いわゆる都内で賃貸マンションを購入している人たちは現在、首都圏の中心部の狭いエリアに集中しています。
ではこうしたマンションは、いったい誰が買っているのでしょうか?
それは公務員、高齢者、子なし、レディー、それにダブルインカムの共稼ぎカップルです。
意外ですか?
これに、数少ないでしょうが「勝ち組サラリーマン」や「ローン大好き金持ち」が加わります。
この々が、今のいわゆる「優良住宅」の買い手たちです。
彼らは、お金持ちだけあって、郊外のリーズナブルな値段の住宅地には目も向けません。
しかし、ここでリストをよく見ると、こうした購買層からは、今日まで日本の住宅市場を支えてきた平均的中年サラリーマンが見あたりません。
特に独身キャリアウーマンはお金がたくさんあるため、都心のコンパクトマンションを購入するケースが多いようです。
では彼女たちは「勝ち組」なのでしょうか?
残念ながら?あながちそうとも言えないのです。
酒井順子氏による「負け犬の遠吠え」という本をご存じでしょうか?
このベストセラー「負け犬の遠吠え」には、こんな記述があります。
「30代を過ぎて独身の女性は負け犬である」
ですが負け犬として生きる以上、家だけはちゃんとしたところに住まないと、ということで仕事をガンバり、豪華マンションを購入することになります。
ですがあまりにも素敵な住居に独居すると、負け犬だと思っている本人の思惑とは裏腹に、それはそれでちょっと予想外の気分になってしまうことがあります。
ヨーロッパ製のシステムキッチンに洒落た北欧の家具、寝室には素敵なベッドに囲まれ、しかも風呂はジェットバスという生活はとても快適です。
ただ、あまりに完壁になってしまった住居へ独りで住むと、かえってそこに「何か」が欠けていることがより鮮明に浮き彫りになってしまうのです。
キャリア女性から見ると、普通のサラリーマンは40歳までは忠犬となり「俺もやっと中堅か」と錯覚する40歳過ぎになると、会社からリストラに遭い、本当に人生の「負け犬」に映るそうです。
ですから才女は、ハナからそうした男は相手にしません。
会社の犬ではない本物の犬、ペットに走るというわけです。
そして、才女は犬のあと、リッチなマンションへと突っ走るのです。
独身キャリアウーマンは、通勤に便利な立地と、自分仕様の個性的な間取りという「安らぎの空間」にこだわるとなると、ワンルームに手を出す場合が多いようです。
ですがここには、落とし穴があります。
リッチなマンションだと思えたワンルームは、都内の地域内にあっても、実はリスキーな要素の多いマンションなのです。
つまりそのワンルームは「負け犬」の彼女たちを、本当の「負け組」に転落させてしまう可能性が高いのです。
マイホームは「貸せる物件」を買いなさい!という(ダイアモンド社)の著者・山崎隆氏は、ワンルーム購入はやめましょうと述べています。
ワンルームの問題点は三つあるといいます。
一つは、居住環境が悪化しやすいこと。
二つめは、長期的な安定収入が約束されてないこと。
そして、最後に換金性が悪いこと。
というわけで、ワンルームはいくら都心にあろうと「負け犬になりやすいマンション」だということになるそうです。
日本では、戦後一貫して土地は必ず値上がりするという「土地神話」の後押しで「マイホーム」を持つことが、長年のサラリーマンの目標となってきた 歴史があることは、みなさんよくご存じのことと思います。
ですが「土地神話」はバブル崩壊で終わってしまっているにもかかわらず、今でも多くの人が新築マンションや新築住宅を買い、それが「男の城」と思い込 んでいるふしが伺えるのです。
小金しか持ったことがないのに、金利込みで年収の数倍もの住宅を、よく考えずに買ってしまう。
それは新築物件によって一生つきまとわれるリスクを、身近なものとして感じていないというのも一つの原因かもしれません。
よくよく考えれば、中古という安い物件ならいくらでもあるのですから、安い中古物件」で練習をしてから、新築の物件を購入しても遅くはないのにです。
今の時代は、不動産との離婚のしやすさ、清算のしやすさというのは、とても大事なポイントなのですから。
では何故にこれだけ多くの人が、国や銀行、住宅、不動産、建設業界のセールストークに惑わされ、思うつぼに嵌ってしまい、高い新築物件という「処女物件」に目が眩 むのでしょうか?
老後の不安から、家だけは確保したいという心理が働くからでしょうか?
ですが、たったそれだけの理由で、一戸建てや高額なマンションを購入してしまうものなのでしょうか?
マイホーム神話が何故日本で蔓延したのか?
