亡国のイージス」 12億円
「大日本人」 10億円
「ホワイトアウト」 10億円
洋画
パイレーツ・オブ・カリビアン ワールド・エンド』(07) 3億3200万ドル(約332億円)
タイタニックとサム・ライミ監督作スパイダーマン3(07) 2億8600万ドル
塔の上のラプンツェル(10) 2億7400万ドル
ハリー・ポッターと謎のプリンス(09) 2億6800万ドル
ウォーターワールド(95) 2億5900万ドル
パイレーツ・オブ・カリビアン デッドマンズ・チェスト(06) 2億5600万ドル
アバター(09) 2億5400万ドル
ジョン・カーター(12)の2億5000万ドル
キング・コング(05)と『スパイダーマン2』(04)の2億4300万ドル
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