書くことについて

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ステイーヴン・キングの「文章読本」を読んだ。

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1996年6月、スティーヴン・キングは危うく命を落とすところだったという。

メイン州西部にある夏の別荘の近くを散歩していたときに、脇見運転をしていた男の車にはねられたのだ。

脚だけで十数力所を骨折、肋骨は四本折れ、背骨は八カ所にわたって剥離骨折。

頭には二十数針の縫合手術を必要とする裂傷で 生きていたのが不思議なくらいの大怪我だったらしい。

   
3週間もの入院生活と何度かの手術のあと、自宅に帰り、それから2週間後、

世界の終わりの一歩手前のような痛みに耐えつつ、車椅子で机に向かったのだという。

その机の上には、事故に遭う前に書いていた原稿が置かれていた。

それがこの「書くことについて」という「文章読本」なのだという。

    

この本は次のような構成になつている。

1 履歴書
2 道具箱
3 書くことについて
4 生きることについて)
5 閉じたドア、開いたドア

  
「履歴書」はキングの半生の回想録。

作家になり、ドラッグとアルコールづけの生活を送っていた三十代後半までのエピソードについて書かれている。

軸になっているのは、「書くことについて」。

キャリーやミザリーなどの作品の誕生秘話なども織りこみながら、洒脱なストーリーとして書かれている。

   

 
「道具箱」では、書くために必要となる基本的なスキルの数々が開示されている。

副詞を多用するな、受動態は極力避けろ、読者がいなかつたら作家は虚空に吠えているのと同じ。

などといった歳言から始まり、トム・ウルフ、アーネスト・ヘミングウェイ、ジョン・スタインベック、H ・P ・ラヴクラフトなど多くの作家の文章の実例をあげての講釈も興味深い。

 

  

「書くことについて」はキング曰く「魔法」だという。

言葉の魔術師は自ら「魔法の種あかしをするのは簡単なことではなかった」「そもそも魔法に種はないのだし」などとなかなか面白い。

最初はわけもないと思っていたが、実際にこの本を書きはじめると、多くの事柄が理屈ではなく、直観的なものに関係していて、それを言葉にするのは至難のわざであることがわかり、行き詰まったため、一年ほどのブランクがあつたという。

 

そして、事故。

 
「書くことについて」の項が執筆されたのは、その約一ヵ月後のこと。

魔法の技というのは、「たくさん読みたくさん書くこと」から始まり、文体、叙述、描写、プロット、ストーリー、状況設定、比喩、会話、人物造形、象徴的表現、テーマ、推敲、テンポ、背景情報、リサーチ、さらには出版エージエントヘの手紙の書き方に到るまで多岐にわたっている。

 

語り回は明快、洒脱で、真摯。

そして、説明は懇切丁寧だ。

とてもリーダー・フレンドリーな内容となっている。

  

 
そして、最後に「生きることについて」。

「私は書くために生まれてきた」と死の淵から生還したキングは語っている。

1999年に交通事故に遭い、九死に一生を得たわけだが、その事故によって回想録は現在につながり、「書くこと」は、生きることとオーバーラップしたのだろうか。

 
ものを書くのは、「一言でいうなら、読む者の人生を豊かにし、同時に書く者の人生も豊かにするためだ。立ちあがり、力をつけ、乗り越えるためだ。幸せになるためだ。おわかりいただけるだろうか。幸せになるためなのだ」と。

    

本書の表紙には、書斎にいるキングのモノクロ写真が使われている。

作家のポートレートで有名な写真家であるジル・クレメンツ(カート・ヴオネガット夫人でもある)が撮ったものだ。

そこでキングは机に足をのせて、何かを書いている。

    

もしかしたら原稿の手直しをしているのかもしれない。

身長ほぼニメートル、体重ほぼ百キロという巨漢のためだろうか、座っている椅子が小さく見える。

机もそんなに大きなものではないというが、以前使っていたものの半分らしい。

  

天丼は斜めに傾いていて、屋根裏部屋のように見える。

奥の机の中央には、レトロなデザインが時代を物語る、ワング・ラボラトリーズ社製のワープロが置かれている。

   

彼の名を知るきっかけは映画だった。

いい映画のエンドロールには、原作者としてスティーヴン・キングの名前がクレジットされていることが多い。

以下がその代表的な作品だ。

       

キャリー Carrie (1974年)映画『キャリー』(2013年版)

シャイニング The Shining (1977年) 考察シャイニングキューブリック版は、なぜこんなに恐いのか?

ミザリー Misery (1987年) スティーブン・キングの「ミザリー」は最高傑作です

   

グリーンマイル The Green Mile (1996年) 1999年 アメリカ映画

  

アトランティスのこころ Hearts in Atlantis (1999年) 2001年に映画化

アトランティスのこころ(字幕版)(プレビュー)

  

Hearts In Atlantis (HD) Trailer

       

どちらが先でもいいけれど、本と映画だと2倍以上楽しめますぞ。

   

 

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