ここで女性論、家庭論に造詣が深く、女子大や短大で教職歴が長い、小倉千賀子さんの名著「結婚の条件」(朝日新聞社)をご紹介。
この本は「マイホーム神話は短大卒女性が完成させた」とも解釈できるパラダイムによって構成されている、ある種の名著だといってもいいでしょう。
その内容をざっとかいつまんで、拡大解釈をし、ゴマをパラパラと振りかけると次のような料理ができあがりました。
まず、短大卒の女性が持つ「専業主婦願望」は、とても強烈だというところから始まります。
そもそも短大の英文科や国文科に進学する女性は、入学時には明確な入学目的もキャリア計画も持たないことが多いのです。
自分が在学する間に、同じような階層の友人たちと同調競争し、職業も一時就労型で、友人たちが退職すると同じように退職し、友人たちと同じような結婚を志向します。
ですが、その結婚相手には自分が扶養されるのは当然であり、専業主婦として友人に恥じない相手を見つけ、やさしい夫と可愛い赤ちゃんに囲まれた幸せな家庭を夢見ています。
仕事と家庭を両立させる大変さからは、逃れたいのです。
ですから、とうの昔に最初就職した上場企業は辞めてしまっていることが多く、安定した給料を得られる仕事に再び就くというケースは、意外と少ないのです。
こうした彼女たちにとっての結婚というのは「依存」そのものとなってしまいがち。
これは、従来から女性学の世界では「短大生パーソナリティ」と呼ばれていたものだそうです。
つまり、高卒者の堅実さとも四大卒のキャリア志向とも違い、ただひたすら家庭でのパワー拡大を目指すというものです。
彼女たちは、この「依存」結婚を目指して、相手探しに専念します。
ただ、現実にはそんなに都合のいい男性ばかりではないため、晩婚化はヒタヒタと進行してしまったというわけです。
短大に入る女性には何の思想もない、といっては怒られますが、一般に「横並び教」の信者兼実践者であるのは間違いないところです。
彼女たちは、バージンロードを踏みしめるころには、早くも家が欲しくて欲しくてたまらなくなります。
そして当然のことながら、結婚しても常に家にいるので別にリスクが高くても一戸建てなら構わない、と考える傾向があるようです。
つまりこの傾向が、結婚相手の男に「男の城」という幻想で、マイホームをローンで買わせるのです。
日本人が世界に誇る「マイホーム神話」というウサギ小屋を邸宅と信じ込むことは、幸せ感に浸るための完璧なパターンなのです。
旦那の会社から2時間ほど離れたマイホームで、彼女たちは奥様雑誌を熱心に読みながら午後の一時をのんびりと過ごし、仕事や人生や男日照りに悩むキャリアウーマンに「あなたにはかなわないわ」と声をかけまくります。
ですがキャリアウーマン側も、家族とマイホームを写した彼女たちの年賀状を見るたびに「いい独身男なんていないわね」と不倫に熱中することになります。
キャリアウーマンは、心ひそかに「私ってこの先行かず後家かしら」と観念し、都内の高級ワンルームマンションに走るのです。
このようにして「マイホーム神話」は拡大されてきたというわけです。
こうして、短大卒専業主婦、四大卒キャリアウーマンが、結局最後に行き着く先は「一戸建て住宅」。
キャリアウーマンは、都内の高級ワンルームマンションに走る、というわけでこうした物件はローンでバンバン売れるわけです。
女性同士では「短大卒と四大卒とどちらが、結局、負け犬か?」という議論もあるようですが、そんなことはどちらでもいいのです。
結婚すると仕事で忙しい男は、家庭内での階級闘争においては、家でパワーを蓄えている女性に敗れることになります。
私は暇で、パワーを温存していますから、今のところ踏ん張っていますけどね。(笑)
こうした背景のため、ほとんどのケースで「男の城」と錯覚し「女の城」を30年ローンで買ってしまうのです。
考えてみてください。
毎日の仕事や残業、そして通勤に追われている人が「男の城」でゆったりとした気分で、のんびりと過ごした時間というのは、一年でどれくらいある ものなのでしょうか?
マイホームというのは実は「男の城」ではなく、妻と子が暮らすための「女の城」であった、というのがその実態なのではないでしょうか?
どちらにせよそれで二人が幸せなら、他人がとやかく口を挟むことではないのですけどね。
参考資料
小倉 千賀子 氏著「結婚の条件」(朝日新聞社)
立木 信 氏著 地価「最終」暴落(光文社)
酒井 順子 氏著「負け犬の遠吠え」(講談社)
山崎 隆 氏著 「マイホームは貸せる物件を買いなさい!」(ダイアモンド社)
出典
2007年4月14日